第4話 友達

 ある日のこと、俺はまた公園に訪れる。それは一条に会うためだ。いつもいるブランコにそいつは座っている。


 子供の姿はなく、ましてやホームレスもいない。今は赤ずきんの騒動で誰も夕方の時間にはこの公園に訪れる人はいない。実質、俺と一条しかいないのだ。


「赤羽さん!」


 一条は俺が来るといつも嬉しそうな、楽しそうな声色でブランコに座って見ている。そしてその後、学校で習ったことやどんなことが好きなのかなど、些細なお喋りを始める。


 何度、白騎士の教団なのか、そうでないのかを判別する宝石を使おうとして諦めたことか。判別できて、もしも敵だったどうする?俺はこいつを殺さなければならない。


 そんな現実から逃げたくて未だに使っていない。


 何故自分がそこまで怖がってしまうのかもわからない。でも、知りたくなくて過ごしてしまう自分がいるのだ。


「僕、こんなに人といっぱい喋るの初めてです。赤羽さんと出会えてよかった」


 その言葉を聞いて胸の奥が暖かくなる。一条は俺と喋っている時は、本当に楽しそうで、こいつが嫌われているなんて考えられなかった。


「そういえば僕、自分のことばかりで赤羽さんについて何も知らない……」


「俺なんてロクなことをしてない……別に知らなくたって一条は困らないぞ」


「でも、僕知りたいです。いつも聞いてもらってるから…」


 そう言った一条は俺の方に体を向け、聞く体制を取っていた。


「教えてください、赤羽さん。僕もっと赤羽さんと仲良くなりたいんです」


 真っ直ぐな曇りのない目で俺を見る一条のお願いを断れることもなく、自分に不利にならないところだけ教えることにした。


「俺は、学校での友達はいないな。自分から近づかないし、相手からも最低限しか話しかけられることもない。周りと仲良くするのは苦手なんだ」


 そこまで言うと、突然手を一条に掴まれた。驚いて一条を見る。


「じゃあ、僕と同じですね!なんか、こんなこと言ったら失礼ですけど……仲間が増えたみたいで嬉しいです」


「仲間……?」


「僕、本当に身の回りの人から嫌われてて……こんなに楽しくお喋りしたことなんてなかったんです。だから、本当に赤羽さんと出会えてよかったって思えるんです」


 ふわりと笑う一条から俺は目が離せないでいた。


 この笑顔は俺だけ?楽しそうに警戒しないで近寄ってきてくれるのも?今この瞬間に一条と一緒に過ごせるのも?話を共有できるのも?笑い合えているのも?


 全部全部この俺だけが一条を幸せにできている……?


 そう思うと、優越感が湧いてきて口角が上がりそうになる。何とか笑みを堪え、一条の頭を撫でる。


「じゃあ、俺られっきとした“友達”だな」


「“友達”……初めての…僕の“友達”……!」


 一条はその時、今まで見たこともないよう綺麗な笑顔で笑っていた。


 変な気分だ。今心臓が強く鼓動した気がする。それに妙に心が暖かい物で満たされていく感覚…。


 わからないけど、きっとこれは最高な気分だっていうことだけはわかる。

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