12.カッパが水利権を主張するのだが

 カッパ出現である。遭遇。

 まあ、神域で女神様、子鬼、龍神(外から来た)もいるのだし、川にカッパがいてもなんら不思議はないだろう。


「勝手に水を使うんじゃねぇよ。川はオイラの縄張りだぜ!」


 アヒルを短くしたようなくちばしをパクパク動かしカッパの抗議。


「女神様にちゃんと許可をもらっているのだけど……」

「そうなのだ!」


 ボクとキコが反駁はんばくするとカッパはムッとする。


「女神様が許可したっていっても、オイラが困る。水が減るだろ」


「川の水はくみ出しても川の水は減らんと思うが……」


「そうか? そうなのか? 本当にそうなのか? 絶対か?」


「そこまで突きつけられると……」


「ほら見ろ、絶対とはいいきれんだろうが!」


 カッパは怒りを納めない。


「とりあえず、女神様に相談してみる」


「まて、オマエは女神様のなんだ? 何者だよ!」


「名前は新地高作。女神様の神域で農業をすることになった。元社畜ですけど」


 なんかよく分からん自己紹介をカッパ相手にしてしまう。

 客観的にみてかなりシュールだ。


「オイラはカッパの定吉だ。いいだろ、女神様に白黒つけてもらおうじゃないか」


 思わぬところで、水利権の問題が発生。

 水確保の問題は世界的な課題であるけども、神域でもいろいろ面倒くさいことがあるのかと、ボクは思う。

 とにかく、女神様に言って、丸く治めてもらうしかない。


        ◇◇◇◇◇◇


「う~ん、困ったのじゃ」


 女神・イルミナ様も川辺にやってきた。

 で、カッパを説得する。


「水は減らぬ。絶対じゃ。神に誓こうて減らぬのじゃ」


「水は減らないかもですが―― そいつの音がうるさい! 水の流れが変わって、イライラします!」


「そうは言ってもなぁ……」


 女神様は大きな胸の上で手を組み、思案気な表情を作る。


「女神様、水がなければ農業できませんよ」


「であるなぁ。困ったものじゃ――」


 と、川から上半身を出してプンスカするカッパを見やる。

 女神様も無理やりカッパを従わせるという感じがない。

「和」を重視する日本の神々らしいといえば、それらしい。

 が、問題を解決していただかないと、ボクも困ってしまう。


「おお、そうだ! カッパよ」


「なんですか? 女神様」


「農業ができれば、ヌシの好物であるキュウリも大量にできる。食べ放題じゃ!」


 バーンと大きな胸をゆらして、女神様が言った。


「まじっすか!!」


「まじじゃ」


「それは魅力的なんすけど、オイラの好みのキュウリの味が再現できますか?」


「好みのキュウリだと?」


「奥の森に自生しているキュウリなんすけどね」


「うむぅ……」


「どうなんですか、女神様」


 言葉につまった女神様にボクが訊く。


「全く同じ味となると、まずはそのキュウリを手に入れればならぬじゃろうな」


「キュウリを手にいれる?」


「そうじゃ、森の中に入って、自生するキュウリを持ってくるのじゃ」


 ああ、そんなことかと、ボクは思った。

 すでに竹を刈ったり、柿を採ったりで、森の中に入っている。

 キュウリを採りにいくくらい、どうということもないだろう。


「じゃあ、行きますよ」


「結構、森の奥になるのじゃ」


「ワシも知らんのだ。キュウリは水っぽくて好きではないのだ。おにぎりの方がいいのだ」


「なんだと、このガキ鬼!」


「なんだと、緑のカッパ」


「人をカップ蕎麦みたいに言うな!」


「まあ、落ち着け、ようはキュウリを採ってくればいいんだろ。行こうぜ」


 ということで、ボクとキコは森の中に入って、原生するキュウリを探すことになった。

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