第14話:バランス崩壊。
「天楼斬魔剣!!」
俺の身体から凄まじい力が溢れ出し……溢れ出し……溢れ……出さない。
あれっ?
『あっははははっ! まぁ当然そうなるわよね』
こいつ……最初から分かってやがったな?
俺に恥をかかせる為にやったのか!?
「もーっ! 何やってるんですかばかーっ! あほーっ! まぬけーっ! おたんこナースっ! よわよわっ! 童貞っ!!」
「ど、どどど童貞ちゃうわっ!」
嘘だけど。
俺の影に隠れるように服をがっちりつかむ馬鹿ネコを引き剥がし、こちらへ飛び掛かってくるウェアウルフにレベル測定不能の剣技を繰り出す。
『やめておいた方が……って、もう遅いか』
飛び掛かって来ていたウェアウルフ六体が一瞬にして爆発した。
「うわっ!?」
あまりの出来事に自分で悲鳴をあげてしまったが、高速の斬撃に魔物が一瞬で細切れの肉塊に変わり弾け飛んだため、爆発したと勘違いしてしまった。
……すげぇ、なんだこれ! 俺強すぎる!!
これならあいつらに復讐するのなんて余裕じゃねぇか。
「おらおらどんどんかかってこい!」
警戒して距離を取るウェアウルフ達を睨みながら、俺はその場に崩れ落ちた。
あ……れ??
なんだ? 指一本動かない。言葉も満足に話せない。空気を吸い込む事すら、苦しい……。
これは、死ぬ。
『やれやれ、その貧弱な身体で無理するからそうなるのよ。もう少し身の程をわきまえた方がいいわ』
分かってるなら早く言え……!
測定不能にまで高められた剣技に俺の身体が耐えられなかったらしい。完全に盲点だった……!
『ほらほら、魔物達がやってくるわよ? このままじゃ食べられちゃうわねー♪』
てめぇ……何でそんな楽しそうなんだよ。
『ほらほら、私を頼ってくれてもいいのよー?』
こいつ嵌めやがったな……!
こうなってしまったからには仕方ない。思惑に乗るのは本当に嫌だけど、こんな所で死ぬわけにはいかん。
不本意だがやるぞ!
『はいよっ♪』
ママドラの力を全身に行き渡らせる。
先程までの苦しさが嘘のように消えうせ、身体がふわりと軽くなった。
「ごしゅじん、髪が……!」
「いいからイリスを連れてこの先に居る馬車に行け」
「で、でも……」
「心配はいらねぇよ」
「分かりました……じゃあ、帰ってきたらちゃんと抜いて……」
「はよ行けや!!」
ほんとにあの色ボケ馬鹿ネコ……!
『あの子からはなんだか不思議な物を感じるわね』
不思議っていうかクレイジーなだけだろうが。
「ちくしょうめ、こうなりゃ思い切り八つ当たりさせてもらうぞテメェら……!」
伸びた髪の毛が風に揺られて頬をくすぐる。
はぁ……またこれ元に戻すのに時間かかるじゃねぇかよ。
『最初ほどは苦労しないはずよ。一日くらいで元に戻るんじゃないかしら?』
一日……最初よりはかなりマシだがそれでも結構キツイもんがある。
「グルルル……」
おっと、脳内会話してる場合じゃ無かった。
気が付けば俺の前方に全てのウェアウルフが集まって飛び掛かるタイミングを計っている。
今の俺には剣聖技が使えなかった理由がきちんと理解出来ていた。
圧倒的に魔力が足りなかったのだ。
俺の前世で剣聖まで上り詰めた奴は、元々類まれなる魔力を持ちながら、極限まで剣技を極めた事で上位スキルを発現したのだろう。
「お前等覚悟しやがれ」
俺のテンションは人生で最高レベルに爆上がり中だ。
レベル7まで鍛え上げられた剣聖の技……ゆっくりと剣を振りかざし、その力を解き放つ!
「天楼斬魔剣っ!!」
ずごわっ!!
目の前が一瞬真っ白になった。
輝きと、衝撃波と、あと、えっと、もうよく分からない。
爆煙があたりを包み込み、逆に視界が遮られてしまったのでしばらく警戒していたが、煙が消えた時そこにはもう魔物の姿は無かった。
「……おい、これどうすんだよ……」
『調子に乗ってぶっ放したのは君でしょう? 私に言われても困るわ』
確かに魔物は全て一撃で消し飛ばした。
だが、俺の目の前にどデカいクレーターが出来ている。
今後ここを馬車が通れるようになるのはいつの事だろうか……。
「……見なかった事にしよう」
俺はそそくさとその場から逃げた。この先ここを通る人よ、すまん。多分大きく迂回すれば何とかなると思うから許してくれ。
次からスキルの使い方だけじゃなくてもうちょっと記憶多めで頼む。どのくらいの威力か分からないと怖くて使えねぇよ。
『確かにそれもそうね……考えておくわ』
「いやぁおにーさん、いや、オネーサン? 魔物の群れを倒すなんてとても強いネ! このまま用心棒として雇わせてほしいヨ!」
馬車に戻ってイリスの頭をわしゃわしゃ撫でまわしつつ馬鹿ネコの頭を小突いていたらおっちゃんがそんな提案をしてきた。
「この街道はそんなに物騒なの?」
「最近はシャンティア近辺で物取りが出るネ。奴等奴隷には興味ないから今まで安全だったケド今は高価な宝石持ってるから不安ヨ」
物取り……? 野党でも居るんだろうか?
「それなら乗せてもらってる間の用心棒はサービスしてあげるわ」
「オネーサン出世するネ間違い無しヨ!」
「あのー、ちょっといいですかー?」
私がおっちゃんとの会話を終えて馬車から顔を引っ込めたところでユイシスが妙な事を口にした。
「ごしゅじんって……女の子だったんです?」
「何言ってるの? 私は……あれっ?」
……待て、何かおかしい。
「俺もしかして女言葉になってた?」
「なってましたねー」
おいママドラ! ど、どどどういう事だ説明しろ!
『私と同化して女の子になったからよ』
いや、前の時そんな事なかったじゃんよ!
『だって私の力使ってればバランスが女の子に傾くのは仕方ないじゃない』
「なんでそういう事を早く言わないんだお前はっ!」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!」
「い、いやお前の事じゃ……」
つい口に出して叫んでしまったので馬鹿ネコが怒られたと勘違いして涙目になっている。
「にゃんにゃん、あのね、まぱまぱの中にはぱぱとままがいるんだよー?」
「……」
「なんだその目は」
「本当の自分を偽って生きていくのって、辛いですよね。ごしゅじんも大変なんですねぇ……」
「やめろ! 可哀想な人を見る目で俺を見るな!」
絶対こいつ何か誤解している!
『あははははっ♪』
笑いごとじゃねぇ!
おいおい、俺がママドラの力を使えば使うほど女になっていくのか??
『かもしれない』
「ふざけんなっ!!」
「ふにゃぁっ! ごめんなさい怒らないでぇ……」
「だからお前じゃねぇっ!!」
こりゃいよいよ気軽に力を使う訳にはいかねぇぞ……。
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作者の前作を知っている方ならば何かデジャヴる部分があるかもしれませんね(笑)
大きな力を使うという事は常にリスクを伴うという事で♪
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