第16話 僕の学校生活の変化

「「「南雲さん、おはようございます」」」

「えっ、ああ、うん。おはよう、ございます」

 朝、教室に入るなり3バカが挨拶をしてきてくれた。事故に合う前のクラスでは誰かと挨拶することなんて一度だって無かったのに。

 何よりもよかったのは「さん」付けで呼んでくれたことだ。「神」付けでなくて助かった。昨日散々言ってやっと「さん」で落ち着いたのだ。


「随分と遅かったわね」

「うん。変な人に絡まれてね」

 よかった。やっとこっちを見て話してくれたよ。今は普通みたいだね。一体あれは何だったんだろう。

「鞄とお弁当はロッカーに入れておいたから」

「ごめん。重かったでしょ」

 僕の手に握力が無いことを心配して荷物は奈菜が持っていってくれた。本当に申し訳ない。

「何言ってのよ。たかが鞄一つじゃないのよ」

 そう言って、にへらと笑った。

 その表情にドキッとした。

 馬鹿か僕は。何を考えているんだ。僕なんかがこんな感情を抱いてはいけないんだ。お前は昔、何を学んだんだ。また同じ失敗を繰り返す気か。

「それでも、ありがとう」


「南雲さん、今日遊びに行っていいっすか」

「そろそろ弟子に」

「奈菜さん、綺麗っすよね」

 休み時間には必ずと言っていいほど3バカが絡んでくる。前までは休み時間はラノベを読む時間だったのに、そんな時間が無い。

「師匠、どちらに」

「トイレだよ」

「お供します」

 トイレくらい一人で行かせてよ。


 トイレに行く際に2組の前を通りかかると昨日絡んできた陽キャの子と目が合ってしまった。

「あっ、南雲さん。こんちわっす」

「え、あ、うん。こんにちは」

 陽キャに対して苦手意識しかないので、まともに目を見て話もできない。

「昨日は失礼してすみませんでした。自分、三宅隼人と言います。よろしくお願いします」

 おお、二日目にして初めて自己紹介してくれる人が出た。三宅君ね。絶対君のことは忘れないよ。

「み、三宅君こちらこそ宜しくお願いします」

「南雲さん、駄目ですよ。南雲さんがそんな下手に出たら、自分なんて隼人と呼び捨てでお呼びください」

 いやいやいや。名前呼びだなんて、自分なんかが恐れ多い。

「いやいやいや、無理だよ」

「いやいやいや、呼んでくださいよ」


 その後はどちらも一歩も譲らす、結局チャイムが鳴り有耶無耶に終わった。結局トイレに行けず、1時間我慢することになってしまった。おのれ三宅君め。君の名は忘れないぞ。


「南雲さん、俺たちも一緒に飯いいっすか」

 昼休みに奈菜の弁当を食べようとしていると、2組の三宅くんとそのお友達がやってきた。

 また名前の知らない人が増えてしまった。

「別にいいけど、こっちの教室狭いけどいいの?」

 そうなのだ。お昼休みになった途端、他のクラスから異様に人がやって来たのだ。まあ、理由は明白なんだけどね。奈菜と瑞樹がいるからだろう。

「優弥、また人が増えたわね。それで君たちは1年生?」

「み、水瀬先輩! はい、そうです。隣の2組です」

 三宅くんが瑞樹に話しかけれて軍隊の新人兵みたいに直立不動になって答えた。

「三宅、新庄、優弥にちょっかい出したら分かってるだろうね」 

「勿論ですよ、七瀬さん。僕たちが南雲さんに何かする訳ないじゃないですか」

 もう一人の子は新庄君っていうのか。しかし、奈菜の奴、やっぱり三宅君達と何かあったみたいだね。明らかに二人が怯えてるし。

「まあ優弥がいいんだったら、一緒に食べてもいいわよ」

「そうね。優弥が決めて」

「僕は別に一緒に食べても構わないよ」

 今更二人増えるくらい何でも無いだろう。既に7人いるのが9人になっても別にって感じだ。

「ありがとうございます。僕、新庄って言います。南雲さん、宜しくお願いします」

「え、ああ、うん。こちらこそ宜しく」

 2組の子はきちんと自己紹介してくれるのに、おい3バカそろそろ名前を教えてくれ。お前たちは誰なんだ。


「優弥、今日は生徒会の活動があるから一緒に帰れないの。ごめんね」

 食事が終わり、3バカ達の話に適当に相槌をうっていると瑞樹から帰りの話をされた。

「あっ、言うの忘れてた。僕も火曜日と木曜日は部活に行くから一緒に帰れないんだった」

「あれ、優弥部活になんて入ってたの?」

 菜奈から問われた。そう言えば、奈菜にも話はしていなかった。

「うん、部活といっても部員は僕ともう二人いるだけの同好会だけどね」

「へー。南雲さん、何の同好会なんすか」

「う、えっと本を読む的な事を――」

「文芸部みたいなもんすか?」

「いや、創作活動はしなくて読むだけなんだ」

「ふーん。分かった。私も入るわ。それ」

「いや、駄目だよ。奈菜は絶対興味ないって」

「私だって本はいっぱい読んでるわよ」

「いや、だって。その――ラノベ研究会なんだ」

「うん? 別に私だってラノベ読むわよ」

「俺も。ラノベ面白いですよね。俺は電子版しか読んだことないですけど。俺も行ってみていいっすか」

 奈菜も三宅くんもラノベなんて読まない種族の人だと思ってたのに、読んだりするんだ。

「ズルいわよ。七瀬さん。私だって生徒会が無ければ――私、生徒会辞めてくる」

「瑞樹、待って。それは駄目だよ」

「うー。皆ズルい。絶対今年いっぱいで辞めるんだから」

「奈菜さんが入るなら俺も入ります」

 壱号、君の入部は認められん。

「師匠行く所に弟子もまた参ります」

 弐号、君もいい加減弟子入りは諦めてください。

「……」

 参号、君はサッカー部だもんね。


「優弥、こんなにたくさん部員が増えたら、部に出来るんじゃないの」

 菜奈から言われて気がついた。確かに5人以上いれば部活として活動できて、部費も貰えるはずだ。部長も喜んでくれるぞ。

「確かに! 今日、部長に相談してみるよ」


 1年ぶりの部活、放課後が楽しみだ。あいつ等元気かな。

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