9.竜神様に柿を売った

「えっと、龍神さんですか?」


「あはッ、なに? わたしの顔になにかついてる?」


「あ、すいません」


 思わずガン見してしまった。

 いや、女神様や子鬼がいる時点で、龍神様が存在してもおかしくない。

 おかしくはないが……


「新地高作です。ここで『農業』をやる予定なんですけど――」


「わたしは、リュウリュウ。気軽にリュウちゃんと呼んでくれればいいよ」

 

 あ、尻尾があるんだと、今気づいた。

 うろこのある尻尾がピチピチのお尻から伸びていた。

 見つめているとまた、なにか言われるかもしれないので、周辺視する。難しいけど。


 立派な角が髪の毛の間から伸びている。

 長い髪の毛は真っ赤。真紅。他の要素の一切ない「純粋な赤」という色だった。

 女神様に負けず、目が大きいが、ちょっと釣り目気味で気の強そうな感じだ。

 尻尾だけでなく、首筋と頬の一部が鱗になっている。


「あ、そうだ。名刺、名刺っと」


 リュウリュウは名刺をを差し出した。

 

「どうもです」


 ボクはそれを受け取る。


「すいません。あの…… ボクは名刺を用意していなくて」


「あはッ、いいって」


 名刺を見ると――


=======================

 株式会社龍通力 代表取締役 リュウリュウ

=======================


 と、いう文字が目に飛び込む。

 住所も電話番号もあった。

 会社は、千葉県千葉市、幕張新都心にあるようだ。


(会社の社長なんかいッ!)


 心の中でだけ突っ込むボク。

 名刺持っているとか――

 車で神域に来るとか――

 車は大きな荷物をつめるワンボックスカーとか――

 

 いろいろと突っ込みどころというか、疑問が脳内から外にあふれ出しそうになる。

 

「会社社長なんですね…… すごいですね」


 よく考えてみれば「龍神」であることの方がすごい。

 なに言ってんだろう……


「いやまあ、創業一五〇年程度の会社だからね――、社員も三〇〇〇人くらいしかいないし、ちっぽけな商社だからさ」


「そ、そうですか」


「しかし、神域にやっと人が来たねぇ、五〇年ぶりかな?」


 ちらりと、女神イルミナの方を見やった。


「五二年ぶり、三人目じゃ」


 女神・イルミナが答えた。

 伝統校が久しぶりに甲子園でるような言い回し。


「イルミナの時間感覚は、わたしから見てもゆっくりだからなぁ~」


 女神様と龍神様は、ふたりで昔話をし始める。

 その話から分ってくる事情。

 どうやら今までは人がおらず「神域」の果物や農作物(人がいないのだから作れない)の出荷ができなかったらしい。

 で、久しぶりに来たのが龍神様の会社。

 この会社が神域で採れた物を買い取ってくれる。


「あはッ、ちょっと長話しすぎだな。で、今日は――」


「柿です」


「柿かあぁ、んじゃ車に積んでくれる」


「えっと、どうすれば……」


 篭から柿を取り出し、何かの入れ物に入れ替えるのだろうか?


「篭ごと、載せていいから」


 龍神・リュウリュウが車の後ろを開けた。


「いいんですか?」


 ボクは女神様の方を見て確認する。


「うむ、篭ごと載せればよい」


「はぁ……」


 ボクは篭を車の中にいれる。

 篭は重さを感じない。一応、神器なので。


「さて、どれほどある?」


 リュウリュウは篭の中を覗きこむ。


「あはッ、三五六個。一個一〇〇〇円(税別)でいいよね」


「え? 一〇〇〇円」


「そう。不満?」


「いえいえいえ」


 首を全力で振る。

 つーか、凄い値段じゃないのか?

 出荷価格が一〇〇〇円って……

 ヤバイ成分でも入っているのか。某漫画のブラックカレーみたいに。

 だいたい、流通を経て店で買っても一個一〇〇円くらいだろうし、いったいどこで売るのだろうか?


「そんなもんかのぉ」


 イルミナは鷹揚に頷く。

 そんなものなんすか?


「銀行口座を教えて、振り込むから」


 ポケットからスマホを取り出すリュウリュウ。


「え? 振込みですか」


「現金で欲しいのか? 今時珍しい奴だな」


「いえ、いいです。銀行振り込みでも、電子マネーでも」


「流石に電子マネーでの取引はしてないからね」


 ボクは財布を取り出し、そこからキャッシュカードを取り出し読み上げた。


「ほいさ。んじゃ振り込んだ」


「そうですか」


 といっても、口座の電子化をしていないので、確認ができない。

 必要なのだろうか?


「振込み手数料は、引かせてもらっているから」


 そう言って、リュウリュウは運転席に座ると「じゃ♥」と言って車を発進させた。

 

「あ、ありがとうございます」


 慌ててボクはお礼を言った。

 車の窓から手を振って、龍神様は行ってしまった。

 まだ確認できないけど、ボクの口座に三五万円以上の金額が振り込まれたのだった。

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