10話.[そう思ったのだ]

「え、華恋が水嶋さんのことを好きだって?」

「ああ」


 昼休み、やって来たよく分からない女子と話していた。

 あれを言おうにも彼女から許可が下りなければ無理だ。


「へえ、華恋が水嶋さんのことをねえ」

「疑っているのか? もしそうなら本人に聞いてみればいい」

「違う違う、私はてっきり志帆が好きなのかと思って」


 ああ、それは私も考えていたことだ。

 志帆だって私ではなく華恋か他の人間を好きになるべきだった。


「ふっ、いいんじゃない!」

「……てっきり文句を言われるのかと」

「それでも水嶋さんばかりを優先させはしないけどね!」

「それは安心してくれ、束縛するつもりはないからな」


 このことは他言無用でと頼んで教室に戻ることに。

 が、この日の放課後は華恋のやつを分からない女子が連れて行ってしまったので伝えられず、できれば自然な感じがいいからと携帯も利用せずにチャンスを伺うことしかできなかった。

 ……私は先に分女子(分からない女子)に言ってしまったことをすぐに後悔することになったのは言うまでもなく。


「まだ言えないの?」

「ああ……言えない……」


 ちくしょう、こうなると本当に焦れったいな。

 自分の気持ちをぶつけられずに足踏みすることしかできない人間の気持ちが少しだけ分かったような気がした。


「携帯を持っているんだから意地を張らずに呼び出せばいいのに」

「いや、それは卑怯――あ、すまない……志帆からのは断ったのに」

「なんで? 涼のスピードっていうのがあるでしょ? 私のを断ったとかそういうことで焦らなくていいんだよ?」

「ありがとう」


 もういい、今日言うことにしよう。

 いまさらになって諦めたとか言われても嫌だからな。

 そうしたら軽く自分をぶっ飛ばしたくなるからしょうがない。

 それでもツールは利用しない、母に言ってから外に出た。

 焦れったくて仕方がないから走って彼女の家に。

 インターホンを鳴らそうというところで彼女が帰ってきた。


「涼……?」

「ちょうど良かった、少し付き合ってくれ」

「家の中じゃだめなの?」

「駄目だ、頼むから来てくれ」


 意味なくまたあのベンチが設置されているところまで連れて行く。

 意外にも勝手に悲観して暴れるなんてことにはならなかった。


「で、どうしたのよ?」

「告白の返事をした」

「そう、良かったじゃない」

「だからもう引っかかる必要はないぞ」

「は……あんたまさかっ!」


 こっちの胸ぐらを掴むかのような勢いで近づいて来た彼女をそのまま抱きしめた、今度は暴れたから少しだけ力を込めて静かにさせる。


「受け入れる」

「……なんでよ」

「いまさらやめます、なんて言ってくれるなよ? 流石にそんなことを言ったら怒るからな、好きだと口にしたのなら最後まで責任を持て」

「わ、分かったから……離しなさい」

「駄目だ、受け入れてもらえて良かったと言うまではできない」


 とはいえ、勢いだけで言われても嫌だから体を離した。


「う、受け入れてもらえて……良かった」

「もっと嬉しそうな顔で言ってほしかったが、ふっ、まあいいだろう」


 もう1度抱きしめておく。

 彼女は今度こそ体を冷たくさせていた。


「お前が好きだ」

「そ、それは嘘よね?」

「だからこれから好きになれるようにお前といる、それでいいか?」

「……うん、それでいいわ」


 これで自信を持って志帆と接することができそうだ。


「帰ろう」

「……まだいいじゃない」

「それならまだ外にいようか、それでも家まで移動しよう」


 帰りは当たり前のように手を繋いでの歩きとなった。

 先程と違って暖かいどころか熱いぐらいの手。

 ……少し卑怯な気がするが安心してほしいから手を引っ張って無理やりしておいた。


「ああ、あ、あんた、なにして!?」

「私のことが好きなのだろう? それに私はお前のことを好きになる! だったら問題はないだろう」

「……言ってからにしてよ」

「ふっ、唐突なのは華恋も同じだろう?」


 色々と言い訳をしていたがいきなり好きとか言ってくるぐらいだ。

 このことに関してはこちらは間違っていないと言える。

 けれど嫌われても構わないからこれからは言ってからにしようかな、と。

 でもまあ、不意に攻撃をして真っ赤にさせるのも面白いのだけどなと、いま実際顔を真っ赤にしている彼女を見てそう思ったのだった。

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09作品目 Rinora @rianora_

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