第21話:子連れアサシン。


「な、なんじゃぁおのれはーっ!」


 やべっ。

 騒ぎがデカくなる前に一気にやるしかない。


 俺は窓を突き破って部屋の中へ突入。入る時にイリスが怪我しないように気を付けなきゃいけないのがちょっと大変だった。


「貴様何者だ!? ノインに頼まれたのか!?」


「ノインってのが誰か知らねぇがお前の命は貰っていくぜ!」


 あのデカブツがそれを阻止しに来るかと思ったが、驚いてはいるものの一切動こうとはしなかった。


 その為、ボスがめちゃくちゃ強いっていう可能性が頭をよぎったが……。


 その場で横回転しながら遠心力で力を増し、逆手に持った短剣を高速で思い切りこめかみに突き立てる。


「何してる! お前の出番だガレス! こいつをころ……」


 ……ボスらしき男は側頭部に短剣を生やした状態でゆっくりと床に倒れた。


「ふぅ。なんだよ拍子抜けだな……」


 ガレスと呼ばれたガタイのいい男は俺よりも床に倒れたボスを睨みつけているようだ。


「……こいつに恨みでもあったのか?」


「……ここに居る奴でギュータに恨みの無い奴などいない」


 ……どういう事だ? こいつらも人質でも取られてたのか?


「不思議そうな顔だな……。ここにいるのは大抵がこいつに騙されて多額の借金を背負ってる奴ばかりだ。それをチャラにする代わりにタダ働きをさせ、俺達自身の命を握られていた」

「でもこいつ弱いじゃんか。あんたなら余裕で……」


「俺らの身体には爆発物が埋め込まれている。その男の指輪、それがスイッチになっているらしい」


『へぇ人間は面白い事を考えるものね』

 何が面白いものか。


「しかもその起爆スイッチを押せば全員が同時に爆殺される……他の奴等の事を考えると無茶は出来なかった……」


「なるほどな。お前等が憎みつつ手を出せないこいつを、俺が殺してくれそうだったから手を出さなかったのか」


「……そういう事だ。どこの誰か知らないが礼を言う。正直いうとまだ実感がわかない。本当に俺は自由になれたのか……?」


 ギュータファミリーとか言いながら実際はボスが全員を恐怖で支配していただけで人徳も何も無かったわけだ。


「だったらボスが死んだ事を皆に伝えてやれよ。……あ、それとここに捕らわれてる奴を探してるんだが場所分かるか?」


「それなら地下牢に纏めて放り込んである。悪いようにはしていないから安心してくれ」


「……ボス以外の奴に良識があって助かったよ。ちなみに聞いておきたいんだが、今日ボスに依頼されて俺の所に来た二人組が居たんだが、あいつらにも爆発物が仕掛けられてたのか?」


「……あぁ、確かにそんな奴等がいたな。アレは金で雇われていたからおそらく俺達とは違うだろう」


「そうか」


 あいつらの様子からして命を握られている感じはしなかったけれど、場合によってはあいつらの命も危険にさらしてた事になるからなぁ。


『どっちみちうまく行ったんだから気にする事ないでしょうに』

 俺は心配性なんだよ!


「地下室に行くには一階の階段裏にあるスイッチを左からオン、オフ、オンだ。覚えておくといい」

「おんおふおーん!」


 黙っているのに我慢できなくなったのかイリスがはしゃぎだす。まぁ一通り終わった後だからいいけど。


 スイッチが三つあってオン、オフ、オン……やっぱり地下室先に探そうとしても無駄だったな。


「助かる。じゃあ俺は地下へ行くから、お前らもさっさと解散しろよ?」


「もう一度礼を言わせてくれ。ありがとう子連れアサシン」


『子連れアサシン! あはははっ!!』

 笑うなって……。お前には分からないだろうけど子連れなんとかってのは悪くない肩書きなんだぞ?


『……そうなの? ちょっと理解できないわ』

 日本人にしかわかんねぇよ。



 俺は一階まで降り、階段の裏側へ回り込むと、ガレスの言う通りスイッチが三つあって全部がオフと書かれた方に傾いていた。

 左から一つめと三番目をオンにすると、足元がガコンと窪んで地下への通路が現れる。


 なかなか面白い仕掛けだな。

「ちかしつだーっ! れっつごー♪」


 階段を下っている最中、上の階がやたらと騒がしくなった。

 おそらくガレスが皆に事情を伝えたんだろう。上の階から「子連れアサシン万歳!」とか聞こえてくる。


 つくづく入り口の二人を殺さなくて良かった。

 そろそろ意識を取り戻しているだろうか? 誰かが見つけるだろうし介抱してくれるだろう。


 そんな事を考えながら下りきると、薄暗い空間に檻があってその中に四人ほど捕らえられているようだった。


「おっちゃん、無事か?」

「ぶじかー?」


「お、オネーサン……いやオニーサン? どっちネ!?」

「俺は男だっつの。とにかく無事で良かった。助けに来たぞ」


 おっちゃんは「無事で良かったヨ……」と胸をなでおろした。

 俺達の事を話してしまった事を悪いと思ってるんだろうけど、自分が生きる為に仕方なく、だろうから責める気にはなれない。

 むしろそのおかげでここが突き止められたわけだしな。


「細かい事は気にするな。牢を開けるからちょっと待ってな。他の三人も助けてやる」


 おっちゃんの他には男性が一人、女性が一人……そして、一人だけ布団に寝かされている子供が一人。

 布団と言ってもほとんどただのボロきれだけれど。


 ママドラ、鍵開け。

『はいよ。怪盗スキルで大丈夫かしら』


 むしろ怪盗スキル以外にも鍵開け系があるのか?

『あとは大泥棒と脱獄常習犯があるわ』


 ……聞かなかった事にしよう。


 俺がママドラの巣で使ったのとは違うスキルのようだが、問題無く鍵を開ける事が出来た。


「あ、ありがとう……助かった」


 男性は旅人で、何もしらずに西ブロックに来てしまった事で身ぐるみを剥がされたらしい。

 おそらくこの後爆発物を仕込まれて部下になる予定だったのだろう。

 牢が開いたら「こんなとこ二度とこねぇぞ!」と言って一目散に逃げていった。


 そしてもう一人の女性は、何故かあまり嬉しそうじゃなかった。


「お願いします……! 妹を助けて下さい」


 えぇ……? この展開どっかで見覚え無いか?

『なんの事かなぁ?』


「妹の具合がどんどん悪くなって……このままでは死んでしまいます!」


 必死なのも時間が無いのも分かるんだが普通の冒険者に頼む事じゃねぇだろうよ。

 俺は普通の冒険者じゃなくなっちまったから診るだけ診てみるけどよ。


『む……? これは……わくわく♪』


 お前がわくわくする時点で嫌な予感しかしねぇんだが。


『この感じは知ってる。この少女、病気なんかじゃないわよ』

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