06 有川 亜里沙③

「弟に、死刑宣告が、判決が下りました。」

「そうですね。これで少しは姉を安心させることができそうです」

死刑が決まっても、姉の美穂が戻ってくることはない。桐本あやで、手紙を書いても、保海には何も伝わることはなかった。どれだけ訴えたところで、保海には伝わらないのかもしれない。だから、手紙を書くのをやめた。溝は埋めることはできない。

保海の姉という中ノ江知奈は、それでも、どこかで私たち家族に理解を求めていたのかもしれない。彼女にも悲痛な叫びもあるかもしれないし、助けを求めるのかもしれないが、私自身がどうすることも出来ない。

 それをどうにかしなくてはいけない立場でもない。1つの事件の被害者と加害者の家族であるのが、私たち2人の共通点でしかなく、それは絶対に交わることはない。

「中ノ江さん、私に何を言っても、だぶん、あなたを満足させる言葉は出てきません。」

「そうかもしれませんね。ただ、お会いできて、本当によかったです。本日はありがとうございました」彼女は伝票を持って、「ここは私が支払いますね」と立ち上がった。

 私は何も言えず、ただ頭を下げた。何も満足させることなど、なかったはずだが、彼女は私に会ったことで、何かが吹っ切れた様子にも見えた。

 何度も謝罪の言葉を言ってくれたが、やっぱり、姉である中ノ江知奈の謝罪が欲しいわけではない。保海は芯から、姉の殺害を反省してほしいという思いが強くなった。


 保海を反省させようと、必死になって務めようが、保海自身が、何も変化を望んでいないのであれば、何の意味ない。どうすれば、私の気持ちに区切りがつくのだろう。心が迷走していく。乾いて喉のように、心を何かで満たしたくなる。保海に何かを望んでも、冷たく身勝手な返答が戻ってくるだけだ。


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