第2話 天平宝字八(764)年の事 其の壱
唐突だが、ここより話は少しばかり遡る。一年と八か月前の天平宝字八年正月、定例の
この頃、
当時の近衛府は
武官の人事は
ところがこの御仁は無位のままで、この地位に就けられたと聞く。兵部省の言い分では、諸王には六位以下の官位がないために無位だが、扱いはあくまでも正六位上となる。あまり聞いた事のない状況に、やはり誰もが首を捻る。
「そもそも山部王という御人は何者なのか」同僚らに問いかけ、下世話にも詮索を始める。
「従三位中納言、
この頃の太政官は、いささか異様の人事を呈していた。首班は
「白壁王様という方も、かなり微妙な立場だな」訳知り顔の者が言葉を続ける。
今はどこの派閥にも属していないように見える。だが、何かの切っ掛けで簡単にどこかに属する可能性がある。
「どのような素性の宮様なのだ」
「二世王で、
確かに微妙な立場だ。百年近い昔の
「だが、山部王様は更に複雑だ」訳知り顔が更に言う。
「元
「驚くなかれ、
この言葉に誰もが妙な納得をした。
「では、山部王様が無位で大尉になったのは、岳父殿の根回しか」
「それならば、とっとと五位になるだろう。無位の大尉など聞いた事がないし、何よりも格好がつかぬではないか」
「その辺りは御偉方が何か企んでいるのやも知れぬ。俺たちのような下っ端には分からぬような事を」
御偉方というよりも、藤原氏四家の当主たちだろう。初代の
「大師様としては、次は皇家との縁を結ぶのに力を入れておられるようだな」訳知り顔が納得するには、更に複雑な藤氏の内情がある。
藤原南家は家の内にも派閥がある。先の右大臣だった兄を弟の仲麻呂が、ある事件で蹴落とした。そして時の女帝より
このような背景を知ったおかげで、私は山部王という人を侮っていた。為政者の手の上で良いように踊らされる、御飾り的な人物に相違ないと。思いながらも少しばかり奇妙な事にも気が付いた。
山部王に嫁ぐ年齢の息女がいるのなら、どうして大炊天皇の
ともあれ、吉備の田舎者の私には、中央の銘家の考えなど分からない。このように結論付けて詮索をやめた。
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