ブラッドバリュー
みつやゆい
第1話 吸血鬼の世界
「ついたぞ、テンテン。ここがオークション会場! 吸血鬼の世界じゃ!!」
中学生ほどの背丈をした女の子が両腕を目一杯広げ、俺のことを案内する。
「でけー」
「なんじゃお主、反応がつまらんの」
テンション高く俺を案内する自称吸血鬼の女の子が俺の反応にケチをつけてくる。
仕方ない、俺の本気を見せてやろう。
「なんじゃこれぇぇぇぇぇぇ!!!!! デカすぎだーーー!!!!!! フィ
ぃぃぃぃぃ!!!! フォぉぉぉぉ!!!!!!」
周りの目など気にせず俺は叫んだ。
叫ぶだけだとまたケチをつけられるかもしれないから腰を低くして、腕を振り回しついでに頭も振り回しながら叫んだ。
頭がおかしい奴だと思われるかもしれないが、もう俺に失うものはない。
周りを歩いている奴らが俺から明らかに距離をとった。
だけど、お前まで冷たい目で見るなよ自称ロリ吸血鬼。
「お主、加減というものを知らないのか」
耳を塞ぎながら俺に冷たい目を向ける。
こういうのが好きな人には需要がありそうだ。
「早速いくぞ血を売りにな!」
叫んだせいで違和感を感じる喉を押さえながら自称ロリ吸血鬼についていく。
なぜ俺がこのわけのわからない女の子に連れて行かれてるかというと、数時間前に遡る。
「はぁぁぁあぁぁぁぁああああぁぁぁ」
俺は近所の公園のベンチで、魂の抜けそうなため息をこぼした。
黒いスーツを見に纏い、印象がよくなるようにと短く切りそろえた髪を掻きながら人生に絶望していた。
「俺死んだかもしれん」
「社会どころか世界に嫌われてるかも」
「うん、死んだわ」
独り言が止まらない。
公園に遊びにきていた子供連れの女性が、危ない人から子供を守るようにして公園から出て行ったのは気のせいのはず。
俺が平日の昼間からスーツを着て公園で絶望しているのは度重なる不運のためである。
高校卒業を目の前にした俺は特にこれといった夢や目標を持っていなかった。別にそんなものがなくったて生きていけるし、人生は楽しかった。
大学に進学して勉強などはする気にもなれなかったので、父親が経営している街の小さな工場で働くことにした。
しかし、卒業まであと一ヶ月をきった時に事件は起こった。
母親の不倫が発覚したのだ。
母親は不倫先の男と出て行ってしまい、家には父親と一人息子である俺だけが残された。
父親は俺には心配をかけないようにと明るく振る舞っていたが、相当心にダメージがあったはずだ。
そこへ追い討ちをかけるようにして、父の工場が倒産したのだ。
大きな取引先だった企業が経営破綻してしまい、父さんの工場も共倒れ。
連続して不運に見舞われた父さんは俺を残し失踪。
就職先どころか両親と住む家さえ失った俺は今就職活動を行っているが、連続二十社面接落ちだ。
そもそも就活期間が終わった後なので、受けれる会社はほぼない。
俺はそんなアニメや漫画でもあまり見ない絶望の真っ只中にいる。
「なるほどの」
突然俺の横から女の子の声が聞こえた。
声が聞こえた方を向くと、中学生ぐらいと思われる少女が俺の横に座り腕を組んでうなずいていた。
日本ではあまり見ない金髪でサラサラの髪は腰あたりまで伸びている。幼いながらも整った顔立ちは作られた人形のように綺麗だった。
「あのーどうかしたの?」
何かよくわからないけどひとまず話しかけてみる。
「お主はなかなか面白い人生を歩んでおるの」
なんだその口調は、最近の女子中学生の間ではその喋り方が流行ってるのか?
「えーっと、どうゆうこと?」
「そんなギャグみたいな不幸に会う奴もおるのだなと思ってだな」
俺の心の声がもしかして漏れ出ていたのか?
「声出てた?」
「心を読んだのじゃ」
「心?」
おいおい、こんなにも絶望の真っ只中にいるのにさらに頭のおかしいロリに絡まれたよ。
「誰が頭のおかしいロリじゃ!!」
「すいません!!」
反射的に誤ってしまう。
「声に出てた?」
「だから、心を読んだと行っておるじゃろ」
「ははーすごいねー」
「お主信じておらぬじゃろ」
ロリ少女が不快だと言わんばかりに目を細めながらこちらを睨んだ後、小さくため息を吐いた。
「よし、お主何か頭の中で思い浮かべてみろ。わしが当ててやろう」
ベンチの上に立つと、手を腰に当て俺を見下してくる。
続いていた嫌な気分も少しは紛れるだろうと思って、この謎の少女の遊びに付き合ってやることにした。
「わかった。いくぞ」
「なんでもよいぞ」
幼なじみ●妹JK 姉●丼で仲良く中●し1●発
俺はそう頭の中で思い浮かべた。
決してこの言葉に意味はない。
大事なことなのでもう一度言う。
この言葉に意味はない。
「くっっ! この馬鹿者め!!」
少女は急に顔を赤く染め怒り出した。
「なんでもいいとは言ったが、
そうか、これじゃなかったのか。
「すまん、別のでいくぞ」
「わかればいいのじゃ、今度はマシなことを思い浮かべるのじゃぞ」
町内の熟●集会 男●人の俺は●練テクで大●射!?
俺はそう頭の中で思い浮かべた。
決してこの言葉に意味はない。
大事なことなのでもう一度言う
この言葉に意味はない。
「くっっ! この大馬鹿ものがぁぁ!!」
再び顔を赤く染め大激怒し始めた。
「ジャンルを変えればいいのではないわ馬鹿者め!!
「何って何を言うつもりだったんだ?」
俺はとぼけたフリをして聞いてみる。
一瞬驚いた表情を見せた後、恥ずかしがりながらボソボソと言った。
「姉妹・・・J・・・出し・・・発・・・」
所々声が小さくなっていたが恥ずかしがりながら言うのもなかなか。
「お主、
「吸血鬼??」
今、現実では聞かないファンタジーの生き物の名前が聞こえたような。
「そうじゃわしは吸血鬼なのじゃ」
自称吸血鬼の少女は再び腕を組むと、なぜか勝ち誇った表情で俺を見下ろし鼻を鳴らす。
「その吸血鬼さんが俺になんのようでしょうかー?」
「お主、まだ信じておらぬじゃろ」
顔を引きつらせながら怒りの表情を浮かべるが諦めたのか再びため息をついた。
「そんなにため息をつくと早く老けちまうぞ」
俺のその言葉に自称吸血鬼少女はブチギレた。
「誰がロリババアじゃぁぁ!!!!」
めちゃくちゃ顔に唾が飛んできた。
「そこまでは言ってないだろ」
俺が顔に飛んできた唾を袖で拭いていると、少女は呆れた口調で話を続けた。
「まぁ良い。お主困っておるのじゃろ? わしが助けてやらんこともないぞ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら少女は言った。
普段なら女子中学生の戯言だと聞き流していただろうが今の俺には唯一の助け船に聞こえた。
「それはありがたいけど、俺は何をすればいいんだ?」
ただより高いものはないと言われるように、タダで俺が助けてもらえるはずがない。必ず何か対価を払わなければいけないはずだ。
「お主には体を売ってもらう」
「へ?」
「その体を使って稼ぐのじゃ」
俺は思わず両腕を胸の前で交差させ自分の肩を掴み体を小さくした。
そして、ノリで叫んだ。
「いーーやーーー。おやめなすってーーーー」
公園には俺の棒読みの悲鳴が響き渡った。
「そうじゃないわ!!」
この子どんだけボケても全力で突っ込んでくれるぞ。逸材だ!!
「稼ぐ方は後で説明するとして、お主名前はなんというのじゃ?」
「
「なんか凄そうな名前じゃの。まぁ天城じゃからラピ●タでよいか?」
「言い訳あるかぁ!!」
「ダメかの?」
こいつ天然でボケてきやがる。いつの間にか俺が突っ込んでるし。
「じゃあテンテンでどうじゃ?」
天と天でテンテンか。
「まあそれなら」
あだ名なんてつけられたことなかったな。そういえば友達いなかったな。
「あだ名をつけられてそんな悲しいことを思い出すではない」
「心読めるのか!?」
「お主、またそこを掘り返すつもりか!」
やはり、突っ込んでもらう方がしっくりくる。
「君の名前は?」
「ナーシャじゃ」
「よろしく頼む、ナーシャじゃ」
「じゃは名前ではないのじゃ、わしの名前はナーシャじゃ!」
じゃばっかりで何もわからん。
自称吸血鬼の少女は呆れたように三度目のため息をつくと、まぁ良いと言いながら歩き出した。
「よし、それじゃあついてこい。テンテン」
「なんか犬みたいに聞こえるんだが!?」
これが、わずか数時間前の出来事。
そして、冒頭の続きが始まる。
俺はナーシャの後ろをついていき、見るからに怪しい路地裏などを通り抜けどこかの地下を降りた先にいた。そこにはラスベガスのカジノのような場所が広がっていた。
ラスベガスもカジノも言ったことないけど。
正直吸血鬼もこの子も何も信じてはいないが、ノリと勢いでここまできてしまった。ノリと勢いで人生を生きるのは大切だと思う。
「何を訳の分からぬことを言っておるのじゃ」
「別に言ってはない。思ってるだけだ」
「わしには聞こえるのじゃ」
おっぱい
「誰がつるぺた絶壁じゃ!!」
「そんなこと言ってないけど!?」
心が読めるにしても余計な脚色されまくりだな。
「そういえば血を売るって言ってたけどどうゆうこと?」
さっきはさらっと流されていたがおそらく最重要項目。
「わしらは吸血鬼、お主ら人間の血が欲しいのじゃ」
「吸血鬼って本当に血を飲むのか」
「そうじゃぞ」
「だったら人間を襲えばいいのでは?」
「馬鹿者が、そんなことしたら法律に引っかかるではないか」
吸血鬼社会でも法律とかあんのか。
「でも、映画とか漫画とかだとよく人を襲ってんじゃん」
「わしらをあんな奴らと一緒にするな。あれは吸血鬼ヤンキーがやることじゃ」
「なんだそのダサいの」
「ちょっと悪いことをしたくなっちゃう年頃の吸血鬼のことじゃ」
吸血鬼も人間もたいして変わらないのか。
中高生でたまにいるあれか。
「そんなことはどうでもいいのじゃ、あれを見てみろ」
ナーシャが指差した先ではステージのようなところに一人の男が立っていた。
俺が着ているスーツとは少し違う、パーティーに着ていくようなスーツを身につけた男はマイクを持ち司会をしている。
「レディィィースエァァンドジェントルメェェン」
「今宵もやって参りましたブラッッッドオォォォクショーーーン!!!」
司会の男がやけにための長い話し方で何かの開催を宣言した。
「ナーシャ、今宵もってまだ四時半だぞ」
俺はスマホの時間確認する。
「細かい男じゃのう。 そんなんだからモテないんじゃ」
「くっ、か、俺がモテないと!?」
「そうじゃ」
生意気なロリ吸血鬼め!俺の何を知ってやがる。
「聞こえとるからの、余程血を吸い尽くされたいようじゃな」
ナーシャが口の脇から鋭い牙をちらつかせる。
「すみませんでしたぁぁ」
プライドなどとっくの昔に誕生日ケーキと一緒に消化した男、天城天谷。
例え相手の見た目が女子中学生ほどの女の子だとしても身の危険を感じたら土下座など朝飯前だ。
「お主は余計な口を挟まずそのオークションを見ておれ」
「了解しました」
地面に擦り付けていた頭を上げ、先ほどのための長い司会者がいたステージを見る。
「今回のトォォォッップバッターー!! 中学二年生の14歳 まきちゃんだぁ」
「「「うぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
司会の男がステージ中央に立つ女の子の紹介をすると、ステージを囲むように設置された席に座る屈強な男たちが雄叫びをあげた。
「おいおい、これヤバイオークションじゃないよな?」
誰だって幼い女の子を囲んだ屈強な男たちが雄叫びをあげれば同じ気持ちになるはずだ。
「日本政府から許可も出ている健全なオークションだが?」
ナーシャは当たり前と言った表情でこちらを見てくる。
こんな危ない雰囲気のオークションの許可を日本政府が出してるとは。
「このまきちゃんはなんと!!」
「「「なんんとぉぉ??」」」
司会者の渾身のために屈強な男たちが愛の手をいれる。
「毎朝玉ねぎを食べてる血液サラサラのAB型だぁぁぁぁ!!!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」
男たちのテンションが急上昇し、会場の温度が上がった気がした。
熱気がこちらまで伝わってくる。
ステージに上がる少女もなぜか照れている。
「ナーシャさん? あの人たちは一体何で盛り上がってるの?」
どこが盛り上がる要素か全く分からないタイミングで盛り上がる男たちに、俺は疑問しか浮かばず、ナーシャに話しかけたが返事が返ってこない。
「ナーシャ?」
ナーシャの方を向くと何やら一人でぶつぶつと言っている。
「血液さらさらAB型の14歳の女の血か、ふむふむ、なかなかいいぞ。Aランクは堅いな。これは!買い!!」
何を言っているか分からないが、ナーシャのテンションがやけに高い。
息を荒くして興奮した様子でステージを見ている。
「それでは1ちー3万円から4ちーのオークションとなります」
司会者が謎の単語を言うとオークションが始まったようだ。
「3万5千!」
「4万!!」
「7万5千!!」
何を取引しているのか分からずにいると隣のナーシャも声を上げ始めた
「10万じゃ!!」
ナーシャが額を提示すると一瞬会場が静まり返った。
「1ちー10万が出ました! 他の方はいませんかー?」
司会者が他の客を見回していく。
ナーシャは他に参戦者が出ないことを祈りながら見渡している。
「じゅ、11万だぁぁ!! まきちゃんは俺のものだァァ!!!」
ぽっちゃりとした不健康そうな男が声を出した。
さらに金額が上がった。
そして、今の一言は犯罪臭漂う完全にアウトだ。
会場は静まりかえり、司会者がもう一度聞いてみるが挑戦者は現れなかった。
「それでは1ちー11万円で落札が決定いたしました!!」
「落札された方おめでとうございます。それでは、あちらの採血ルームへとご移動ください」
司会者がそう言うと、落札したぽっちゃり体型の男とまきちゃんと呼ばれたステージ上の女の子は、ステージ横にはけていった。
「あぁダメじゃった。 わしも結構出したつもりだったのじゃが」
ナーシャがオークションで負け落胆している。
「あのぉナーシャさん? これは何をしていたので?」
「見ての通り血のオークションじゃ」
「全く分からなかったんですが」
「お主もこれに参加するのじゃぞ」
「は?」
訳がわからず立ち尽くしていると、早くこいと俺を急かしながらナーシャがどんどん歩いていく。
まだ何もわからないままだが、ひとまず目の前を歩くロリ吸血鬼についていくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます