第35話:黒い悪魔。


 採掘所の入り口は結構狭い。人が三人並んで進めるくらいの幅しか無いし、高さは俺の身長より少し高いくらいだ。


 こんな所で魔物が大量にっていうのもピンとこないんだがなぁ……。


『世の中にはいろんな魔物がいるんだよ。多分ここに居るのは結構面倒な奴らかもしれないわ』


 面倒な奴等ねぇ?

 でも狭い通路に魔物なんか出たって結局あっちも一気にこちらを攻める事は出来ないだろう?

 一対一、多くても一対二って所じゃないか?


『そうだといいけれど……』

 なんだその含みのある言い方は。


『ちょっと嫌な予感するのよね。大昔に私の巣に大量発生した魔物の事思い出しちゃって』

 その時はどうしたんだ?


『一度巣から出て巣の中をブレスで焼き尽くしたわ。そうでもしないと対処しきれなかったんだもの』

 え、それって結構ヤバい相手って事か?


『弱いわよ。弱いんだけど……なんていうのかしら、とにかく数が多いのと、グロいのよ』


 数が多くてグロい……。あまり戦いたくないタイプだな……。


『あっ、君には分からないだろうけれど奴等が居るわ。音が聞こえる……一度ここから出た方がいい。急いでっ!』


 珍しくママドラが必死だったのでイリスを小脇に抱え、ネコの手を取って走る。


「ご、ごしゅじん? どうしたんです?」


 返事をする余裕は無い。

 俺にも聞こえてきた。ガサガサと採掘所の内壁を走り回る足音。そしてたまに羽音。

 聞いた事がある。俺でもこれは知ってる音だ……!


「ジジ……!!」


「ぎにゃあぁぁっっ!! 何ですかあれ! 何ですかあれぇぇっ!?」

「うるせぇとにかく走れっ!!」


 やっとの思いで採掘所から飛び出すと、奴等は陽の光が嫌いなのか、外まで出て来る事は無くぞろぞろと引き返していった。


『やっぱりあいつらか……』

 ゴキブリじゃねぇか!!

『ゴキブリ……? あいつらはゴリーブという魔物よ?』

 なんだっていいよ! クソがっ! しかも俺の知ってるゴキの十倍くらいのサイズだ。

 高い所から滑空とかもしてたように思う。


 あんなのが大量に発生して人に襲い掛かってくるとか地獄か……!!


『君もアレ苦手なの?』

 大っ嫌いだよっ!! 俺の一つ前の人生で暮らしてた世界じゃあいつらは黒い悪魔って呼ばれたりしてるんだぞ!

 ほとんど攻撃性は無かったからまだよかったが、こっちは人間襲うんだろう!?


『そうね……大群で獲物に憑りついて骨になるまで齧りつくすわね』

 ぎゃぁぁ……!! ここは地獄か! マジであり得ん……! しかも俺の知ってる奴等だったら増殖力が半端ないし全滅させたと思っても卵が残ってたりしてめんどくせぇ事になるんだ……!


『それはこちらでも概ね同じよ。だから私も以前巣ごと焼き払うしか無かったのよ……まっくろになった住処を綺麗にするの大変だったのよ?』


 そりゃそうだろうぜ……畜生、あんな奴等どうしろって言うんだよ。

 魔法で倒すにしても殲滅力高いやつは威力も高いからこんな採掘所崩れちまうぞ……!


 ママドラ! 何かいいの無いか!? 出来ればあいつらだけなんとか始末できるような……!


『難しい事を言うわね……あ、それならこの前の科学者とかどうかしら?』


 科学者……? あのマッド野郎か……不安しかないが、確かに科学者ならバ〇サンとかアー〇レッドとか調合できるかもしれないな。


『それは何?』

 奴等を皆殺しにする薬剤だよ!

『そんな便利な物があるの? だったらそれにしましょう! でも私の力使っちゃっていいの? あんなに嫌がってたじゃない』


 構わん! 今はそれどころじゃない! 過去の記憶に頼ってでもあいつらを死滅させないと俺に安息は無い!

 なんとかすると請け負ってしまった以上解決はしなきゃいけないし、自力で戦って倒すのなんて絶対にごめんだ!


『ほんとに嫌いなのね……』

 大っ嫌いだよっ!! まさかこんな所にきてまであいつらを目にする事になるとは思ってもみなかった。


 なんとしてでもあいつらを根絶やしにしてやる……!


『あの赤毛の冒険者に対する殺意よりも強い何かを感じるわ……』

 しょうがねぇだろ生理的に無理なんだ。前の人生で夜中にトイレに起きた時に奴等の集団に飛び掛かられた事が本気でトラウマで業者読んで駆除するまで眠れなかったんだぞ!


『よ、よく分からないけれど大変だったのね……』


 というかママドラがブレスで焼き尽くすとかはできないのか?

『君の身体だからブレス系はちょっと難しいかなぁ……もっと君がドラゴンに近くなってからじゃないと多分戻れなくなっちゃうわ』


 戻れないのはさすがに困るな……。


 だったらやはり薬品関連で始末するしか無いか……。


「ご、ごしゅじぃぃん……あ、あれなんだったんですかぁ? 怖すぎて腰が抜けちゃいましたよぉぉ……」

「任せろ、俺が絶対に奴等をぶっ殺してやるからな……」


「ご、ごしゅじん……! 今すっごくかっこいいですぅ……」


「えっ、そ、そう……?」


 そんな事言われ慣れてないから普通に照れてしまった。


『その童貞ムーブが無ければ本当にカッコ良かったかもしれないわね』


 う、うううるさいわっ!

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