ノーベル賞授賞式
~ 十二月十日(木)
ノーベル賞授賞式 ~
※
めちゃめちゃ忙しい
年末が近づいてきて。
ちょいちょい増えてきたもの。
霜柱と勝負する子供。
赤と緑の包装紙。
マウンテンパーカー。
そして。
自習。
「自習なら自習らしく! 潔く勉強に関係することは教室に持ち込まないで欲しいのよん!」
「そうだそうだ~!」
「うるさいそこ! いいからとっとと取りに来い! ……黒板に張り出すわよ?」
委員長の命令に。
逆らえるやつはもういない。
文化祭の間に株を上げた安西さん。
その一喝に、渋々席を立って。
頭を抱えながら帰って来たのはパラきけコンビ。
「ふんぎゃあああ! やっぱり無理だったかあああ!」
「俺もだ~! これ、追試になるかな~。なんとか補習どまりになんないかな~」
試験後半。
集中力が切れた頃に襲い掛かった暗記教科。
日本史。
先生不在の中。
答案だけが返却されたが。
その結果に。
満足そうな顔を浮かべるやつの少ないことと言ったら。
……かく言う俺も。
つまらんとこでミスしちまったけどな。
「ちきしょう。また漢字ミスった」
「わ、私も……」
深々とため息をつきながら。
答案に顔をうずめるこいつは。
どちらもギリギリ。
漢字を間違えたせいで。
俺は満点を逃し。
こいつは赤点ボーダーに届かなかった。
「ノーベル勉強しろよ賞、授与」
「いらない……」
「ほら、嘆いててもしょうがねえだろ。さっさと復習しろ」
「褒められて伸びるタイプの私にこの仕打ちは逆効果……」
「なんて言い草。補習になるにせよ追試になるにせよ、間違ったとこはちゃんと覚えとけ」
「あ、明日から頑張る……」
絶対やらねえ宣言にしか聞こえない言葉と共に。
鞄から実験道具をいそいそと出し始めたこいつだが。
まあ、前回の期末と比べたら驚くほど点が上がってるし。
これ以上うるさく言うと、本当に逆効果になるかもしれねえから黙っとこう。
……十二月。
冬休み直前。
夏休み前とは違った、静かな解放感は。
クラスの喧騒をどことなく落ち着いたものにさせる。
しかし、師走とはよく言ったもんだな。
中学の頃もそうだったっけ。
年末が近づくにつれ。
もともと多忙な先生がたが。
授業すら行えなくなることが多くなる。
「追試……、かなあ? 終業式前には終わる、よね?」
「そうしたいんだったら、ちゃんと勉強しろって。再追試とかになったら、下手すりゃクリスマス無しになるぞ」
「そ、それは困る……」
「あるいは最悪、ほんとに留年しちまうぞ?」
そんな言葉に。
何を思ったか、首をひねり始めた秋乃が。
ぽんと手を叩いて。
「クリスマスに試験ってなったら、留年をセレクト」
「すんな。お前、俺のこと先輩って呼ぶことになっちまうぞ?」
「…………ほさかセ~ンパイ?」
ぐはっ!!!
あご下に両手グーの上目遣いとか凶器だな!
鼻血噴き出すかと思ったぜ……!
「く、下らねえことやってねえで! ほほ、ほんと勉強しろよお前!」
「で、でも、あのね?」
「ぐずぐず言い訳しない!」
「でも……」
「言い訳してる暇があったら、あれだ! ……もう一回さっきのやってみねえか?」
「あの……、鼻血出てる……」
「ウソだろ俺のピュアハート!?」
慌てて膝の上を見てみれば。
俺の答案が、赤点になってる。
あぶねえ。
こいつが無けりゃ、ズボンが留年するとこだった。
「ティッシュ……」
「ああ、いい。持ってっから」
「…………これを使ってください。ほさかセ~ンパイ?」
「ぐはっ!!!」
「だ、だいじょぶ?」
「ノーベル後輩賞をやるからもう二度とそれやんな」
「はい……。ポニーテールに続き、二つ目の封印……」
「何の話だ?」
なんでもないとか首振って。
再び実験に戻った秋乃。
そこへパラガスときけ子が。
同時に振り向いて話しかけて来た。
「舞浜ちゃん、なに作ってるの?」
「か、火薬……」
「立哉~。俺、朝から静電気ヤバくてさ~」
「そんなセーター着てっからだ。……こらやめろ。触ろうとするんじゃねえ」
いつもの与太話。
二組同時進行。
そんな騒がしさが。
お隣りに伝染する。
「あっは! 舞浜ちゃんの後輩ポーズ、良かったね!」
「そ、そう?」
「ああ。舞台では映えないがな」
「姫きゅん、そこは芝居と関係なく褒めるとこだよ?」
「だれが姫きゅんだ!」
「いたああああ!」
そして左後方を起点に。
騒がしさが広がる教室内。
普通だったら。
隣のクラスから先生が怒鳴り込んでくるところだが……。
「ちょっと! 静かに勉強しなさい!」
意外といえば意外。
委員長スピリットに目覚めた安西さんが。
席を立ってみんなを一喝した。
……だが。
それに従う程ヤワなクラスじゃねえ。
「いいじゃねえかよちょっとくらい!」
「テストも終わって、冬休み待つだけだしね!」
「気が抜けても仕方なかろう」
「そうだよ~。硬いこと言うなよしまっちゅ~」
「しまっちゅよぶな!」
「それより、どうやったら静電気出なくなる~?」
「知るか! セーター脱ぎゃいいでしょ!」
うん。
実にうちのクラスらしい。
そして委員長も。
実に委員長らしい。
「よし。委員長に、ノーベル委員長賞をやろう」
「いらないわよ! つまらないこと言った罰! 監督からもみんなに言って!」
「そうは言ってもなあ。……そうだ。秋乃、さっきのやれ」
「…………まじめに勉強して? セ~ンパイ!」
「「「「ぐっはああああ!!!」」」」
失敗。
余計大騒ぎ。
今悲鳴を上げた連中全員に。
ノーベルちょろいで賞をくれてやる。
「は、犯罪レベル……!」
「俺、今無意識に財布からお金出してた……」
「あたしも課金しそうになった……」
みんなちょろいな。
鼻血出したヤツも一人いるし。
……俺だけど。
ティッシュティッシュ……。
「センパイと言えば。姫くん目当ての人、しばらく来ねえな」
「そうだ! どうなったんだよ最上!」
「……知らん」
そんな返事を聞いたやつらが。
先輩と姫くんとの失恋話のエチュードなんか始めたもんだから。
当然。
あっという間に殴られて止められた。
「あっは……。からかっちゃだめだよ?」
「いてて。確かに、悪かったけど」
「でも、急に来なくなったからさ」
「…………そうだな。部活にも来なくなった」
散々騒いでいたクラスが。
姫くんの言葉をきっかけに。
水を打ったように静まり返る。
あの、雪の日以来見かけていない今野先輩。
さすがに諦めちまったのか。
彼女を応援してる俺としては。
複雑な気持ち。
「監督と違って、最上はみんなを静かにさせる天才ね!」
「空気読めよ、委員長」
「そんな最上にはノーベルアカデミー賞をあげるわ!」
「なんだそりゃ!」
静かにしろって言ったり。
静まり返ったクラスに笑いをふりまいたり。
一貫性のない委員長に頭を抱えたが。
「あっは! いつかほんとに取れるといいね! アカデミー賞!」
クラス中が、また明るい雰囲気になったから。
まあ、良しとするか。
「アカデミー賞か? いや。俺はお前がいつか取ると信じているが」
「僕が!? うーん……。さすがにプロを目指す気はないかな……」
姫くんは、気の無い返事に軽く肩をすくめたりしてるけど。
王子くんに、プロの役者になってもらいたいのかな。
……あれ?
それって。
ひょっとして?
やっぱり、姫くんは王子くんの事好きなのかな。
誰かに意見でも聞きたいところ。
そう思って。
秋乃の様子を見てみれば。
…………なんだか机の上が。
大変なことになってる。
「おい。それ、大丈夫なのか?」
「平気……」
さっき火薬って言ってたけど。
すげえ量になってやがる。
……でも。
「いや。お前の心配はしてねえ」
「え?」
「お前の目の前で、火薬を筒に詰めてる夏木の心配してるんだ」
「……ひゃっ!? そ、そんなに詰めたらだめ……!」
「だめなの? でも、どうせだったら沢山……」
「ああもう~。寒くなるだろうけどセーター脱いじゃえ~」
「そしてここでフラグ回収!?」
もう、ワザととしか思えない方向にセーターを脱いだパラガス。
慌てて止めようとする秋乃の腕を引いて机から離れたその瞬間。
ボンッ!!!
……きけ子の筒から爆発音と煙が上がって。
真っ黒な煙が晴れると。
中から、絵にかいたようなもじゃもじゃ頭に真っ黒な顔したきけ子が現れた。
「「「わははははははははは!!!」」」
慌てて駆け寄って来た甲斐も一緒に大爆笑。
そんな中、一人ムッとしている当本人。
きけ子をフォローしてあげようと。
わたわたしながら、秋乃が選んだこのセリフ。
「ノ、ノーベルダイナマイト……、賞?」
「うはははははははははははは!!! それを称えたら本末転倒なんだよ!」
やれやれ。
いつも信じられねえことが起こるクラスだが。
……先輩。
気になる、な。
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