第13話:上位スキルの価値。


「まぱまぱ! にゃんにゃんが大変だよ助けてあげないと」


 イリスが俺の袖をぎゅっと掴んで澄んだ瞳で見上げてくる。


「イリスはいい子だなぁ。よしよし」


 その頭を撫で、気持ちよさそうな顔を見ながら立ち上がる。

 面倒だがイリスに頼まれちゃ仕方ない。


「おいおっちゃん! 後ろから魔物が来てるから俺は降りて対処するよ。このまま少し離れた所で待っててくれ」


 馬車を操っているおっちゃんに声をかけると、「大丈夫なのか? 死なれてモ目覚めが悪いヨ!」なんて、一応心配してくれた。


「大丈夫。それより、イリスは預けておくから……逃げたりイリスを連れ去ったり、良からぬ事を考えたら地獄の果てまで追いかけて八つ裂きにするぞ」


「し、しないヨ! こう見えても私お金持ってる人のミカタよ!? 万が一オニーさんが死ぬような事があったら必ず死体を漁りにいくネ! 一人で逃げたりしないヨ!」


 こいつ筋金入りだな……。

 でも、信じてるだとか信じてほしいだとか言い出す奴よりよっぽど安心だ。


「よし、じゃあイリスを頼むぞ」


「行ってラシャーイ!」

「じゃあちょっと行ってくる」


 俺はイリスの頭を一撫でして、にっこり笑いかけてから馬車を飛び降りる。


「あわわわっ!!」


 そうだ俺は今普通の人間なんだから馬車から飛び降りたりなんかしたらこうなって当然である。


 一瞬でバランスを崩しごろごろ転がってしまった。


『あの子を馬車から蹴り落としたりするからバチが当たったわね』

 ほんとに奴は疫病神かなんかか?


 俺は服の埃を叩き、ゆっくりと腰に下げた剣を抜く。


 この剣もママドラの巣から頂いた宝の一つで、魔法剣とかでも無いし特別豪華な装飾が施されている訳でもない普通っぽい剣。

 戦いに使うならこれくらいがいいだろうと思い頂いて来たのだ。


「にぎゃーっ! はやくたーすけてーっ!!」


 ドタバタと土煙をあげながら馬鹿ネコは逃げ続け、こちらに向かってくる。

 なかなかいい逃げ足だなぁなんて感心しながら、俺はママドラに記憶の引き出しを頼んだ。



「ママドラ、確か剣聖の記憶があっただろ? それ頼む」

『はいよっ! でも記憶は容量デカ過ぎるからスキル関連だけにするわね』


 スキルが得られれば十分だ。


 俺の頭の中にふわりと戦い方が降りてくる。

 この記憶を持ち続ける事が出来ればどれだけ今後楽になるだろうか。

 ママドラ曰く他の人生から引き出した記憶を身体に定着させようとしたらかなり脳に負担がかかるとの事で、毎回引き出しては戻し、を繰り返さなければならない。

 面倒な仕様ではあるが、それでも俺なんかが戦えるだけの知識を得られるのはありがたい。


 ステータス表示を開くと、確かにスキルが追加されていた。


 レベル:26

 種族:不明

 職業:剣士

 通常スキル:剣技レベル測定不能

 上位スキル:剣聖技レベル7

 特殊スキル:特に無し


 種族……不明だぁ? ママドラと同化して俺は人間やめちまったのか?


 いや、今はそれよりスキルだ。剣技レベル測定不能もちょっと意味が分からないんだが、剣聖技レベル7はイカレてるとしか思えない。



「ちょっとごしゅじぃぃぃん!!」


 なんか聞こえてくるけどちょっと待て。今それどころじゃない。


「あっ、あのっ! ごしゅ……」


 上位スキルという物は本来、人が何かの道を極めたところでようやく発現するかどうか……。そういう代物だ。

 元々生まれ持って上位スキルを持つ運のいい奴も歴史上何人かいるらしいが、逆に言えばイシュタリアの歴史の中で数人しかいないという事だ。


 そして、後天的に発現するのはとても困難で、その人が積み上げて来た結果が実を結ぶ物なのだ。


 つまり……レベル1でも十分凄い。しかしここまでなら努力で到達する人もいる。

 レベル2なら天才、3で英雄、4まで行くと天災と言われている。

 4まで行けば存在を危険視される。それくらい上位スキルというのは貴重で、危険な物というのが世の中の常識だ。


 それが、レベル7?

 過去の俺はいったいどんな化け物だったんだ。


「ご、ごしゅじんってばぁぁぁっ!!」


 こんなレベルの上位スキル……興味を惹かれない男はいない。


「ふぎゃぁぁっ! ニヤケてないで助けて下さいよぉぉっ!! 早くしないと私の膜がこいつらに奪われてしまうますぅぅっ!!」


 うるせーな今忙しい……


「まくってなぁにー?」


 一瞬頭が真っ白になった。俺のすぐ後ろに、イリスが居る。


「えっ、イリス!? 馬車に乗ってなきゃダメじゃないか!」


「心配だったから見に来たーっ!」


 おいおい……これは早々になんとかしなきゃいけなくなっちまったぞ。


「心配は要らない。俺がすぐに片付けてやるからな」

「ちょっとぉぉぉっ!! 私と反応違いすぎませんかぁぁぁ!?」


「うるせぇ! 当たり前だろうが!」

「ひっ、ひどいですぅぅぅ!!」


 馬鹿ネコが顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながらすぐ近くまで逃げて来た時……。


「もうなんでもいいから早くっ! 助けてーっ! あぁっ!! 痛い痛いおしり齧られましたっ!! 犯されるーっ!!」


 捕食されそうになってるだけだろ……。


 俺は剣を構え、魔物に向け構える。

 剣聖スキルの試し切りといこうじゃないか。


「いくぜ……天楼斬魔剣!!」

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