05  有川 亜里沙②

 拘置所の檻は、保海はどう感じてるのだろうか。後悔はしていても反省はしない考え方と、他者より自分のことを優先しているような生き方に違和感がぬぐえない。

 私は保海に何をしてほしいのだろうか。謝罪ではない。それ以外の何かだ。両親は、絶望の中、どう生きるかを懸命に生きている。一緒に暮らしている兄はその支えに疲れている様子もある。姉が殺された日、私も実家に戻って暮らそうとしたが、「実家のことは俺たちに任せて、亜里沙はそっちで頑張りなさい」と兄に言われたので、実家に戻ることはなかった。

 そんな時に、大学の時のゼミ仲間の門倉悠仁から、中ノ江なかのえ 知奈ともなという人物に会ってやってほしいと連絡が来た。その人は『事件のことで、話を聞かせてほしい』という事だったが、あまり事件のことを聞かれたくなかったので、初めは断ろうとした。ただ、門倉くんから、真剣な様子で頼んできたので、断れなかった。

仕事が休みの土曜日に、私が住む駅にあるカフェ『エルモ』で待ち合わせた。最初は、門倉くんと3人で会う予定だったが、中ノ江 知奈という人物と2人で会うことになったしまった。

エルモに入ると、奥に座っていた人が立って、私に頭を下げた。なんか嫌な感じは残るが、その人の所に行った。女性は20代中盤くらいで、26歳の私と変わらない感じはした。

「はじめまして、中ノ江知奈と言います。突然、会いたいなんて言ってしまって、すみまんでした。」

「構いませんよ。事件のことはあまり聞かれたくないのが本音ですけど、興味本位だったら、嫌だったですけど、門倉くんの紹介だということなので、了承しただけです」

「ありがとうございます。 」

彼女は少し黙った。何かを言いたげだけど、言う事に勇気がいるかのように、言葉が押し殺されているようだった。

「保海健太のお姉さん、ですか?」

私はそう彼女に聞いてしまった。

「やっぱりお気づきだったですね。不本意だとは思たんです。私たち家族を理解してほしいわけじゃないです。弟の犯した罪は償いきれないことだと分かっていたんですが、どうしても、美穂さんの妹さんに会いかったんです」

彼女は言葉を押し殺してる様子は変わらず、低い声で淡々と言葉が並んでいく。

「そうですか。遺族の怒りというものに関して、私はそこまで強くないのかもしれないです。姉が戻ってこない気持ちが強くて、両親のような気持ちになれません」

「私たち家族が、何をしても、美穂さんのご家族の満足できるような償いが出来ないと思いました。弟には、償えるように全力を両親と共に、やってきましたが、何をしていても、暖簾に腕押し状態で、突破口が見つからない状態が続いています。こんなこと、亜里沙さんに話したところで、意味がないけど、どこかで、向き合わないと、何も償えないように感じてしまったして。」

 心の葛藤を聞かせれても、私は彼女の寄り添うことは出来ないと感じてしまう。姉を奪った家族に対して、同情しらいりすることは、やっぱり不可能だ。

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