第30.5話:運命の出会い。(アドルフ視点)


 俺達が滞在するこのデルドロという街は大きく二つに分かれていてそれぞれ管理者が違うらしい。


 俺は街の人から話を聞いて、より糞野郎の方へ出向いた。


 欲に目が眩んでいる人間の方が操りやすく、付け入りやすい。


 どうやらこの街の管理人の一人が息子に権利を譲ったそうだが、その息子と言うのが絵に描いたような愚か者。

 まさに俺が食い物にするに相応しい。


 そう思ってライアンという貴族の元へ出向いたのだが……そこで思わぬ出会いをする事になった。


「あら、貴方もここに用事かしら?」


 見るからに冒険者、といった外見の女なのだが、パッと見ただけでも分かる。こいつはヤバい。


「……お前には関係ない」

「あらあら、随分そっけないわねぇ。私には分かるわよ……貴方、かなり悪い人でしょう?」


 悪い人、と来たか。

 確かに俺は善人では無いだろう。しかし、どこの誰とも知れぬ女に言われる筋合いは無かった。


「俺にも分かるぞ。少なくともお前は俺以上にろくでもない女だってな」


 見た目はこの上なく美しい。

 全てを見通すような赤い瞳。まるで作り物のように整った顔、そしてボディライン。

 風になびく紫の髪は見る者を虜にしてしまうだろう。

 そして、何よりこの女から感じる不思議な感じはなんだ?


「酷い言われようね? 腹の探り合いは嫌いだから貴方みたいなどす黒い人には正直に言うわ。私○○で、ついでに●●なのよ」


「……」


 俺は今どんな間抜けな顔をしていただろうか。


 にわかには信じられない内容であるにも関わらず、俺はその一言でこいつの言葉が本当だと信じてしまっていた。


「私ね、この街の問題をもっと引っ掻き回してやろうと思って、今ここの坊やにちょっといい話をしてきてあげた所なのよね」


「……それで?」


 まさか今代で選ばれたのがこんな女とは……しかし、俺はこの女の言い知れぬ魅力に引き込まれていた。


「貴方合格よ。私のパーティに入りなさいな♪ 欲しいでしょう? 富と、名声」


「ふ、ふははは……! いいだろう。この俺を仲間に引き込むなんていい判断だ!」


「貴方今仲間は居る?」

「ああ、連れの女が一人いるが、置いていけというなら構わない。ここに置いていく」

「んー、別にいいわ。じゃあその子も私のパーティに入れてあげましょう♪ 今私一人旅中だから丁度いいわ」


 別にエリアルは一緒でなくても構わなかったのだが……女っ気は大いに越した事はないな。


「分かった。それなら伝えておこう。きっとそいつも喜ぶさ」

「うふふ……思っても居ない事を平然と言ってのけるのね。気に入ったわ」


 あぁ、こいつには俺を偽る必要が無いのか。

 偽っても見透かされてしまう、というのはもっと嫌な気持ちになるかと思ったのだが、その逆だ。


 そのままの俺を受け入れてくれる。

 俺はこの女がどんな楽しい事を見せてくれるのか気になって仕方がない。


「じゃあ私と一緒に来るって事でいいかしら?」


 返事をどうしようか考える前に俺は口を開いていた。

 あまりに自然に、当たり前のように。


「当然だ」


「いい返事ね。あと数日も経てばこの街で大きな問題が起きるわ。私達はそれを待って、もう一人の方へちょっかい出しにいきましょうか♪」


 もう一人。

 このライアンという奴ではない方の管理者か。



 そうして俺とエリアルの運命は大きく変わった。

 富と名声は確約されたような物だ。

 この街での余興なんてそれこそただの遊び。

 この女もただ引っ掻き回して楽しもう、というスタンスだった。

 今からこの先俺が進む道を考えるだけで胸が高鳴る。ここでこいつと出会えた事は俺にとって運命だと断言できた。


 結果的にこの後、女の目論見通りの騒ぎが起きる。そして、俺は女に連れられてオリオンという男の館へ行くのだが……。


 俺は改めて驚いたね。

 シャンティアで俺も結構な要求をしたつもりだったが、この女はそれどころでは無い。

 明らかに断られるの前提の提案だったのだろうが、起きた問題はそれだけこの街にとって大きな物だった為オリオンは苦渋の決断をした。


 きっとこの女は悩み苦しむオリオンの表情を見たかっただけなのだろう。

 本当にいい趣味をしている。

 エリアルはかなり難色を示していて、俺と二人だけになると「あの女は危険よ」なんて言うのだが、笑わせてくれる。そんな事は最初から分かりきっているのだ。


「嫌ならお前は来なくていい」

 その一言でエリアルは涙目で

「私を捨てないで! 私が悪かったわ。もう余計な事言わないから!」

 と態度を変える。


 本当に扱いやすいメス豚だ。



 




「聞いたかあの話」

「あの話って?」

「今朝シャンティアから帰ってきた友達が言ってたんだけどよ、ほら、あの街ってスラムあっただろ?」

「あぁ、あのなんちゃらファミリーとかが牛耳ってるとこだろ? どうした、何かでかい騒ぎでも起こしたのか?」

「いや、それが……壊滅したらしい」

「……は?」


「……は?」


 思わず声に出てしまった。


 あの女から次の目的地を聞き、明日にはそこへ向けて出発しようという時だった。

 街の人がそんな会話をしていた。


 不愉快。


 シャンティアのスラムといえばギュータファミリーのテリトリーだ。

 俺への依頼がまさにギュータファミリーにさらわれた人物を救出する事だった事を考えると、俺達の後に依頼された奴がやったのだろうか?


 別に興味は無い。無いのだが、非常に不愉快だ。


 俺が見逃した案件を横から奪っていくような姑息な真似……気に入らない。


 その依頼を受けた奴はどんな奴だろう?

 俺よりも少ない報酬を要求したのは間違いないはずだ。

 それどころかただの正義面した阿呆の可能性もある。


 ……まぁいい。そいつがどんな奴だったとしても俺の人生に絡んで来る事はないだろう。

 万が一にも俺が歩む先にそいつが立ちふさがるような事があればその時に改めて殺してやればいい。


 ただ、些末な問題だとしてもこの不愉快な気持ちは消えない。


 むしろ俺の前へ出てこい。どんな相手だろうと俺が殺してやる。


 さすが特別なだけあってあの女は素晴らしいスキルを有していた。

 経験値加速。

 同パーティの仲間の成長速度を著しく高めるスキルなのだそうだ。

 俺はこの街に滞在する間ひたすら近隣の魔物を狩り続けた。


 今の俺は誰にも負ける気がしない。

 いや、元々負ける気など存在しないのだが、敢えて言うのであれば……そう。


 今の俺に殺せない相手など居ない。

 どんな奴か知らないが早く俺の前に現れろ。

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