第37話 僕の決意

 康介さんからは一緒に暮らしたいのなら、奈菜が18歳になるまではエッチなことは禁止と釘を刺された。しかし、交際することは認めてくれた。

 康介さん曰く、こうなることを望んで一緒に住まわせたらしいが、いきなり結婚に行き着くとは思っていなかったらしい。当然だ。まだ結婚できる年齢じゃないのだから。


「でも、康介さん。何だってこんな時間に?」

「優弥くん、君は色ボケしたのかい。こんな時間って普通に10時過ぎてるでしょ」

 うえっ。まじで。いつの間に夜が明けたんだ。どんだけ奈菜と見つめ合っていたのか。

「今日はね、優弥くんにこれを渡しに来たんだ」

 康介さんが手渡してきた書類を見る。横から奈菜も覗き込んでくる。

 そこには、「南雲優弥財産目録」と「未成年後見人終了報告書」の文字があった。

「優弥くん、18歳の誕生日おめでとう。これで君も大人の仲間入りだ。僕との契約も取り敢えず、一旦終了だね」

 あっ、いろいろあり過ぎて、自分の誕生日忘れてた! 家族がいなくなってから誰にも祝われていないのだから仕方が無いよね。

「優弥、今日誕生日なの!」

「忘れてたけど、そうなんだ」

「そんなっ、私何もプレゼント準備してない……」

 本人が忘れていたくらいだから、別に気にする必要無いんだけどね。奈菜の性格上そうはいかないよね。

「だったらさ、今日の夜はオムライス作ってよ。僕、奈菜の作ってくれたオムライスが一番好きなんだ」

「そんなんでいいの? なんなら私の初めてをあげよっか」

「七瀬くん! 君は反省が足りない様だね。もう暫く正座しようか」

 康介さんはこめかみをヒクヒクとさせながら、奈菜に正座を命じた。奈菜も大人しく正座を始める辺り、真面目である。

 それはそのうちに頂きたいのですが、今は無理ですので、またの機会にお願いしますね。

「久々に資産見たんですけど、無茶苦茶増えてますね」

 康介さんに親の遺産の管理を任せていたのだが、3年前に契約した時の倍くらいになっている。

「群衆の心理を読むくらいできないと弁護士はできないからね。それでどうする。これからは自分で管理するかい?」

 僕は取り敢えず、高校を卒業し、20歳になるまでは契約の更新をお願いし、未成年後見人ではなく、普通の後見人として引き続き管理をお願いすることにした。


「それはそうと、お隣りの山田さん、お引越しされるんだね。さっき引っ越し業者が作業してたよ」 

 康介さんから瑞樹の家が引っ越ししているという事を聞き、僕と奈菜は家を飛び出した。

 そして瑞樹の家に行ってみると、そこは既に空き家になっており、人の気配は無かった。

「何も言わずに引っ越したのか?」

「あの子、何考えてるの?」

 僕たちの問いに答えてくれる者はいない。

「帰ろっか」

「うん」

 意気消沈しても家に戻る。そして家に戻って吃驚した。引っ越したはずの瑞樹と康介さんが仲良くお茶を飲みながら談笑していたのだ。

「瑞樹、引っ越したんじゃ……」

「ええ、引っ越ししましたよ」

 だったらどうして、ここに。

「ここに」

 へっ。あれ、よく聞こえなかったぞ。

「えっと、何だって?」

「だ、か、ら、ここに引っ越して来たって言ってるでしょ」 

「えっ、それは一体……」

「兄妹が一緒に暮らすのが何がおかしいの?」

 あれ、そう言われればそうだ。瑞樹は僕の妹なんだから、一緒に暮らしても問題はない。康介さんを見る。

「前は反対したんだけどね。兄妹なら仕方が無いよね。優弥くん、そういう情報はちゃんと教えておいてくれないと駄目だよ」

 すみません。康介さん。本当は誰にも言うつもりは無かったんです。

「と、いうことで、今日から私も一緒に住みます。奈菜さん、残念でしたね。変なことは絶対にさせませんので、あしからず」

「みーずーき、やってくれるわね。いい度胸じゃないの。ちょっとお話しませんこと」

「それは良いですわね。それではあちらでじっくりとお話し合いをしましょうか」

「ちょっと、二人共喧嘩は――」

「「優弥は黙ってて」」

「はい」

「優弥くん、駄目だよ。女性同士のお話し合いに口出ししちゃ」

 康介さんが人生の先輩としてアドバイスをくれた。一つ賢くなった。


 その後、瑞樹は本当に家に引っ越して来た。大量の荷物が家に運び込まれ、内装が魔改造されていく。また隠し部屋などを作られてはたまらないので、しっかりと目を光らせていたので、その心配はなさそうだった。

 瑞樹が目を光らせているのであれ依頼、奈菜と二人っきりになれず、関係は進展していない。せいぜい手を繋いで買い物に行ったり、登下校するくらいだ。少しでもいい雰囲気になろうものなら、何処にいても瑞樹が邪魔してくるのだ。


 そんなこんなで月日は流れ、今日は手術の日だ。あれから暫くして分かったのだが、動かないのは人差し指と親指だけだった。骨折のため、左手で文字を書く練習を始め、今では元の字と同じ位の字が書けるようになったので、手術を受けなくても、何とか生活くらいはしていけそうだが、完全回復しないと奈菜が気にする筈なの、機能の完全回復を目指して挑戦することにした。

 宮家先生にお願いして手術の内容は骨折した骨の再生具合がおかしいので手術で整復するということにして貰っている。指先が動かないことは今の所、二人には気づかれてはいないのでひと安心だ。


「優弥、本当について行かなくて大丈夫なの。学校くらい休むのに」

「そうだよ、お兄ちゃん。私がついて行ってあげるから」

「貴方じゃなくて私が行くってば」

「私よ」

「ちょ、ちょっと待って。本当に一人で大丈夫だから。子供じゃないんだし。きちんと学校に行ってください」

「「えー」」

 それでも渋る二人を無理矢理学校に行かせ、病院へ向かった。その道中に考えることは奈菜と瑞樹の事だった。二人共既に僕には無くてはならない存在になっている。事故に会う前の僕には無かったものだ。

 あの事故から僕の人生は変わった。今の生活は幸せだ。家に帰るといつも3人でぎゃあぎゃあと騒いで遊んでいる。家の中から、何の音もしなかったあの頃とは違う。今は異世界に行きたいなどとは全く考えていない。

 今考えているのは、この手術の後の楽しい生活の事だけだった。

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