教えてくれたこと

@dsmfoe9

第1話

 君が教えてくれたこと、忘れません。


 黒く青く光る宵の海、ひとりになりたくて来た。


 私は君を思っています。砕けてしまいそうな、ひとつの気持ちを風に乗せてしまい


 たい。君がこつこつ頑張っているのは知っていました。


 いつも声をかけてあげられなくて、正直なんて言えばいいかわからなかった。


 まだまだ、未来はこれからだよ。


 そういってあげればよかったのかな。


 君が鉄の加工職人になると決めてから、君の行動には目を見張るものばかり。


 そのすべてが英断というわけではないけど、よく考えて何が足りないのかと


 現実に真正面から向き合っていたね。


 君が私を愛してくれたのは、ちょうどそのとき。


 私は君と釣り合うほどのものを持ってなかったけど、積極的な君の告白を


 どうしても断ることができなかった。


 やさしく私の手を取る君が、はあと深く呼吸する。


 言葉にしなくても、もう手に取るようにわかってしまう。


 「大好き」


 君の告白をすんでのところで、バキッと折る。


 毒気を抜かれた表情をして、私はおかしくて笑い転げる。


 そのとき、君はなんていったか覚えてる?


「君にそういってほしかった」


 だよ?


 恥ずかしい。


 いままでそういわれたことがなかったし、君の目はとても凪いでいた。


 近くを通り抜ける子供の喧騒が、とても静かに聞こえる。


 たぶん、ここは私と君のふたりだけの空間になっている。


 みんなはどう思うかな。けど、どうだっていいや。


 ねえ。

 

 私のわがまま聞いてくれる。いや、そんなんじゃないよ。


 けっこう・・・まじめな話。


 君が顔を赤らめる。


 でも、ちゃんと頷いてくれた。


 私たちの子供は、どんな風に育っていくのだろう。


 君に似て生真面目な男の子だろうか。


 私と違って、みんなに意地悪しないといいな。


 胸を這ういささかの不安が、いまの私をないがしろにする気がして、


 すごく気持ち悪かった。


 得てして死んでいく人間たちの後ろを、どうして私までおいかける必要がある?


 死にたくない。


 君の笑顔がはちきれんばかりに輝くのを、目に焼き付けて死にたい。


 死ねるなら、君と子供たちのたくさんの愛に囲まれてゆきたい。


 穏やかに風が這う。


 君が教えてくれた言葉、いくつ覚えていられるかな。


 忘れちゃったりしないといいな。


 乾いた笑いが空を切る。


 とめどなくあふれる気持ちの全部に、いつまで向き合っていられるかな。


 君がいっしょにいれば、なにも怖くないのに。


 いまは、ただ同じ場所にいられないだけで、君と私はこころでつながっている。


 体が熱くなる。


 昔、君が教えてくれた恋に似ている。


 あと、悲しいことも正直に話してくれてありがとう。


 あれ、あとなんだったっけ。

 

 忘れちゃいけないはずなのに。

 

 君が教えてくれたこと、ぜんぶ。

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