第3話
一体何が起きてるのかわからない。
私はただ大学からの帰り道を歩いていたのに。
目の前にはなんか知らん黒い機械人間がいて、私の身体のコントロールが完全にウイングに奪われている。機械人間は私に緑に光るナイフを向け、対抗するように私の両手には、…なんだこれ、なんか青い刃のような物。分からんけど、これが相手と渡り合うための武器だと言うことは理解できる。
「三島紗理奈だな?」
「残念ながら人違いだ。私はウイングなのでな」
機械人間は低く響く声で私の名前を呼ぶ。いやなんで知られてんの、こんなヤバそうな奴に。そして私の声でウイングが話すのが、場違いながら少しくすぐったい。
「…なるほど、目には目をと言うわけか!」
言っていることは私には分からんが、機械人間はそれを言うや否やものすごいスピードで私に突っ込んでくる。そして私の体はありえんスピードでその突撃を躱し、ナイフを青い刃で受け止める。キン!と小気味いい音がリズム良く響き、相手の斬撃を悉く受け止めている。軽やかに、的確に相手の攻撃について行く私の体を不思議な気持ちで眺める。
機械人間が後ろに跳ね、肩から拳銃パーツを取り出す。ナイフと組み合わせて、容赦なく緑のエネルギー弾を放つ。私の足元を狂いなく狙う弾丸のせいで機械人間に近づけない。
「身体を借りるぞ」
ウイングがそう言うと、私の体は白い閃光に包まれた。眩しさから気がつくと、私の体は完全に別物になっていた。白いヒーローみたいな、いや、ヒーローなんだろう。状況的に。そして何となく、これがウイングの本当の姿なんだろうことも察した。
ウイングは大空に飛び上がり弾丸を翻弄していく。空をキックし、機械人間の方向に急降下。まるで鷹が獲物を狙うように鋭い。ウイングの刃を機械人間の銃身がガチリと受け止める。攻勢は互角。私は他人事のようにハイスピードな戦いを体感していた。
「!?」
ふと意識を身体から離した瞬間に脇腹に衝撃を感じた。機械人間の蹴りが入ったのだ。音の割に痛みはないが、これで一気に現実に引き戻された。ウイングは即座に距離を取る。足の裏と地面との摩擦で少し熱い。
「すまない紗理奈!少しだけでいい、集中してくれ!」
ウイングが叫ぶ。私の声で。どうやら私が違うことを考え出すとウイングの動きが鈍るらしい。それより、うっかりウイングが私の名前で読んだことで機械人間の緑の目が光った。機械人間は銃に紫色のエネルギーを溜める。きっとヤバい。ウイングもそれに気づいたようで、急いで体勢を立て直す。銃口よりも2回りも大きいエネルギーの弾、ガッツリこちらに向けられている。
アレを食らったら衝撃はさっきの蹴りどころじゃ済まないだろう。ウイング!と縋るように念じても何も答えてはくれない。
「ロレンツ・バレット!」
機械人間の掛け声と共にエネルギー弾が放たれる。その瞬間、身体からふわっと力が抜けるような、ジェットコースターの落ちる直前のような、強烈な浮遊感があった。それに耐えられず私は後ろに投げ出され、視界の指先がウイングのでなく私の、生身の人間の指先に変わる。その代わりに、今まで自分の体だったウイングの姿が目の前に現れる。現れるというか、私の中から出て行くようだった。それがやけに強烈で、スローモーションに見えた。弾が目の前のウイングに命中する。怖くて目を瞑った。その時微かに聞こえた。
「かかったな。…フェイクだ」
機械人間の声。思うような衝撃は来なくて、目を開けた。ウイングは目の前にいる。機械人間の目が怪しく光っている。そして、辺りには紫の煙。あの夢のような、息が苦しくなる煙。
『お前は俺様から逃げられない』
夢で聞いた声が私に降る。
「…!紗理奈!」
赤かった空はもうすっかり黒に染まっていた。
煙が脳にたどり着いたとき、私は全てを思い出した。
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