11.ポンプ設置したら

 今日も、自宅で神棚を拝む。

 すると、景色が歪んで「神域」へ移転できるのだ。

 通勤が楽ちんだ。


「おはようございます!」


 社の中に転移したボクはイルミナ様に挨拶する。

 今日も綺麗だし、胸が揺れている。

 でかい。まあ、あんまりガンミしないようにしているけど。

 

「おお、来たな」


「プリンでございます。お納めください!」


「おお、なんとも…… これはクリームが載っているではないか!」


 ボクはにやっと笑って、イルミナ様を見やる。

 イルミナ様の表情には驚きと歓喜が混ざっていた。


「ええ、今日は記念すべき日ですからね」


「うむ、そういえば、そうじゃの」


 イルミナ様と一緒に社から出る。


「おわ! すげ!」


 広がる耕作地には等間隔で竹製のラインが引かれてあった。

 

「ドリップ式灌漑設備ですか」


「そうじゃな」


 竹で出来た管に水を通して、ぽたぽたと水をやり続けるのが、ドリップ灌漑だ。

 いや、竹じゃなくてもいいんだけどというか、普通は竹は使わない。

 とにかくだ。

 あれから、ボクも調べて多少は知識をつけた。

 この灌漑設備こそが、農業の最先端技術といえるもので、日本ではあまり取り入られていない。

 外国では、砂漠の国であるイスラエルが大規模に取り入れ、EUに農産物を輸出する一大農業国家になっている。

 砂漠の国ですら、豊作を担保する凄まじい技術のものなのだ。


「農業とは自然との知恵比べよ、農業と書いて『脳業』であると理解せよ」


「確かに頭を使って工夫すべきですよね」


 イルミナ様が遠くを見つめ、ふっと息を吐く。


「この国の農業は歪になってしまったのじゃ。単位面積当たりの収穫量の増産は目指さず、味ばかりを追及し、袋小路に入っておる。豊穣であることで逆に収入も減ってしまう」


「はぁ」


「結局のところ、国内需要しか考えておらんから、安くて大量に作るというところに目がいかん。それではいかんのだ。我とオヌシは世界を目指す!」


 大きな胸を張ってイルミナ様は言った。


「世界っすか!」


「ああ、追々はな」


 それはそうだ。

 今は、まだ灌漑設備ができたばかりで、世界もクソもないのだから。


        ◇◇◇◇◇◇


「これがポンプですか」


「そうじゃ、脚踏み式ポンプで、一回踏めば一時間は稼動し、水を供給できる」


「これを灌漑設備に繋ぐわけですね」


「うむ」


 ポンプは片手でもてるくらいに小さい。

 こんなもので、大量の水が供給できるというのも、神器であるからだろう。


「コウサク――!! おにぎり! 今日のおにぎりなのだ!」


 森の方からトトトトトと、褐色の物体が駆けてきた。


「おお、キコかぁ」


 子鬼のキコは森に住む鬼だが、ボクになついて毎日農場にくるようになった。

 もしかしたら、おにぎりに餌付けされただけかもしれないが。


「ほら、今日は爆弾おにぎりで、中身はタラコだ」


「おお! めんたいこだと! それは凄いのだ!」


 なにが凄いのか良くわからんが、ボクは自作のおにぎりを渡す。

 小さな手でそれを受け取って、ラップをめくる。

 キコはその場でパクパクと食べだした。


「美味しいのだ! ワシ、おにぎりだぁいすきなのだ!」


 米粒を口にくっつけキコは満足そうに言った。


「じゃあ、川まで一緒に行くか」


「おお、行くのだ」


 ボクとキコはポンプを設置するため川までいった。

 川は西の方に北から南に流れている。


        ◇◇◇◇◇◇


「綺麗な川だな」


「そうだな。魚もとれるのだ」


「そうかぁ」


 魚をとって、それでも出荷できるんじゃないかとちらりと思う。

 まあ、それは後はまずはポンプを設置だ。


 ボクとキコはポンプを設置して、灌漑設備にくっつけた。


「で、脚踏み一回で一時間稼動するってことは、24回踏めば、一日中動くってことか……」


 ボクは脚ふみをぐっと踏んだ。さほど体重をかけることもかく、踏めた。


 ゴゴゴゴゴッ――

 っと、水音がして、川の水を吸い上げるポンプ。


「あはははは、面白いのだ。ワシもやるのだ」


 キコが面白がって、ガンガンと踏む。

 

「あははははははは」


「おいおい、あまり踏んで壊れてもいかんし、それくらいにしてくれ」


「分ったのだ」


 順調に水は流れているようだ。

 あとは、種まきして、栽培するだけ。

 ガンガン育てて、ゆったり農業ライフを満喫するのだ。


「おいこら!! なにやっとるんじゃぁぁぁ!!」


「え?」


 声がした。

 それも川の方からだった。

 ボクとキコが振り返る。


 そこには声の主がいた。


「勝手に川の水を使うんじゃねぇぇ!!」


 声の主は緑色のぬめぬめした肌の持ち主。

 頭の天辺に皿を載せていた。


 カッパだった。

 ボクは、カッパに注意されたのだった。

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