14.埴輪軍団
「訊くということは、答える諸君、誰なりや? 全世界は知らんと欲す」
日本語をぶっ壊して、再構築したような言葉で埴輪が聞いてきた。
というか、埴輪が話ということで、驚いてしかるべきなのだろう。
だが、女神、子鬼、龍神、カッパときて、話す埴輪だ。
もう慣れたというか、インパクトが少ない。
「ボクは新地高作といいます。こちらがキコです」
「そうですかと、思うあたしは思うが故に実存? ということは、汝らも実存であるからして、何のようなるか? WHY?」
埴輪は名乗ることも無く、質問(?)をぶつけてきた。
「えっとですね。キュウリを探しているんですが」
「キュウリとは何処に自生するや、回答不能であるのは、あたし知らぬが故なりけり」
「なるほど」
ぎりぎりでコミュニケーションが維持で切る会話をする。
埴輪はキュウリの場所を知らぬと分った。
「しかし、ならば他のわたしは知っているのやも知れぬなりけり」
と、埴輪が言うと、ワサワサと埴輪の群れが出現してきた。
無数の埴輪であった。
「わっ――!!」
結構びびる。
自分の生涯で大量の埴輪に囲まれる経験をするとは、流石に想定したことがない。
というか、神域で経験していることはほぼ、想定外のことばかりなのだけども。
「キュウリなりけり」
「キュウリなりけり」
「キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ、キュウリ」
と、埴輪の群れが会議(?)を始めたようだった。
シュールを通り越して異様だ。
「な、なんなのだ……」
子鬼のキコも日常性の外側の存在であるが、それでもこの光景にはドン引きしていた。
「キュウリ探すなりけり。あたしが力かすよろし、OK?」
一体の埴輪がボクの前に出てきた。
キュウリを探すのを手伝ってくれるということらしい。
「え、探すのを手伝ってくれるのですか?」
「あたし主を欲す。ほしくある。命令。ほしいのであるから、ください。あたしは探すなりけり。キュウリ」
「主?」
「命令欲しい。命令欲しいし。あたしは、命じられたいのですなりけり」
「え? そうなの」
「なにを言っているのだ? この土人形は」
キコは崩壊寸前の言語の意味が分らず、ボクに聞いてきた。
「この土人形―― まあ「埴輪」という物にしかみえないのだが、それがキュウリを探してくれると言っている」
「え――、こんな変なのなに探すことなど出来るのか?」
「分らんが、ここにきては手詰まりだからなぁ……」
怪しいといえば、これ以上怪しい存在はないとは思うのだけど、せっかく手伝ってくれるという。
「じゃあ、キュウリを探して、もってきてくれるかい」
「ありをりはべりいまそかり」
一体の埴輪がそう言うと、群れをなした埴輪は、クモの子を散らすがごとく森の中に消えて行った。
ボクとキコはその光景をただ見つめて立っていた。
◇◇◇◇◇◇
「おにぎり、美味しいのだ! ワシはおにぎり大好きなのだ」
ということで、小山の上でボクとキコはおにぎりを食べている。
昼食ということだ。
「タラコとオカカはどっちも美味いのだ。なぜなのだ」
「美味ければいいじゃん」
「なるほどぉ!!」
そんな全然内容のない会話をしつつ、埴輪たちが戻ってくるのを待つ。
「コウサク、あいつらキュウリ持ってくるかな?」
「さあな~ もう
「それがいいのだ」
米粒を顔に貼り付け、子鬼のキコは言った。
そもそも、埴輪がキュウリなるものを理解しているのかどうかも怪しいので、期待はあまりしていない。
と、すると――
埴輪が草を掻き分け、戻ってきた。一体だけだ。
「キュウリ、キュウリ、キュウリあったのだ」
棒みたいな手にキュウリを持っていた。
どうゆう原理なのか、分子間力だかファンデルワールス力だか、ドラ○もんの手と同じなのかは、この際問うことはない。
キュウリを見つけてきてくれたことが重要なのだ。
「キュウリはあたしによって見つけられたのでありおり、諸君は歓喜か?」
「そうかぁ」
ボクはキュウリを受け取った。
まあ、確かに嬉しさはある。
これで水問題は解決できるのだから。
「じゃあ、戻るか」
「うんなのだ!」
ということで、ボクとキコは森を出るべく、来た道を戻る。
しかしだ――
「なんで、こいつらついてくるのだ?」
キコが後ろを振り返る。
「あたしは、主とともにいるのだ。諸君よ! 嗚呼、栄冠はあたしに輝く」
どーもよく分からんが、ボクは埴輪の主となり、埴輪は主の後をついてくるということらしかった。
埴輪の群れが森の下草を掻き分け、前進するさまは、シュール極まりないものだった。
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