第12話:ふたつめの話、エピローグ



 ――竜による新たな被害が出たという話が私の元へと届いたのは、その被害が発生してから随分と時間が経って頃のことだった。


 なぜ私のところにまで話がやってきたのか、という理由については考えるまでもない。


 ……なんといっても、竜退治の英雄様だからね。


 多くの人間による勘違いとわずかな権力者の勝手な都合によって、私個人としては甚だ不本意ながらもその立ち位置を得てしまったがゆえに。


 その結果として、その手の話は規模の大きなものから小さなものまで、真偽を問わずに――頼んでもいないのに向こうから舞いこんでくるようになっていたからである。


 ……ホント、引く手数多で大変だ。


 一件片付ければ二件増える。

 そんな感じで限りがない。


 終わりが見えない。


 ……正直なところを言えば、全部投げ出してしまいたかったが。


 あの竜の名誉を回復するという目的を未だ果たせずにいる状態では、そうするわけにもいかなかった。


 偽りの名声とはいえ、そのお陰で金を得られて生活は豊かになったから。

 一時は、だったらそれでいいじゃないかと思うこともあったのだけれど。


 ……私は私が思う以上に義理堅かったらしい。


 否、頑固だったようだと表現するべきであろうか。


 ……まぁどう表現するかが違うだけだな。


 目的を諦めきれなかったことだけは間違いない。


 ただひとつの事実を認めさせたいという願望を。

 捨て切れなかった自分がいたからこの生活が続いていることに間違いはない。


 ただ、文字に起こしてしまえば簡単に思えるたったひとつのことを現実のものとするのは非常に難しかった。

 

 私の言葉を多くの人間に信じさせるためには、幾つもの結果を残さなければならないが。


 そうなるまでにどれだけの数と時間が必要であるのかなどまったくわからないという、終着点が見えないものだったからだ。


 本当にそうなることがあるのかもわからなかった。

 自分がそこまで続けられるのかどうかもわからなかった。


 ……どこまで続けられるものなのかもわかりはしないがな。


 自分でもそんな風に半ば諦める気持ちを抱きながら、それでも、またひとつの案件を処理するべく現場に向かっていく足は止まらなかった。




 ――竜がやってきて生贄を求められた。

   差し出したら去って行った。


 その場で起こった出来事を簡単にまとめれば、そんな話であった。


 脅威が既に去っていることは話を聞いたときから把握できていたし、周囲の人間からは行く必要がないとまで言われていた案件だったけれど。


 私は私の目的のために、その場に行く必要があった。


「それは本当に起こった出来事ですか?」


 当事者たちに、そう確認しなければならなかったからだ。


 ……事実を知らしめる。


 ただそれだけのために。


「竜が生贄を求めるというのはよくある話ですが。

 全ての人間が善人でないのと同じように、全ての竜がそうするわけではありません。

 人間が勝手にそう思い込み、行動した結果によって不幸な出来事が起こることもあるのです」


 だから聞くのだ。


「もう一度確認します。

 先ほど伺った通りの経緯で、本当にそれが起こったのですか?

 ――今私が見せた結果は見えますね? 理解できていますね?

 それでは、よく考えてお答えください」


 私が誰に靡くでもなくそうし続けることによってのみ、私の目的が達成されるからだった。


「嘘は許しませんよ。見抜けないとお思いですか?

 ……さあ、事実を語ってくださいね」





・――生贄を求めて彷徨う竜がいるという風説が流れ始めました。

・――邪竜および悪竜というあだ名が追加されました。

・――一人の信者による風説を正すための活動は継続中です。



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