第4話
ワセダブリューは手際良く資料をメンバーに配る。呼び出されて促されるままに座った、スピカ、セリオン、そしてソウダルフォン。
「えー…、ちょっと急ぎの報告があったので、集まってもらいました」
今日は定例会の日ではないが、早稲田戦士は招集がかかればいつでもこの会議室に集うのだ。資料をパラパラと捲り、ソウダルフォンはピクリと手を止めた。
「紫の煙はある特殊な煙草に火をつけたら発生する、その煙草が今早稲田で流行ってるらしいってとこまでこの前報告しました。煙の詳細は調査班が今頑張って調べてくれてます。急ぎの報告ってのはこれからで…、」
ワセダブリューの流れるような説明に、いつも騒がしいスピカも集中して耳を傾けている。セリオンも鉄仮面ながら頷きながら聞く姿勢を示している。その中でただ、ソウダルフォンだけが聴覚でなく視覚に集中していた。
「その煙草を出回らせている出元が、どうやら早大生らしくて」
資料3ページ目、右上の写真の、煙草らしき箱を誰かに渡して金を受け取っている彼女。
「写真に写ってるその女の人がそうで、」
違う。彼女は被害者のはずだ。彼女の顔を、ソウダルフォンが忘れるはずはない。
「『サリー』って呼ばれているみたいです。」
だって、彼女はソウダルフォンが確かに記憶消去させた三島紗理奈だったから。
「だから、至急『サリー』を捜索して…」
「待ってくれ!」
ソウダルフォンは思わず机を叩いていた。驚きで静寂が生まれる。ピリッと微弱な電気が走ったような瞬間にソウダルフォンの頭が冷えていくのを感じる。
「あ、…いや、すまない。一つ質問がある。」
「は、はい。なんですか?」
「この、『サリー』…、彼女の写真はいつ撮られたものだ」
「え?あ、…いや、正確な日付はちょっと。ただ、監視カメラを洗ったって聞いたんでもしかしたら直近のものではない可能性はあります」
「…そう、か。」
急に勢いを失ったソウダルフォンに後輩は首を傾げる。急な沈黙に耐えられずスピカが手を挙げる。
「『サリー』ってタカダノバーバリアンの新しい怪人だったりする?」
「…その可能性はゼロとは言えないな。幹部クラスなら人間に化けるくらいできそうだし」
「だよね!よっし、さっさとブッ飛ばして…」
「でもこれが普通の早大生の可能性だってある。もしそうだったらブッ飛ばせないぜ」
「え〜?でもそんなことある?めっちゃ怪しいじゃん!」
「お前なぁ…脅されて無理矢理やらされてたりって可能性もあるだろ」
「可能性、可能性っていうけどさぁ!」
兄妹のように口論する2人を尻目にソウダルフォンは逡巡していた。
この写真はソウダルフォンが記憶を消した前なのか、後なのか。前だとしたら、彼女がタカダノバーバリアンの悪事に加担させられているだなんてウイングは教えてくれなかった。それ程までに強い洗脳の術があちらにあるのなら、その術のカラクリを暴く方が優先度が高いはずだ。言い方を選ばなければ、ウイングは三島紗理奈に構っている場合ではない。1人のその場凌ぎの治療より、根本的な所を叩かなければ、被害者はどんどん増えていく可能性がある。また、写真が記憶を消した後であれば、今ウイングは彼女の側に居てやれてないと言うことだ。どちらにせよ自体はソウダルフォンの想定よりも深刻だった。
「…彼女に、意志はあるのか」
ぽつりとセリオンが呟いた。ソウダルフォンがそちらに視線を向けると、セリオンは立ち上がり、会議室を出ようとしていた。
「おい、セリオン!」
「『サリー』の捜索、確保。俺はいまやるべきことをする」
その毅然さに、ワセダブリューたちは口論を止める。その沈黙を肯定ととったセリオンは静かに会議室の扉を開けた。ワセダブリューは「今回ばかりはセリオンが正しいな…」とバツが悪そうに頭を掻いた。スピカも反省した様子で書類を整頓する。
ソウダルフォンは、まだ迷っていた。
タカダノバーバリアンのアジトでは、傀儡子ちゃんが骸鬼に謁見していた。
「あの犬っころ、全然尻尾掴ませねーでやんの!」
傀儡子ちゃんの腕の中でベティちゃんが暴れる。それを宥めてやる傀儡子ちゃんの一人芝居を骸鬼は静かに見下ろしていた。
「なんだかアーグネットもこの頃様子がおかしいですし。放っておいていいんですの?」
「奴らのやることなど、高が知れている」
「…あらそう」
「オイオイ、仲間ハズレだからって拗ねてんのか?だからって、」
骸鬼の大太刀の柄が地面を叩く。大太刀の重さが窺えるような響き。ベティちゃんを黙らせるのには充分だった。
「…失礼いたしました。ベティちゃんたら、メですわよ」
「お前は何を望んでいる?」
骸鬼は傀儡子ちゃんを睨みつける。傀儡子ちゃんは無邪気に首を傾げてみせる。骸鬼は大きく息を吐いた。
「安い挑発には乗らんぞ」
「挑発じゃなくて、助言ですわよ」
尚もクスクスと笑う傀儡子ちゃんに、骸鬼は頬杖をついた。
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