13.キュウリ探索

 水と安全はタダというが、真水資源はやはり貴重だった。

 神域だというのに、女神様も強気に出れず、意見を調整。

 ボクは、広大な森の中、キュウリを探して探索することになったわけである。


 キュウリをとってきて、畑で栽培するのだ。

 そのためには、


「どこにキュウリが自生しているんだ」


 背中に篭を背負ったボクは、緑一色に染まった周囲を見渡す。


「知らないのだ!」


 ドヤ顔でキコがずんずん前を進む。


「柿とかは知っているのに、キュウリは知らんのか?」


「あんな水っぽい物は好かんのだ」


「そうか」


 一応、獣道のような物が続いているので、鉈で伐開しながら進む必要はない。

 カッパもこのあたりの道を進んでいるのだろうと、類推し行くしかなかった。

 ネットで見たことある昭和のテレビ番組の「探検隊」じゃないんだから……と、思いつつも、意外に楽しんでいるのかもしれない。悪くない。

 森の中――密林に近いが――を歩いていると、濃厚な酸素のせいか気分もハイになってくるのかもしれん。


「あ、水が出ているのだ!」


「岩清水だな」


 森の中で巨大な岩がついたてのように立っている場所があった。

 そこから、チロチロと水が流れている。

 地下水が吹き出ているのだろう。


 思えば、喉が渇いていなくもない。


「飲んでも大丈夫だよな」


「平気なのだ!」

 

 ということで、ボクとキコは、染み出した天然水を手にとって飲んだ。

 冷たいし、上手い。アホウのように美味いのだからびっくりだ。


「この水だけでも売れるんじゃね」


「そうなのか?」


 ミネラルウォータとしても売れそうなほどの品質というか、これ以上に美味いミネラルウォータはないような気がした。

 しかし、目的は水の採取ではなく「キュウリの採取」なのである。

 

 この場所を記憶しつつ、先へ進む。


        ◇◇◇◇◇◇


「舞茸なのだ! 美味いのだ! ナメコもあるのだ!」


「おお、キノコか……」


 大量のキノコ類。

 もしかしたら、マツタケもあるかもしれないが、今はキノコ狩りにきているのではない。

 が、見逃すのもおしい。


「少しは持って返るか」


「それが良いのだ」


 以前、キコが仕留めたイノシシの肉の残りは、女神様の社にある冷蔵庫に保管してある。

 なぜか、無駄に大きい冷蔵庫を持っているのだった。

 もう一度、キノコ+牡丹肉で鍋ができる。


 ちなみに、女神様が電気代の支払いをどうしているのかは、よく知らない。

 

 ぜんまいのような山菜も一緒にとって、篭にいれる。

 しかし、キュウリは見つからない。


(どこにキュウリはあるんだ)


 ということで、ちょっとキュウリについてスマホで調べた。

 電波が通じる。

 神域といっても、一応千葉県内なので、当然なのだろう。

 電波を通さないような不可思議な障壁はここには無いようだ。


「キュウリって、ヒマラヤ原産なのか……」


 それから、温暖な気候を好むとか、探索にはあまり役に立ちそうもない情報を手にいれる。


        ◇◇◇◇◇◇

 

 緩やかな坂道(獣道)を登っていく。

 常陽樹林が密集して、日の光まで緑に染まっているようだった。

 キュウリも緑だ。保護色になっているんじゃないかと、探すがない。見つからない。

 

 坂道は平坦な道になって、今度は緩やかに下っている。


「あれ、なんか小さな丘のようだな」


「うむ、丸いおにぎりのような丘なのだ」


 ボクらが立っているのは半球の頂点のような場所。

 こんもりと森の中で盛り上がった場所だった。


「何者? おぬし、ら? いかがした、来たのか、どこから」


「え? なに?」


「知らん者、きた、来るというのは、何か? 誰なのか?」


 声がした。その方向を見る。


 いた。


 声の主は小さかった。

 声の主はどー見ても「埴輪」だった。


 村上春樹の小説なのか?

 困惑しようと、しまいと、ボクは自然にそう思ってしまうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る