第7話 事件

「た、たすけてくれぇ!!だ、誰か!!」


 男は一人、森の中を走り続けている。しかし、その男の声に応える者はいない。


 男は考える。何故今自分はこんな森にいるのかと。どうしてこうなっているのか、何故自分が逃げているのかさえ、男は走り続けている間にわからなくなっていた。


 その時、男の視線の先に人影が見えた。男はその人影に向かって大声で助けを乞う。


「頼む!!そこの人!!助けてくれ!!」


 なんとか人影の元まで男は辿り着くが、それと同時に絶望を知った。


 何故ならその人影は、赤いずきんを被り、狂気的な笑顔を浮かべている。その姿は赤ずきんを彷彿とさせていた。


「あ、赤ずきん……ッ!?」


 そして男は思い出した。“自分は今目の前にいる赤ずきんに殺されそうになったいたこと”と“その赤ずきんから逃げていたこと”を。


 男の絶望の顔を見た赤ずきんは、より一層笑顔で彼の最後の手向けとしてこう言った。


「“咲夜を傷つけたお前は死ねばいい。でも、感謝だけはしとくぜ?だって、お前らのおかげで俺は咲夜と出会えたのだから”」


 赤ずきんは鎌を振り下ろした。赤い鮮血が傷口から吹き出し、男の体と赤ずきんの鎌が血で染まっていく。返り血を浴びながらも笑顔を保つ赤ずきん、その光景は男の目線から言えば、悪魔や死神そのものであった。



 男に鎌を振り下ろした赤ずきん、赤羽零は、手の甲で頬に付いた返り血をこすり取った。


「三人目……今日はここまでか」


 彼は一条咲夜に嫌なことをしてきた人間をピックアップし、既に二人を殺害していた。


 鎌にこびりついている血を零は落とすと、ずきんを脱いだ。


 月明かりが照らす中、スマホを取り出し、彼はリストアップした名簿をスクロールしている。


「それにしてもこんなに咲夜を傷つけた奴がいるのか……さっさと殺して咲夜には楽しく生きてもらわないと……」


 そう言って、零は帰路へと向かった。


 翌日のニュースでは、また赤ずきんが起こした事件が報道されていた。そのニュースは


「昨夜、三人の男女の遺体が発見されました。また、赤ずきんの犯行だと思われ、遺体は“”で惨殺されて発見されました」


というものであった。


 そのニュースを見て零は口角をあげた。それは今までよりも、殺人に対しての達成感と満足感を感じていたからだ。


 彼は、“一条咲夜のため”になっていると思うと、心の底から満足していた。


「さて、次はどいつから殺していこうか」


 微笑みながら彼は次のターゲットの詳細を見ていたのだった。

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