第19話:襲撃者の真実。


「お前等うちの天使に感謝しろよな?」


「た、助けてくれるのか……?」

「すまない……すまない……!」


「ずぎょっ! ずびびーっ!」


 いびきうるせぇ……。


「そもそもお前等はなんでこんな仕事してるんだ? 一応聞かせろよ」


「俺達は双子の兄弟なんだ。……妹が、病気で……治す為には金が必要なんだ。普通に働いてもどうにもならなくて……」

「弟は悪くないんだ! 俺がこいつを誘ってデルドロまで出稼ぎに……でもそっちでありつけそうな仕事がデカ過ぎて俺達じゃ……だから仕方なくここのスラムに……」


 デルドロって言えばシャンティアよりデカい街じゃねぇか。こいつらの言ってる事が本当だとしたら確かに心が汚いとは言えないかもしれないが……それでも盗みは犯罪だ。


「妹は治る病気なのか?」


「治る……魔導手術さえ受けられれば……」「でも、それには三百万ジャイル必要で、月に七万ジャイルしか稼げない俺達じゃ正攻法は無理だったんだ……」


 三百万か……確かにそりゃ厳しいな。別に月七万が少ない訳じゃない。ダリル王国内では平均的な収入だろう。二人合わせて十四万だとしても、魔導手術といえば最先端医療だから高額なのは仕方ない。


「妹はこの街に居るのか? もし居るなら俺が治してやってもいいが……」


 多分治せるだろう。ママドラの力を借りなきゃいけないだろうが。


「いや、妹は……今王都に居る」

「病院に居るんだ。俺達はあちこちで稼いだ金を送金して……それでなんとか診てもらってる」


「でも手術を受けないと完治はしないんだろ?」


 それでこの二人は汚い仕事をしているってところか。


「だったらお前等もう王都へ行け」


「俺らが帰ったって何も変わらねぇよ……」

「手術代をどうにかしないと」


「王都に居るんだろ? だったらコレ持ってけ。王都で換金してもらいな」


 二人にママドラ財宝の中から査定額三百万を超えるように適当に見繕ってやった。


「鑑定書付きだから概ねその金額で交換できるはずだ。その代わり王都までの交通費は自分でどうにかしろよ?」


「……」

「……」


「なんで黙る?」

 急に無言になられると怖いんだが。


「し、信じられねぇ……」

「夢でも見てるみたいだ……」


「だったらその夢が覚める前に王都へ行って妹を治してやるんだな」


 誰かに施す為に財宝持ち歩いてるわけじゃねぇんだけどなぁ。これも成り行き上仕方ない。それになにより、綺麗な心だってイリスが言うなら俺はそれを信じる。


「その代わり次にまた何かしでかすような事があればその時は一切の容赦はしないぞ。これからは真面目に働けよ?」



「あぁ、勿論だ……! この恩は一生忘れねぇ……俺はレイズ。弟のこいつはロイズってんだ。いつか必ず借りは返すからな!」

「本当にありがとう……!」


 二人は泣きながら何度も感謝を述べて、窓から出ていった。勿論ギュータファミリーとやらのアジトの場所は聞いてある。

 普通に出て行けよ……と思ったけれどよく考えたらこんな夜中に宿を出ていくのも不自然だし出入り口閉まってるもんな。


 さて……じゃあ俺はこのまま西ブロックまで行っておっちゃんを助けてくるか。

 馬車がここにあるのでそのまま頂いてしまってもいいのだけれど、さすがにここまで世話になったし見捨てていくのは忍びない。

 それにそいつらに掴まってる人々もいるみたいだからついでに助けられそうなら助けておこう。


『君はどうして自分から面倒事に首を突っ込むのかしらね……』

 しょうがないだろ。一応最低限人の道は踏み外さないように生きていきたいもんだ。


『ふぅん。自分を嵌めた二人を殺そうとしてる奴の言葉とは思えないわね』


 あいつらはいいんだよ。外道には外道に相応しい最後ってもんがあるだろ?


『外道ねぇ……だといいけれど』


 なんだその含みのある言い方は……。


『べっつにー♪ たださっきの奴等みたいに誰にでも何かしらのそうする理由ってものがあった可能性だってあるでしょう?』


 ……あいつらが俺を殺す正当な理由があったっていうのか?


『さぁ? 私が知る訳ないじゃない。そういう可能性だってあるよって話よ』


 ……俺を崖から落とす理由? あんな事に正当な理由があってたまるか。

 万が一俺を落とす理由があったのだとしても俺は殺されたんだぞ? だったらどっちにしても同じ事だ。


 ……今そんな事を考えていても仕方ない。とにかくおっちゃんを助けに……。


「まぱまぱどっかいくの?」


 あぁ、イリスが起きちゃってたんだった。どうすっかな……。


「ずごぴぴーっ! ずんごごっ! ……おっ、お腹の子がぁぁーっ! ごびびっ」


 こいつどんな夢見てやがるんだ……ユイシスはこのまま放置でいいとして……。


「パパはちょっと悪い奴を懲らしめに行ってくるからいい子にしてるんだよ」

「あたしもいくーっ♪」


 参ったな……。


「いくったらいくのーっ!」


『イリスは言い出したら聞かないわよ? おいていったら後を追いかけていくかもしれないわね』


 それ本気で言ってる?


『さぁ、君はどう思う?』


 そう言ってママドラは笑う。

 こいつ俺を追い詰めて力使わせたいだけだろ……。


『バレちゃった? でもほんとに後をついて行きそうなくらいよ?』


 イリスは「あくにんぶっころっ!」とか言いながらまた虚空にジャブを放っている。


「はぁ……分かった、じゃあイリスも一緒にいくか。その代わり俺から離れるのは禁止だからね」


「うん♪ まぱまぱだいすきーっ♪」


 イリスを抱きかかえたまま窓から出て壁に軽く張り付きながら地面まで降りる。


「すごい、まーごすみたい!」


 マーゴスというのは、まぁトカゲみたいなもんだ。出来ればもう少しビジュアル的に良い物に例えてほしいもんだけど、蜘蛛系じゃないだけマシかな。


 ……少しだけ身体が痛い。

 自分の身体能力の限界を超えた動きをしているせいだろう。

 早くやる事やっちまわないとまたママドラの力を使う羽目になる。


 俺はイリスを肩車し、闇を駆ける。

 目指すは西ブロック、ギュータファミリーのアジト。


『君はそんなに私に頼るのが嫌なのかしら?』

 頼るのが嫌なんじゃなくてだな……!


 まぱまぱからママになっちまうのが嫌なんだよ。

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