第6話
何事であれ、続けていれば結果は出る。
その結果が望んだものと一致するかどうかは運の要素が大いに絡む賭けとなるが、今回の件に関してならば、我輩はどうやら勝ちを掴むことができたらしかった。
……最初はひどいものであったな。
ヒトガタを造るための素材は周辺にいくらでもあり、ものを造り上げること自体はすぐに終わったものの、肝心要である条件付けの蓄積が非常に難しいものだった。
全ての作業は零から始まるものである。
すなわち、出来上がったばかりのヒトガタには何もない。
それだけでは、何も出来ない。
条件を蓄積するために必要な初期操作を我輩がやらなければならないのだという事実に気付いたのは、いつもやってくる人間との戦闘をいざ始めんとするときであった。
そのときばかりは、我が事ながら、本当に段取りが悪いものだと自分自身にあきれ返ったものである。
自らの身体すらいまだ満足に動かせているとは言い難い状況であるのに、構造の全く異なる体躯を操作するなど愚の骨頂であろうに。
……まぁなんとかしたがな。
最初のうちは操作することすらままならずにヒトガタを放り出し、己の身体を使って追い返す場合も多かったが。
それでも我輩は、ひとたび戦闘が終わればその内容を顧みて、ヒトのカタチはどう動くものなのか、その機序を整理し、まとめる作業を止めなかった。
ゆえに、我輩が生み出したヒトガタが少しずつ望む反応を生み出すようになっていったのは、間違いなく不断の努力による結果であると確信している。
――随分と遠回りをしたものだと、心底からそう思ったこともまた事実であるが。
……それも、余裕が出来た今だからこそ言えることであろう。
塵も積もればなんとやら。
条件付けを必要十分以上に蓄積し、不足なく再現することが出来るようになった今となっては、人間の相手はヒトガタのみでこと足りるようになっている。
ヒト対ヒトの規模であれば、周辺の被害も大したことにはならぬ。
――否、そうなるようにヒトガタを造ったのだ。
戦闘の余波で破壊された場所は広い範囲に渡るものだったから、そのうちのいくらかをあしらうために必要な場所として――掃除でいえばゴミを一角にまとめるような感覚で整えてやったのだ。
被害は最初期に比べれば百分の一ほどにもなったに違いなかった。
「――おい、ちょっと、これ強すぎないか!?」
遠くから、金属質のものがぶつかりあう響きに紛れてそんな言葉がやってきた。
……喋っている暇などあるまいに。
反射とは無慈悲なものだ。
可能であれば迫る攻撃を避け、あるいは防ぎ、機会が出来れば攻撃する。
あのヒトガタにはそれしかない。
だから、喋っている分だけ動けないという事実に対して、返ってくるのは確実な一手だけである。
――先ほど言葉が聞こえた方角から、これでもかと言わんばかりの悔しさを込めた負け惜しみが響き渡った。
音源へと視線を向ければ、空の中、尾を引くように消えていく声音と共に小さくなっていく人影が見えた。
その事実を認めて、我輩はうむと満足する。
……今日も無事に追い払えたようであるな。
殺せば終わりというのであればそうするのもやぶさかではないが、人間という生き物については、そうなる可能性は非常に低いことがわかっている。知っている。
殺せばその数か機会か、あるいはその両方か。
必ず増える。
増えて戻ってくる。
……ゆえに、追い払う。
それを叶えるための苦労は尋常なものではなかったけれど、こうして成果が確かに出るようになった以上は、成し遂げられた事柄について自身を褒めるくらいのことはしてもいいだろうと、そう思う。
……まぁ、あの人間が頑丈であったことは唯一有利に働いた点であるがな。
出力まわりの調整について手間が減ったのはありがたい限りであったと、そう考えながら、我輩は再び修復作業へと戻ることにしたのだった。
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