第2話 血のオークション

「天城天谷さんでよろしいでしょうか?」

「はい」

「血液型は?」

「A型です」

 俺はナーシャに連れられるがままに、先ほどのオークション会場のそばにある建物にいた。

「それでは検査いたしますね」

 目の前にいるナース服を着た巨乳美女が俺の腕を掴み体を寄せてくる。

 前屈みになり無防備に俺の前に晒された胸は明らかに俺を挑発している!

 口の中の尖った牙を艶かしく見せつけながらどんどん近くなる。

 その湿った弾力のある唇が俺のエロい鎖骨あたりにぃぃ!!!

 いやぁぁーーーんん!!

「はい、終了でーす」

 特に俺の妄想通りには進まずに注射で血を数滴抜かれただけだった。

「お主、そのバカな妄想をやめんか。聞いてるこっちが恥ずかしくなるのじゃ」

 俺の斜め後ろあたりで立っているナーシャが文句を言ってくる。

「人の心を勝手に読む奴が悪いんですぅ健全な男子はあのくらい想像しますぅ」

 口を尖らせながら嫌味をぶちまけてやった。

 ナーシャは頭を抱えながらため息をつく。

「全く、公園で人生に絶望していた奴とは思えんのぉ」

「もう俺に失うものはない! セクハラだろうがなんだろうがいくらでもしてやるぞぉぉ」

 手の指をタコのあしのように動かしながら、俺の血を検査しているナイスボディー吸血鬼ナースの後ろ姿を凝視する。

「最低の極みじゃの、そんなことしたら一発で首が飛ぶぞ」

「まじで?」

「まじじゃ」

 吸血鬼社会こわ!

 慈悲も何もないじゃん!

 俺は失うものは何もないとは言ったが命まで失うわけにはいかないので、大人しく座って検査結果を待つ。

「お待たせしました。検査結果が出ました」

 待ってました!

 吸血鬼が行っている人間の血オークションでは、当たり前だが人によって血は違うのでそれぞれの価値がある。

 五段階ぐらいで分けられランクが高いほど値段が上がるらしい。

 その結果次第で俺の人生が左右されると言うことだ。

「そのぉ大変申し上げにくいのですが・・・」

 何その反応!!

 結果言う前に残念でしたみたいな雰囲気出すのやめて!?

「DよりのCみたいな?」

 美人吸血鬼ナースが笑顔で小首をかしげる。

「みたいな?」

 俺も真似して小首をかしげる。

 俺はあることに気づき納得したように手を叩く。

「あぁおねぇさんの胸のサイズか」

 すると後ろから頭を叩かれた。

「そんな訳あるかぁ!!」

 ナーシャはキレキレのツッコミを入れてくる。

「お主の血のランクじゃ。それにしても、DよりのCとはお情けをもらったようなものじゃな」

 にまにまと悪そうな笑顔を浮かべながら言ってくる。

「そんな低いのか?」

「Dランクになると粗悪すぎて買い取ってもらえん。DよりのCとはほぼ無価値じゃな」

「なっ!!」

 俺には人としての価値だけではなく、体を作っている中身から価値がないことが判明してしまった。

 血をオークションで売ったところで、たいしてお金にもならないと知った俺は再び絶望の中に突き落とされる。

「ま、気にするなテンテン。物好きがおるかもしれん売りにいくぞ」

 ナーシャは俺の腕を掴むと出口の方へと引っ張っていく。

「どーせ売れないなら、恥かきたくないしぃ美人ナースとここにいたいぃ」

 駄々をこねて本気でここに残ってやろうと思っていたが、腕をひくナーシャの力が異様に強い。

「あれ?」

 気がつくと椅子から振り落とされ地面を引きずられている。

「お前、力つよ!!」

「吸血鬼の中では弱い方じゃが?」

 そんなことを言われましても俺は人間でして。

 ナーシャの細い腕に抵抗できずに引きずられていく。

「ナースの美人おねぇさーん! 俺はあなたと一緒にいたいんですがぁ!!」

 俺の悲痛な叫びは検査をしたこの建物全体に響き渡った。

 ナースのおねぇさんは苦笑いで俺の方を見つめる。

 俺の願いは届くことなくナーシャに引きずられオークション会場へ向かった。



「次はオークション初参加の方です!」

 あの、やけにための長い司会者に紹介されながら俺はステージへと上がった。

「ど、どうも〜」

 軽く頭をヘコヘコさせながらスポットライトの当たるど真ん中まできた。

 おかしい。

 さっきオークションしてた女の子の時はあんなにテンションの高かった男たちが全く盛り上がっていない。

 そもそもスマホいじってステージを見ていないぞ。

「えー、えーっとですね、このテンテンさんはですね18歳男性、ナーシャさんの紹介で初参加になります」

 司会者の紹介にやる気が感じられない。

 俺の血ってそんなに価値ないの?

「ナーシャの紹介ってことはゲロまずかよ」

「またあの偏食家がなんか連れてきたぞ」

 ステージに立つ俺にまで聞こえてくる声で悪口が聞こえる。

 俺ではなくナーシャのだが。

 舞台袖で控えているナーシャには聞こえていないらしく、俺が哀れみの目を向けると親指を突き出しエールを送ってくる。

 もしかして、あいつも嫌われてるんじゃ・・・

「それでは、1ちー1000円から4ちーのオークションになります!!」

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

「えー、どなたかいらっしゃいませんかぁ?」

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

「いらっしゃらないようですので、今回は残念と言うことで」

 あまりの結果に開いた口が塞がらない

 誰だって最初にみたオークションみたいに大人気だと思うじゃん。

 俺もあんな感じで求められると期待しちゃうじゃん。

 悲しすぎて少し涙が出てきた。

 あきらめかけていた時、突然声が上がった。

「わたしが買うわぁ」

 俺の血にも需要がある!

 誰かが俺の血を欲しがっている!!

 唯一の希望の光を差し伸べた声の主を見つけた。

「んふぅん、わたしあなたみたいなのがタイプなのぉ」

 全身の毛穴が開いた気がした。いや、開いた。

 強烈すぎるおかまが俺に向かって手を振っている。

 全身フリフリピンクの服に身を包み、常に腰を左右に動かしている。

 そしてなぜか、聞きたくもない喘ぎ声みたいなのを出し続けている。

「あいつ終わったな」

 へ?

 会場のどこからか声が聞こえてくる。

「ダイアナさんに気に入られたか」

「そういえば、前回気に入られてた奴見なくなったなぁ」

 は?

 ちょっと血を抜いて売るだけだよね?

 食われたりしないよね?

 俺が不安の表情を浮かべ、ダイアナと呼ばれたおかま吸血鬼の方を見る。

「んーーーーちゅ!!」

 気色の悪いウインクと投げキッスが飛んできた。

 いーーーーーーやーーーーーーーーーだぁーーーーーーーーー!!!

 わらにもすがる思いでナーシャに助けを求める視線を送る。

 ナーシャは斜め上を見て下手くそな口笛を吹いていた。

 あいつは絶対に許さん。

「それでは、あちらの採血室へご移動ください」

 司会者が厄介者を払うように言ってくる。

 俺は生命の危機を感じここから動かないことに決めた。

「テンテン様も早くご移動ください」

 司会者が急かしてくる。

 しかし、俺は動くわけにはいかない。あっちに行ったら殺されるだろ絶対。

 野次馬どもは俺に手を合わせて合掌してやがるし。

「早く! この方を連れてって」

 司会者が手を叩くと舞台袖から黒いスーツをきた強そうな二人組が出てきた。

 俺はその二人に両脇をガッチリと固められ、無理やり連行される。

「助けてくれぇーー! ナァーーーーシャァーーー!!」

 ここにきてから俺叫んでばっかだな、などと考えていると採血室に投げ込まれた。

 バタン

 採血室の扉が閉じられた。

 俺の人生はここまでなのかもしれない。

「いやぁーーーーーーー!!!!」

 俺の悲痛な叫びはオークション会場の外まで響き渡ったという。

「すまんの、テンテン。だがのお主が血を売ると言ったんじゃ。わしに責任はないからの」

 そう言い訳を残してナーシャはどこかへと消えていった。

 

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