第15話 天平神護二年 人事異動と奇跡の事
右大臣薨去により、年明け早々に太政官の人事が改まるだろう。そのような噂をしている頃、飛騨国から
この話は
飛騨での噂は放置されたまま年も明け、正月八日、新たな太政官の人事が発表になる。大納言の
この度は極めて真っ当な人事だと、官人らは皮肉交じりの評価をする。そう言いたくなるほどに、ここ最近の人事も叙位叙勲も異様だ。飛騨国で起きた事件などは、その異常さが生み出した結果といっても過言ではない。
花の散る頃には疫神もやって来る。三月に入り、藤原北家の大納言
新たな大納言には吉備真備が就任する。太政大臣禅師に学者の大納言、僧形の官僚、太政官も奇妙な色あいに見えて来る。
事件は左京二条の小さな寺院で起きた。かつて藤原太政大臣(藤原不比等)の屋敷の一隅に立てられたために、
「ここまで胡散臭いと、かえって清々しい」何やら
夏の終わりの宵、右京四条の近衛大将の屋敷も例に漏れず暑い。
「舎利が入っていたという宝塔は、外から持ち込まれた物だったな、確か」あまり
「破損したか無くなったかで、興福寺の何とかいう坊主が寄進したらしい」飲んでも変わらない顔色の藤原種継が言う。
「
「
「河内の田舎者同士で、つるんでいるのだろうよ」種継が鼻であしらうように答える。
奇跡を起こしたという宝塔は、中が空洞になっている。寄進されて一月もたった頃、霊験が顕れたと騒ぎ出す者が出て、中を検める事になった。すると丸く滑らかな珠が三粒見られる。一つは黒く輝き、表面に緑色の梵字も浮き出て見えるという。
「要するに、坊主の威光のお零れに与ろうと、群がる輩の一人だ。御方の御目にも留まり、只今は有頂天というところだな」種継は顔色も変えずに際どい事を言う。
「坊主らに限らず、御方のお気に入りとなれば、良い事ずくめなのだろうな」私はつぶやいて苦笑する。そろそろ視界が定まらなくなっている。
「お気に入りか。では、うちの
近衛員外少将の
十月に入り、件の仏舎利騒ぎに進展がある。勅命により法華寺に安置する事となった。そのために二百人もの容姿の優れた者を選び、
法華寺に到着後、基真大禅師を導師に法要が行われ、各司の
その後に発せられた
この後も左右大臣の任命があり、道鏡師の弟の弓削浄人が正三位中納言になるなど、大盤振る舞いも甚だしい叙位が続く。十一月の臨時の叙位では、私もお零れに預かり、種継共々に従五位下を賜った。これでようやく、備前国の親族たちにも大きな顔が出来る。
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