3.どうやって水やりをするか?

 ボクはほんの一時間ほどで、一ヘクタールくらいを耕していた。


 すげぇよ。神器――


 で、ここに種をまいて、水をやって……

 水?

 水やりはどうすんだ?

 

「あの……」


「ん、なんじゃ。農地に水をやるのは、どうすればいいんでしょうか?」


「うむ、灌漑を作るのだな」


「灌漑?」


「左様、最新式の灌漑といえば『ドリップ灌漑』であろうよ」


 初めて聞く言葉だった。

 つーか、女神様の力で雨でも降らすとか、神器の如雨露とかとりだすと思った。

 ここで、いきなり専門「農業用語」が飛び出してきてボクは面食らう。

 農業甘くない。が、それがいい。


「農地に、配水管を敷き詰め、そこから点滴のように水をやるのじゃ。故に『点滴灌漑』とも呼ばれる」


「ほう……」


 いや、ただ翻訳しただけじゃなかろうかと思ったが口にはしない。


「例えば、イスラエルなど砂漠の国でもこの農法で成功しておる。中東の一大農業国にまでなっておるのは、この農法のおかげと言っていい」


 さすが女神だけに知識・情報も素晴らしい。

 wikiを見ている以上にすらすらと知識を披露してくれる。


「では、耕した後にはそれを作るわけですね」


「うむ、水は川より引けばよい。ポンプは…… 神力で稼動する『脚踏みポンプ』を授けよう」


 なんとなく、分ってきた。

 川からポンプで水を引いて、農地には、配水管を敷く。

 で、その配水管から点滴のように、ぽたぽたと水をやるということだ。


「この農法の良いところは、水に肥料を混ぜ、効率的に肥料も与えることができることじゃ」


「おお!」


「我神域の土地の力と、恩寵の種、神力の宿った肥料で、大豊作間違いなしということになろう」


「なるほどぉぉ」


 ただ、耕して、種まいて、簡単に農作物ができるわけではないらしい。

 そんなことが出来るのはファンタジー世界だけの話だろう。

 女神様がいるとはいえ、ここは現実と繋がった世界なのだ。

 神の力があるとはいえ、農業の「理」がそこにあった。


「で、その『ドリップ灌漑』を作るのは、神様の力とか、道具とかくれるんでしょうか?」


「うむ…… 道具は出せぬ。大きすぎるのでな。重量オーバーだ」


「そうなんですか?」


「あまり大きなものは神器として練成できぬ。が、作り上げることに協力することはできる」


 イルミナ様はそう言うと、またしても空間をかき混ぜ何かをとりだした。


なたですか?」


「うむ、斧の重さと剃刀の切れ味を持つ鉈よ……」


 ボクは鉈を受け取った。確かに見た目よりずっしりと重い。

 刃は背筋に寒気の走るほどに、斬れそうだ。


「これで?」


「これを持って、あの森へ行く」


「はい」


「で、配水管となる、竹を切ってくるのじゃ」


「竹ですか――」


「この土地」


 そう言って、イルミナ様は手を回し、ボクの耕した土地を見渡す。

 胸がプルンと震える。豊穣な胸だ。


「全てにいきわたるほど、竹が手に入れば、我が『ドリップ灌漑』を組み立てよう」


「なるほど。了解です!」


 要するに、中空になっている竹を利用した灌漑を作るということだ。

 ボクは材料を確保する。で、女神・イルミナ様がそれを灌漑設備まで整えてくれるということだ。

 竹を刈るくらいなら、すぐできるだろう。


 と、ボクはここでもまだ大事なことに思い至らずにいたのだった。

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