第10話:食事と財宝と面倒な奴。


 シェフのおすすめとやらを頼んでみたんだが、これと言って変わった所もなくごく普通の味だった。


 それでもイリスは大喜びで口の周りをべたべたにしながら骨付きの鳥肉を頬張り、穀物ベースのスープを美味しそうに飲み干す。


「おいし~♪ こんなに美味しいのはじめてたべたよぉ~!」


 そりゃそうだろうなぁ。ママドラの巣にあった食料と言えばほぼ乾燥させた肉ばかりだったんだから。たまにしか買い出しに出ないと言っていたし保存できる食料となると仕方ないのだろう。

 俺が持ち込んだラミアの肉をあぶって食べさせた時だって相当喜んでた。

 勿論調味料なんか無いし、素材そのままの味しか口にしてこなかった筈だ。


 そんな子供がまともな料理を食べたらこの反応になるのは当然である。


『私もしかして馬鹿にされてる?』

 いや、そんなつもりは無いよ。それにこれからもっと美味しい物食べさせてやるさ。


『そっか……うん、よろしく頼むよ』


「いやぁいい食いっぷりじゃねぇかお嬢ちゃん! そんなに美味そうに食べられたんじゃ常連共と同じ扱いをするわけにいかねぇな!」


 いつの間にか店に帰ってきてた店主が小鉢の煮物となんかの肉の角煮を持ってきて「サービスだ! 食いな!」なんて言うもんだからイリスは大喜びでさらに口と手をべったべたにしたのだった。


「サービスしてもらってすまなかったな」

「いいって事よ! ここに食いに来る奴は美味いなんて口が裂けても言わねぇからな! 最高のお客さんだったぜ!」


 会計時にサービス品に対しての感謝を告げたが、いつもここの料理を食ってるなら確かに美味いとは言わないだろうなぁと失礼な事を思ってしまった。


「おじさん、ごはんおいしかったー♪ ごちそうさまー!」

「おう、また食いに来いよな!」


 店主のおっさんはイリスにメロメロだった。そりゃこんだけ可愛いお子様だからな、誰だって心奪われてしまうのは分かる。


『ドヤっ!』

 ママドラのいい所だけを受け継いだんだろうな。それと呪いがかかって子育て期間が短かったのも功を奏したんだろう。


『……泣くぞ?』

 知らん。


 しかし俺も手持ちにあまり余裕が無い。

 ここの支払いをしたら大分心もとなくなってしまい、馬車を借りるどころではなくなってしまった。


 こんな街ではレートが低いだろうが財宝を少し換金しておくか。


 店を出て再びイリスを肩車しながら取引所を探す。

 大抵街に一つは魔物からとれる素材、アイテム、骨董品などなどを買い取ってくれる店があるものだ。


「ん、ここか……」


 大通り沿いに取引所を見つけ、店の中に入るとやたらと古めかしい匂いが鼻を突く。

 骨董品がメインの取引所らしい。


「いらっしゃい」

 鼻の尖った老人がロッキングチェアから立ち上がり、よろよろとカウンターに立つ。


「なぁ、コレ換金できるか? それなりに高価な宝石だと思うんだが」


「ちょっと見せてもらうよ。どれどれ……」


 老人は小さなレンズみたいな器具を使ってママドラの所から持ってきた宝石をいろんな角度から見つつ、「こりゃあダメじゃ」と呟いた。


「ダメって……そんなに価値の無い物だったか?」


「逆じゃ逆。お前さんこんな物どこで……いや、それを聞くのはマナー違反じゃな。儂は持ち込まれた物を鑑定して相応の価値を付けるだけじゃから」


 逆……? それってどういう?


「この宝石はとてもうちで扱えるようなもんじゃあないぞ。悪い事は言わん、王都へ持って行け。二百万ジャイルはくだらんぞ」

「二百万!? これ一つで!?」


 ジャイルと言うのはダリル王国初代国王のダリル・ジャイルから名を取ったと言われる通貨だ。

 昔は硬貨を使っていたらしいが、それに使っていた材料がだんだんと枯渇したとかなんとかで俺が生まれるより前に全て紙幣に切り替わったらしい。

 前世基準で話すなら一円も十円も百円も、全て紙で出来た紙幣になっているようなものだ。ぺらっぺらなのですぐに破れるのが玉に瑕。しかも三分の一以上破れたらもう紙幣としての価値がなくなる。

 だから価値の高い紙幣になればなるほど丈夫な造りをしてるって訳だ。


「これだけの物じゃと王都まで行かねばまともに取引できぬよ。よそに持っていっても騙されるのがオチじゃやめておけ」


「しかし俺は今手持ちがあまりないんだが……多少安くなってもいいからこれの中のどれか一つくらい交換できないか?」


 そう言ってママドラの所から持ってきた財宝が入った袋を見せるが……。


「ふ、ふぉぉぉぉ!? こ、これぜん、ぶ……な、何もんじゃお主……! 無理じゃ無理じゃうちじゃ無理じゃでていけっ! 心臓に悪いわ殺す気か! 出て行け! すぐに出て行け!」


 もうそこからは何を言っても話を聞いてもらえなかった。もしかしたらどこかの金持ちの家からごっそり盗んできたとでも思われたのかもしれない。かろうじて豪華な装飾の飾り用ナイフに引っかかってたボロいアクセサリだけ換金してもらい、懐がほんの少しだけ温かくなったが本当に微々たるものだった。

 なんとか頼み込んで財宝の鑑定書を作って貰ったのだが、とりあえずこれだけでも有難いと思うしか無い。

 これがあれば騙されて二束三文で取引される事もないだろう。


「しかし困ったな……」


 俺がこの先どうしようかと頭を悩ませていると、聞いた事のある騒がしい声が響き渡った。


「わ、私はお金盗まれただけなんですーっ! 私悪くないんですってばーっ! 誰か助けてーっ! 美少女が、美少女が売られようとしてますよー!?」


 ……うわぁ。めんどくせぇもん見ちまった。

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