第5話 感情

 それから俺と一条……咲夜は今までよりも仲良くなっていつもの公園で楽しく喋り合っている。


 一度、咲夜と連絡先を交換しようとしたら、スマホなどの携帯電話がなかったようで無理だった。そのため、休日に遊びに出かける場合は、公園であらかじめ日程を決めて会うようにした。


 ここまではいい。仲良くなったことで損をすることはない……が、どうも咲夜といると今まで自分が知らない感情が渦巻くようになった。


 その感情がよくわかっていない。どうしたものか、と考えたとき、“あいつ”に聞こうと思った。“あいつ”は人の感情がわかる奴だ。聞けば一発でわかるだろう。


 そう思い立ち、俺はそいつの家へと向かった。


 電車に乗り、数十分。元より相手には行くことを伝え、迎えに来てもらった。


 駅前に白い車が停まっている。その白い車はプリウス……あいつが一番好きな車の種類だ。


 そちらに近づくと、一人の男が運転席から顔を出して俺に手を振った。


「よぉ、零。久しぶりだな。泊まってくか?」


「いきなり泊まってくかはおかしいだろ……まぁ、場合によっては泊まってくよ」


 俺がそういうと、そいつは軽く笑った。そいつの車の助席に座り、シートベルトをする。俺が乗ったのを見終わった後、車を出した。


「んで?話って?」


「なあ……恭介」


 恭介……秋雨恭介あきさめ きょうすけに俺は助席から問いかける。


「“グリム”の人間は、感情がわからない奴が多いのか?それとも、俺が特殊なだけなのか?」


 “グリム”とは、俺や恭介を含めた血縁関係を“グリム童話”に出てくる人物として呼び合う習慣が身に付いている家系のことを言う。俺で言うならば、“グリム童話”に出てくる“赤ずきん”と、親戚一同が俺に対して迷うことなく呼ぶことだ。


 そのグリムの中にも複雑なしきたりは存在する。例えば、俺の家に“両親が何故いないのか”、ということも関わってくる。


 そんなグリムに、俺はしきたりから感情がわからない奴が多いのではないかと少し疑問に思ったのだ。


「んー……そんなことはないと思うが、しきたりのせいで欠如してる奴はいるかもな。そいつはそいつで何とかしてはいるんだろうが」


 そう、恭介は一旦考えた後、俺の質問に答えた。


「というか、本題はグリムじゃないだろ。お前が今更そんなことで悩むなんてありえないからな」


 どうやらお見通しのようだ。


 俺は口を開いて、また質問した。


「わからない感情ができた。その感情の正体を知りたい」


「……それは、俺にお前の感情を読んで明かしてくれ、そう言いたいのか?」


 俺はその言葉に強く頷いた。


「……本当は嫌なんだが……仕方がない。家に着いたらしてやるよ。可愛い従兄弟のためだしな」


 そう会話してから数十分。恭介の家に着き、車を降りた後、家の中に入れさせてもらった。

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