10.灌漑設備完成を目指して

 柿の採取は、貴重な現金収入の元になる。

 一日で三万円以上の稼ぎになるのだから悪くない。

 キコは、おにぎり三個で手伝ってくれるし、元手がかかっていない。

 

 ただ「採集」なので安定した収入になるかというと分らない。

 というわけで、ボクは「農業」をするわけだ。


「この竹を女神様のところまで運ばんとな――」


「分っているのだ」


 竹は山ほど伐採した。そろそろ運び出していいだろう。

 ということで、ボクは先日Amazonで購入した「リヤカー」を神域に持ち込んだのだった。

 積載量最大三五〇キログラムの頑丈なやつだ。


 竹をリヤカーに詰め込むのだが、さすがに一回では全部運びきれないというか、何往復すればいいのか、よく分からん。

 

 開拓した農地はおよそ、一ヘクタールくらい。一〇〇メートル四方。一万平米ということになる。


「女神様、竹です」


「うむ、この一〇倍ほどもあれば、十分であろう」


「一〇倍って、一〇往復ですか?」


「そうじゃな」


「結構、大変だ……」


「面白いのだ」


 後ろで落ちないように竹を支えているキコは楽しんでいるようだった。

 ボクはさほど楽しくはないが、まあ前の会社での仕事に比べれば、目標が明確でやりがいもあるというものだ。


「あ、女神様」


「なんじゃ?」


「リヤカーを神器に改造するとかできないんですか? 能力を付与するとか?」


「それは出来ぬのじゃ」


「そうなんですか……」


「神域の外で作られたものを神器にすることはできぬ。それは人の手により創られたものであり、神の物ではないのじゃ」


 理屈はよく分からないが、ルールとしてそういうルールなのだと理解はできる。

 まあいい。

 ということで、ボクは竹運びを続けるのだった。


        ◇◇◇◇◇◇


「結構な量になりますね」


「これくらいあれば、十分であろうな」


 女神様は笑みを浮かべ、竹の山を見やる。

 すっと歩み寄ると手を当てる。

 ぼぉっと手が金色の光につつまれた。 


「ほいさ」


「うわッ!」


「凄いのだ!」


 女神様がちょっと気を流し込んだのだろうか?

 神様の気だから「神気」か。

 竹は爆ぜるように飛んでいき、ドリップ灌漑設備のチューブとなって、耕地に設置されていく。

 

「おお、凄いな……」


「凄かろう。小一時間で灌漑は出来てしまうのじゃ」


「そうですか」


「で、なにを作るのじゃ? 高作は」


「なにを作ったらいいですかね」


 なにを作るかと聞かれても、ちょっと即答できない。

 質問を質問で返してしまうボクだった。


「トマトかのぉ~」


「トマトですか」


 特に反対する理由もない。

 トマトが嫌いな人もいるだろうが、ボクは別に好き嫌いがない。


「はい! ではトマトでお願いします」


「分った。では設備が完成次第撒くことにしようか」


 ということで、農業生活はいよいよ本格化しそうだった。

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