次なる計画

 さて、『出世コース間違いなし』ともなれば、次は人生の伴侶を得るため、綿密な計画を練られなければならないだろう。


 ――ここでも僕は、例の不安に苛まれた。


 積み重ねた幸せのお裾分けで、もう充分不幸から回避できているはずだ。

 不思議と他人にお裾分けをすればするほど、僕に幸運が利息をつけて戻ってきた。


 何も心配はいらない。全てが予定通り、順調だ。


 今まで、女性と何度か交際はしてみたものの、長続きはしなかった。

 どうにも一人の女性に興味を持ち続けることができなかったのだ。

 どの女性もグルメや洋服、旅行など、他人に自慢できるような事ばかりに関心を持ち、聞きたくもない話を延々続ける。

 こちらがあからさまに話を逸らそうとしていても、その事にさえ気づかない。

 本当に心を通わせる事ができる女性は一人もいなかった。


 同僚達は、社内にいる派手で傲慢そうな容姿だけ整った女性達を褒め、時には男同士で卑猥な冗談を言う対象として彼女達を蔑んでいた。


 僕は、そんな風に男達に想像で弄ばれている女性などには、まるで興味がない。寧ろ御免被る。


 今後の昇進や将来の安泰を考えれば、僕に黙って付いて来てくれるような女性、決して自己を主張することのない女性が一番妻に相応しい。


 そんな女性を探し始めた時、僕の前に現れたのが靖子やすこだった。


 会社役員の縁故で入社した彼女は、条件の良い結婚相手探し等という野心がなかった。

 これだけ聞くと、昇進したい男性の目に留まりそうなものだが、靖子は決して男好きするようなタイプの女性ではなかった。

 容姿もぱっとせず、誰とも打ち解けず、存在感がない為、男性はおろか女性社員達からも関心を持たれることがなかった。


 ライバルもろくにいないとなれば、あとは話が早かった。

 周囲に愛されてきた僕が彼女に気に入られないはずがない。


 仕事中はそっと要領の悪い彼女をバックアップしたり、一人ポツンと昼休みを過ごしている彼女をランチに誘ったりして、徐々に距離を縮めていった。


 ――孤独な人間は御しやすい。


 僕は靖子と簡単に付き合い始めることができた。

 昇進を狙っての結婚と思われないよう、プロポーズの時期も入念に計画しなければ……

 同僚達は、このアンバランスな組み合わせに口々に噂話を始めたが、愚者の戯言など気に留めることもなかった。


 完璧とは言えない靖子と結婚すれば、また幸せのお裾分け貯金ができる。


 失敗のない未来にまた一歩近づいたんだ。


 それなのに……



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