20 ガクタイ
「センセ!」
食堂で暇つぶしがてら軽く授業をしてすこし、響き渡る鐘の音が聞こえてくる。
それから数分も待たずどっと波のように生徒たちが食堂に押し寄せ、そのなかに、こちらに名を呼びながら駆けてくる少女がいた。
「キィ、あまり慌てず」
「えへへ、走ってきちゃった」
制服姿のキィは同じテーブルに嬉しそうに腰を下ろす。
クロは注文してあったお水のコップを渡す。
「お疲れ」
「うん、ありがとクロ」
「アオはまだなの?」
「学年違うからね」
「あ、そっか」
当たり前ながら、そういえばアオのほうが年上で姉弟子なのだった。
なんとなくクロは姉弟子ふたりを同い年と勘違いしていた。
……最後の姉弟子だけは衝撃的すぎて一番弟子であることを忘れようもないが。
「じゃあ、アオはまだかかるのかしら」
「いえ、噂をしていると来ましたよ」
「ん、なんか話してたのか?」
アカの声でふたりは顔を上げれば、いつの間にそこにアオがいた。
キィはすこし笑んで軽口のように。
「アオが遅いって話だよ」
「いや、わりと急いできたけど……キィのほうこそ、廊下走ったろ」
「あはは。だってアカとお外で食べるの久しぶりなんだもん」
「あの、家では毎日一緒に食べていますよ?」
廊下を走ってはいけません。
それくらいはアカも知っていて、そんなに急ぐほどかと疑問に思う。
けれどキィはいつもの眩い笑顔で肯定を。
「うん。でも、外はちょっと特別っぽいよね!」
「そう、ですか……?」
アカはちょっとわからない特別である。
そういうものかととりあえずは納得しておく。今度、機会を見て外食でもしようか。
ともあれ四人揃ったところで食事の注文をして、なごやかに食卓を囲む。
いつもと変わりない、けれど外食だからこその高揚感が多少なりともあって、会話はいつも以上に弾んだ。
イの一番で話題になったのは、なによりもアカがお呼ばれしたことについて。
アオやキィはもちろん、クロも気になっていた。
「学園長先生の話って、ガクタイのことだったでしょ?」
「ガクタイですか? ええと学園対抗魔術合戦と、アドバルドは言っていましたが」
「それ、長いでしょ? だから略してガクタイってみんな言ってるの」
「省略ですか」
なるほどと納得し、別に疑問が湧く。
「しかし、そういえばそれの確認くらいならば間接的にでも可能だったはず。どうしてアドバルドはわざわざ時間を割いてまで……」
「いやだって学園長先生、わたしたちがセンセに確認とらないとって言ったら、これでセンセと会える理由ができたありがとうって言うんだよ?」
キィは思い出しながらくすくすと笑って、その場にいたであろうアオも表情を綻ばせた。
アカのほうは笑っていいのか迷うところである。
「それで、アカ。あたしたち、出ていいのか?」
アオの期待に満ちたまなざしに、アカは笑って頷いた。
「ええ、了承しましたよ」
「やった!」
「よかったよー」
ふたりが嬉しそうだとクロも嬉しいが、いやガクタイってなんだ。
それについての説明をアカに求め、だいたい把握して、おやと思う。
「アオはともかくキィも喜ぶのね、すこし意外」
キィは魔術による戦闘にあまり積極的ではなかったはずだ。
とうぜんアカが教えてはいるので人並以上に戦えるそうだが、好んではいなかった。
キィはどこか恥ずかしそうに。
「んー、そうだね。アオほど戦うのは好きじゃないけど……でも、わかりやすい評価項目ではあるからねー。進路のためって感じかな」
「先を見据えるのはよいことです」
「? キィでも行けない進路があるの?」
「そりゃあるよー。でも、もしもガクタイで活躍できればかなり近づくと思うんだよねー」
それほど、学園対抗魔術合戦の影響力は高い。
だからこそ、アオはキィの物言いにすこし不安げ。
「活躍できなかったらあたしが怒るぞ、キィ。明日からあたしと特訓だ!」
「うーん、そうだね。センセの弟子として、格好悪いところは見せられないしね」
「あ、そうだ。アカ、ちゃんと見に来てくれよ?」
「もちろんです。必ず、ふたりの晴れ舞台をこの目で見に行きますとも」
その確約が嬉しくて、アオもキィも言葉もなく笑みを滲ませた。
と、そのときである。
「もし? アオくん、少しいいかい?」
新たなる声が、背後からやって来た。
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