第31話:パパ=ママ。


「オニーサン到着ヨ」


 あの後妙にドキドキしながらも恐ろしい眠気に襲われてぐっすりと寝てしまい、起きたらもうデルドロに到着していた。


 ちょっと気になったんだけど、ママドラの力使った後めっちゃ眠くなるけど、連続で力を使い続けたらどうなるんだ?


『べつに? その後の眠気が酷くなるくらいじゃないかしら? あとは女子力が上がる』


 いや、そういう事じゃなくてだな……その言い方だと一度使ったらしばらく使えないとかそういう訳じゃなさそうだな?


『あぁ、そんな心配をしてたのね。別に使えると思うわよ? 最悪の場合その身体を私が使ってどうにかしてあげるわ』


 えっ、何それこわい。


『私は君の一部だけど、君も私の一部なのよ? 君が意識ない間なら主導権を握る事なんて簡単だわ。今だってやる気になればできるけど、乗っ取りとか言われたら心外だからやらない。今の状態だと私の力も限度があるしね』


 ……結局のところ、俺は力を借りる側の人間で、俺の身体はママドラに掌握されていると言っても過言ではない。


 そんな、今後あるかもしれない恐怖に震えていると馬車は既にデルドロのゲートまで到着していて、イリスが「見て見て!」と出来立ての身分証を門番に向かって見せつけていた。


 なんて可愛いんだろうと思ったのは俺だけではないらしく、門番も顔がニヤケている。

 うちのイリスに近付かないで下さい。


 というか本来俺達も全員身分証を見せる必要があるのだが、あの門番の野郎イリスを見てニヤニヤしただけで俺達全員通しやがった。

 ああいう奴がロリコンになるんだ俺には分かる。


『経験者は語るというやつね』

 経験してねぇ。


『君は経験した事があるのよ? 今はその記憶が無いだけでね』

 認めたく無いんだがなぁ……。


 どっちにしてもこの街の警備体制がずさんな事は分かった。


 もしかしたらおっちゃんが顔広いだけかもしれないが。

 商人としてあちこちの街に行ってるなら顔パスになってても不自然ではない。


「オニーサン、ワタシ馬車を宿に停めさせてもらいに行ってくるネ。宿はこの大通りを突き当りまで行って右に曲がった所ヨ」


「あぁ、分かった。じゃあしばらくしたら俺達も宿まで行くよ」


「街中を散策するんですか?」

「別にネコは真っ直ぐ宿に言っててもいいけどな」

「にゃんにゃんも一緒がいいなー♪」

「そうだね、一緒に行こうか」

「やっぱり私の扱い適当すぎませんかぁ……?」


 ネコが何か言ってるが気にしない。

 しかしなんでこいつこんなにニヤニヤしてるんだ……?


「うへへ……」

「なんだお前……いつもより更に気持ち悪いな……」

「酷いですぅ……でも私今日はご機嫌ですよ♪ なにせごしゅじんが私の事ネコって言いましたからね!」


 ……はぁ? そんなの普段から言ってる気がするが。


「なんでそこで不思議そうな顔するんですかぁ? 今までは大抵馬鹿ネコだったじゃないですか。それがネコになったんですよ!? 馬鹿が抜けたんです素晴らしい事なんですよっ!」

「はいはいそうですかー」


 ネコ呼ばわりする事自体は問題無いらしい。なら今後もネコでいいか。

 ユイシスよりもしっくりくるんだよなぁ。


「こらイリス、あまり一人で先に行くんじゃないよ」

「まぱまぱーっ! 見て見て! なんか美味しそうなものがあるよーっ!」

「ほんとですかっ!? あ、凄くいい匂いしますよごしゅじん行ってみましょう早く早くっ!」


 今いる場所からは特に食べ物の匂いを感じる事は出来なかったが、ネコは獣人だけあって嗅覚も鋭いのかもしれない。


 手を引かれイリスが居る方へ向かうと、そこには何やらヘラのような物を振り回す男性がいた。


 どうやら麺のような物を炒めているようだが……。

 近付いて行くとその正体が俺にも分かった。鼻をくすぐる香ばしい匂い……これは、焼きそばだ!

 この世界にも焼きそばがあるのか?


 たこ焼きといい焼きそばといい、ジャンクフードの方向性が日本に似ている気がする。


「デルドロ名物デルドロダスパだよーっ! そこの兄ちゃん、彼女さんと一緒にどうだい?」



 なんで名前はパスタ寄りなんだよ……。それによく見たらソース的な物も使ってるけど一緒に野菜で作ったソースも混ぜてるのか。


「うにゃーっ♪ ごしゅじんごしゅじんっ! 私がごしゅじんの彼女ですって!」

「そんな訳があるか。お前は彼女じゃないしせいぜいペットか何かだろ」


 しかし匂いは完全に焼きそばだな……。

「じゃあ三つくれ」

「三つ? 二つじゃないのかい?」

「イリスも居るもんっ!」


 出店を出しているおっさんの位置からは、すぐ目の前に居るイリスの姿が見えなかったようだ。


「あっ、もしかして娘さんかい? こりゃ恋人じゃなくて奥さんだったか、すまんね。デルドロダスパ三つちょっと待ってな!」


 ……もう否定するのもめんどくさいので愛想笑いを返してデルドロダスパとやらを受け取る。


「ほらイリス、あと……ほれ、ネコの分だ」

「わーい♪ おいしそーっ! あそこに座ってたべるーっ!」


 イリスはダスパを受け取ると近くに備え付けのベンチに向かってとことこ歩いて行ったのでその後ろを追いかける。

 ふと振り向くと、ダスパを持ったままネコが固まっていた。


「おい、早く来い馬鹿ネコ」

「つ、つ……」


 ……つ?


「妻に向かって馬鹿ネコは無いと思いますぅ♪」


 ……。


「奥さんに向かって、そんな酷い事言ったら……って、あれ? なんで怒ってるんです? ちょっと怖いです来ないで下さいごめんなさいごめんなさいちょっとした悪ふざけですあやまりますからゆるし、ぎにゃーっ!!」


 とりあえず、アホな事言ってる奴には脳天に一撃入れておけばいい。


「生憎だがイリスのパパもママも俺なんだわ」

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