2.神器の農具

「おう、来たか」


 女神・イルミナ様は大きな胸をプリンとさせ、ボクを見つめる。

 濡れた黒曜石のような瞳。で、白目の部分は純白で濁りが一切ない。

 神のような美貌というか、マジで神なのだけど。


「はい! 会社辞めてきました。もう、いつでもOKです」


 ボクは会社を辞めると、即日祠へ直行。

 そして、再び手を叩き、祈ったのだ。

 すると、また女神様のいる神域へ行けたというわけだ。


「では、オヌシにわが神域を開拓する許しを与えよう」


「はい! もう、誠心誠意頑張らせていただきます!」


「その心がけや良し!」


 というわけで、ボクと女神様は外へ出た。


        ◇◇◇◇◇◇


「おおおおお!! 見事なまでに…… これは…… 荒地?」


「神域なのじゃ!」


 女神様は大きな胸を張ってどや顔で言った。

 森が見える。山が見える。千葉県なので低い山しかないけど。

 振り返ると、さっきまでいた、女神様が住んでいるらしいやしろ

 廃屋にしか見えない社がある。

 

 他はただひたすた茶色い荒地が広がるだけだった。

 ふと気づくと、風の中にせせらぎの音が混ざっている。


「川?」


「うむ、近くに川が流れておる。清流であるな」


「そうですか」


「我と大地と水と森、素晴らしき神域であろうよ――」


 どや顔でいう女神であるが、贔屓目に見ても放棄耕作地である。

 あ、鹿…… 野生動物はおるのだなぁ。

 

「でだ、家に神棚を作れば、わざわざ祠など作らなくとも、神域直結の道を造ろうではないか」


「え! じゃあ通勤時間〇分ですか!」


 祠まで徒歩二〇分ほどで大したことはないのだけど、自宅から直となれば、もっと条件がいい。

 それは、ここに住んでいるのと同じことだ。

 返ったら、神棚を作ろう。Amazonで注文すればいいのか? どーなんだ。


「で、ここを耕して農業するわけですね」


「左様であるな」


 この荒野を耕すのか…… 

 まあ、一日中アホウのように機械のようにPCに向かっているより、なんかこうみなぎる物がある。


「で、耕して、種とかどうするんですか? ホームセンターで買ってくればいいんですか?」


 農作物の種はいろいろな物が売られている。

 トマト、スイカ、ああ、ジャガイモもいいなぁと、ボクは夢想する。

 水田は面倒くさそうだとか、思う。


「ああ、種はいくらでも、我が与える。神の恩寵を与えた豊作間違いなしの種じゃ」


「まじですか!」


「まじじゃ!」


「あと、農作業の道具ですが、くわとか、すきとか、そんな物は?」


「我が与えよう。神器の農具じゃ」


 イルミナ様はそう言うと、空中をかき混ぜるように手を動かした。

 で、何もない空間からずるずると、何かを引っ張り出した。


「おお!」

 

 感動で思わず声がでる。

 それは、黄金に輝く「くわ」だった。


「後、オヌシが用意した道具、機械なども、我恩寵を与えて、パワーアップできるのじゃ。だから何でももってくるがよい」


「了解です!」


 ボクは黄金の鍬を手にとって、神様に最敬礼する。


「そして、大切なことを言うが、我にお供え物を忘れぬこと…… とくに、この前食した――」


「あ、すいません。遅れまして!」


 ボクは持っていたプリン(コンビニで買った)を渡した。


「おお、これよ! これ! このプリンが最上に美味よ! 人の力も中々良いものがある」


 ぱっと顔を輝かせ、イルミナ様はプリンを受け取り、いきなり食べだした。


「もぐもぐ、美味い、美味いのぉぉ」


「ありがとうございます!」


「では、ちょっと耕してみます」


「うむ」


 ボクは黄金の鍬を振りかぶり、大地に向かって突き立てる。

 ぼわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 衝撃波が巻き起こり、鍬をいれた先から10メートルくらいの土が掘り起こされた。

 大して力をいいれたわけじゃないのに……


「これが……」


「そうよ、これが神器の力、使いこなせれば、もっと耕せるようになろうぞ」


 広大な荒地もこれさえあれば、早々に耕すことができるのではないか?

 マジですげぇぇ。

 

 まるで子どものころに帰ったかのように、目に映る光景がキラキラしていた。

 

「やるぞ! ボクはやる!」


 ボクはやる気がパンパンになっていたのだが、ここでひとつ肝心なことを忘れていたのだった。

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