第15話 僕の登校2日目

「ねえ、奈菜。どうしたの? 朝から様子がおかしいよ」

「何でも無いったら。ほら、早く行きましょ」

 そう言って、どんどんと先に行ってしまう。

 いや、明らかにおかしいよ。朝から全然こっち向いてくれないじゃないか。どうしたんだよ一体。


「優弥。おはよ」

「うん、おはよう瑞樹」

「あの人どうしたの?」

 朝から調子のおかしい奈菜を見て、瑞樹も変に思ったようだ。

「何か、朝から様子がおかしんだよ」

「へー。まあ別にいいわ。二人っきりになれるんだし」

 そう言って、昨日と同じ様に手を繋いできたが、瑞樹の手はもの凄く冷たかった。

「瑞樹、もしかしてここでかなり待ってた?」

「ちょっとだけよ。そんなに待ってないわよ」

 嘘だ。こんなに冷えてるじゃないか。

「ちょっと待って」

 巻いていたマフラーを外し、瑞樹にかける。これで少しは変わるはずだ。

「あ、ありがと」

「どういたしまして。風邪引いちゃうから、先に行っててもいいんだよ」

 僕は一人の方が気が楽だもの。瑞樹が引き下がるとは思えないけどね。

「嫌よ」

 ほらね。

「だったら、家まで迎えに行くわ」

「いや、それは遠回りになるでしょ」

「だったら、私も一緒に住む!」

「だから、それは駄目だって。瑞樹は家あるし、ご両親にだって反対されたんでしょ」

 この話は過去何度もしてきている話だ。奈菜のケースが特殊なだけで、高校生同士の同棲なんか普通は無理だ。

「むー。優弥はあの人と私どっちが大切なのよ」

 こんなの質問でも何でも無いでしょ。答え一つしか無いし。奈菜って言ったら不味い奴だし。

「それは勿論、瑞樹だけど、彼女も僕と一緒で誰も家族がいないから……。それに、今の僕は彼女の助けがないと暮らしにくいんだ」

「そんなの分かってるわ。ちょっと聞いてみただけよ。明日からお家まで迎えに行くからね」

 瑞樹はいい出したら聞かないから、こうなっては僕が引くしか無い。

「分かったよ。でも無理はしちゃダメだよ」

「はーい」

 おっとっと。急に腕にしがみつかないでよ。びっくりするでしょ。転けそうになったよ。

「ふへへへ。優弥の匂いがする。いい匂い。それに温かいわ」

 その匂いはファブリーズの匂いだと思うよ。朝一の制服から個人の体臭がするはずないでしょ。

 それに瑞樹の匂いの方がいい匂いなんだけど。これ香水じゃないよね。香水だったらもっときつい匂いがするはずだし。シャンプーの匂いかな?

 女の子って不思議だ。奈菜なんて僕と同じシャンプーとボディソープ使っているのに、何であんなにいい匂いがするんだろう?

 

 僕がしょうもない事を考えているといつの間にか学校が近づいていた。

「おい、貴様。水瀬さんを離すんだ」

 おわっ。な、何なのいきなり。

 学校の校門を入ると、数人の男たちに囲まれ瑞樹を離すように脅された。

「何度も同じことを言わすんじゃない。水瀬さんの手を離せ。汚らわしい」

 僕たちを取り囲んだ男たちのリーダー格っぽい方が僕と瑞樹を強制的に引き離した。その勢いで僕は転んでしまった。まだあまり激しい急な動きにはついて行けないため、左足での踏ん張りが効かなかったのだ。


「いたたた」

「優弥、大丈夫! 御幸先輩、離してください。優弥はまだ治ってないんだから乱暴なことは止めてください」

「水瀬さんがあの様な汚らわしい男に近づいては駄目ですよ」

 僕と水瀬さんが釣り合っていないのは自分でも分かっているけど、だからといって突き飛ばすことはないんじゃないかな。

「あなた達はどなたでしょうか? 急に酷いことをしますね」 

 こけて服についた土を払いながら、御幸先輩? と呼ばれた方に告げる。

「僕は今は右手が思うように動きませんので、もし先程コケた時に頭を打っていたら、立派な傷害罪ですよ。訴えましょうか?」

「うっ。黙れ。貴様のような奴が水瀬さんに触れること自体が罪だ」

「交際相手の手をつなぐことが罪になりますかね?」

「何か弱みでも握って脅しているのだろう。でなければ貴様の様な奴と水瀬さんがお付き合いされる訳がないだろうが」

 弱みを握られてるのは僕の方なんだけどな……。


「弱みなんて握られてないわ。私の方から交際をお願いしたんだから」

 瑞樹が男たちと僕の間に立ち塞がり、事実ではないけど事実っぽい事を告げる。

「うわ。ここまで言わせるなんて、よっぽどの事で脅されているんですね。今お助けいたしますからね」

 男たちが勝手なことを言っている。妄想もここまでいくと立派なもんだ。


「お前たち、水瀬様には指一本触れさせないぞ」

 あら、また人がいっぱい増えたぞ。

「お、お前たちは『水瀬様見守隊』!」

 見守隊! まさかそんなものまで存在するなんて。瑞樹の人気は凄いな。

「お前たち過激派の連中は、なぜ大人しく水瀬様の幸せを願えない。お前たちはファン失格だ」

「沢村先輩、御幸先輩たちのお相手お願いできますか?」

「はい。ここは私達にお任せください。一歩も通しません」

 見守隊のリーダーの方は沢村さんというのか。なかなか頼りになる方だな。


「さあ、優弥いきましょ」

「ねえ、あれは何なの?」

「あれね。私のファンクラブらしいわ。毎日うんざりするわ」

「瑞樹は可愛いから大変だね」

 僕のポロッと漏らした一言に瑞樹が予想以上に反応した。

「えっ、優弥から見て私って可愛いの!」

「普通に可愛いと思うよ」

 あら、瑞樹の様子がおかしい。トリップしたような表情でブツブツをつぶやいている。

「瑞樹、僕こっちだから行くね」

 だめだ。何の反応もない。仕方がない放っておくか。

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