03 有川 亜里沙①
姉は、保海健太の担当医ではなかったことは聞いていた。クリニックで、挨拶するレベルの相手だったらしい。そんな相手に、目を付けられてしまったのだ。順風満帆な人生を31年で、幕を閉じた。
姉の死因は保海の性行為により、ショック死をしたとされていることから、殺意はなかったとされている。だけど、姉を冷蔵庫に、無残な姿で、押し込めたことは殺意がない人間のやることではないともされている。
たた、保海が、姉の遺体を『美しい』と言っている。姉の遺体に対して、美しいと表現する人を殺意がなかったとは、到底できるわけもなかった。大切な人が殺されてしまった遺族に対して、反省の色は何一つ感じることはできなかった。
ただ、戻ってこない、私の心配をばかりしてくた姉。もう会うことができないという現実を受け入れることができない。
雑誌に、『保海は後悔はしてるが、反省はしていない』と書かれていたことが気になっていた。それがどう意味なのか分からないでいたので、保海に直接、確認を取りたかった。そこで、手紙を書くことにした。
ただ、両親が保海に、反省の弁を述べた手紙を要求しているので、遺族として手紙を書くことはできなかった。
そこで、小学校4年生くらいの女の子を想像して、手紙を書くことにした。子どものような字で、何通か手紙を書いたが、宛名を書くのを忘れていた。
だから、返事がないと思った。ただ、あて先を書いてしまえば、遺族とバレてしまう可能性もある。そこで、拘置所の職員の方に渡してもらえるようにお願いして、保海から受け取った手紙を送ってほしいと、返信用封筒と切手を渡した。でも返信は来なかった。それもそうかと、思った。ここ最近、両親にも手紙が来ていないと聞いていた。そんなことすら気づかなかった。相手は殺人鬼だ。人を殺すことに何の抵抗もない人だった。そんな人間が、親切なわけない。どうすれば、保海は手紙の返事をかいてくれるのだろうか。
会社からアパートの郵便受けを確認すると、それは私が拘置所にお願いした返信用封筒が入っていた。
封筒を開けてみると、冷たく錆びつた文字で、『死んだ人は返せません。僕も会いたいです。』だけだった。これを見て、初めて、後悔はしてるけど反省していないことに気づくことになってしまった。見てはいけないものを見てしまった気がした。知らなければ良かったとさえ、思えた。
悪寒が身体中に走り、心が凍り付くような、気味が悪い感覚に襲われる。これが人を殺せる人間なんだという事実を突きつけられた気がする。
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