第11話 僕の勘違い
「やっと帰れた」
「優弥、線越えてる」
「ご、ごめん」
やっと帰って来れて、疲れて座り込んだら境界線を越えてしまっていた様だ。謝るのももはや、条件反射の様に出る様になった。立派に調教されている。
「どうしたの? やっぱり初日だから疲れた?」
「うん。学校に疲れたというより、瑞樹を怒らせないようするのに疲れたよ。何で瑞樹が怒りそうな事わざとするんだよ」
「わざとじゃないわよ。単にあの人と相性が悪いのよ」
会う度に喧嘩になるもんね。
「ご飯作ったら、バイト行くから。お風呂は8時まで待ってね」
奈菜は夕方にバイトに行くことが度々ある。それでも3時間くらいで戻ってくる。一体何のバイトをしているのだろうか。
「奈菜、何のバイトしてるの?」
「内緒よ」
そう言って教えてくれないのだ。しかもバイトの時には家の前に車が来て、送迎つきなのだ。そして最も気になる点が毎回行きと帰りの服が違っているのだ。
怪しい。一体何のバイトなんだ。普通のバイトが2~3時間で終わり、送迎なんてあるのか? しかも毎回服が変わるってどうなの?
やっぱり、パパ活的なそういうバイトをしているのだろうか?
「奈菜、無理にバイトしなくてもいいんじゃないか? お金に困っている訳じゃないだろ。もし困ってるんなら相談のるよ」
正直、蓄えはかなりあるからね。なんせ、爺さんと婆さんと母さんの遺産が残ってるからね。
康介さんに管理をお願いして、言われるがままに運用に回してから更に増えているので、正直最近は明細をチェックしていない。
高校生の僕には過ぎたお金だ。康介さんも一月の生活に必要な金額しか渡してくれないので、丁度いい。
「別に、無理なんかしてないわよ。若いうちしかできない事だし。ちょっと愛想よくしてるだけでちょっと遊ぶくらいのお金が稼げるんだから楽なもんよ」
いよいよもって、本気で止めないといけなくなってきた。
奈菜の肩を掴んで強引に止める。
「駄目だよ、奈菜。もっと自分を大切にしないと体を売ってお金を稼ぐだなんて……」
奈菜の拳がまたも、鳩尾に叩き込まれる。
かはっ。な、なんで殴るの……。
「そ、そんな事する訳ないでしょー。この変態」
顔を真っ赤にして怒っている。あれ、僕の勘違い?
「私がしてるのはモデルのバイトよ」
「ヌード的なや――」
ごふっ。そろそろ血を吐くから止めて。
「普通のモデルよ。雑誌に載るやつよ」
「だったら、内緒にする必要ないだろ」
奈菜が内緒にするから、僕が2発も殺人ナックルを喰らうはめになったじゃないか。
「だって――じゃない」
「え、なにって」
ぐぼっ。だから、殴るの止めて。
「見られたら、恥ずかしいじゃないのよ」
う、うう。まだお腹がズキズキするよ。今日だけで4発だよ。死んじゃうよ。全く。これ普通に暴行事件だよね。まあ、慣れたから別にいいだけど。
奈菜がバイトに行ったので、ネットで奈菜の事を検索してみた。
「マジか……」
正直、奈菜の事を舐めてたわ。見られて恥ずかしいようなものでは無かった。家の中では見られない奈菜がそこにはいた。
あいつこんな顔もできるんだ。まるで別人だった。
非常に如何だが、かわいいと思ってしまった。
駄目だぞ、僕みたいな陰キャが不相応な感情を持ってはいけない。僕はPCの電源を入れ、大好きなアニメ「獣人の弟子は出ていかない」を鑑賞する。ミリアたん、可愛いなあ。やっぱり3次元に夢はない。2次元に生きるしか無いよね。
「たっだいまー」
奈菜が帰ってきた。
少し寝てしまっていた。やっぱり今日は疲れてたんだな。
「おかえり、奈菜」
「ただいま――ぷっ、何その顔」
えっ、僕の顔が悪いのは生まれつきだけど、酷くない。
「優弥、寝るときはベッドで寝ないと駄目よ。キーボードの跡が残ってるわよ」
ああ、そういう事。確かに頬がボコボコになっているな。キーボードを枕代わりにしてたんだな。
頬についた跡を撫でながら聞いてみる。
「仕事どうだった」
「バッチリよ。私だもん当然でしょ」
「そうだよね。菜奈は可愛いから当然だよね。その服似合ってるよ」
「ばっ、ばっかじゃないの」
そう言って、僕の鳩尾に拳を叩き込む。5発目は記録更新だよ。
昼間よりも若干手加減されていた。一応嬉しかったのかな?
でも、痛いものは痛い。
「変な事言わないでよね。お風呂入れるからさっさと入ってよね」
「ふぁ、ふぁい」
そして、午後9時半。いつも菜奈がマッサージをしてくれる時間だ。
コンコン。ガチャ。
いつもどおり、返事をする前にドアが開けられる。
「菜奈、ノックの後は返事をうぇええ――どうしたのそのカッコ……」
いつもは中学校の時のジャージなのに今日はピンクのモコモコした可愛い部屋着だったのだ。
「別に。寒くなってきたからこれに変えただけよ。いけない?」
いや、いけなくない。滅茶苦茶、可愛い。でもどう見てもこっちの方が寒いんじゃないかな。だって下、短パンだよ。
「いや、似合ってるよ」
頬を赤くして彼女が続ける。
「さっさと座りなさいよ。マッサージできないでしょ」
「うん」
「どう、気持ちいい?」
「うん。気持ちいい」
気持ちいいけど、目のやり場に困る。ジャージの時と違って、菜奈の立派なものの谷間がはっきりと見えてしまう。でも見たら殺される。でも見たい。まさに生殺し状態。
「ほら、次は背中と足をするから横になって」
「はい」
ふわわわ。何これ。ヤバいよ。菜奈の太ももの感触と熱がダイレクトに伝わってくるんですけど。
3次元、パないっす。3次元舐めてました。
ヤバいよ、全然マッサージに集中できないよ。いつもは寝落ちしちゃうけど、今日は無理だ。
あれ、もう朝? あれ。もしかしなくても、僕寝ちゃった? いつの間に寝ちゃったんだ。奈菜のマッサージ恐るべしだな。あれ、でもいつもと何か違う。何処が違うんだ? でも分からない、何かモヤモヤするけど分からないものは仕方ない。起きよう。
「おはよう」
トイレから出てきた奈菜に声をかける。
「お、おはよう」
目を合わせず、さっと行ってしまった。
おかしい。いつもだったら、トイレに近づくなって言われるのに。逃げるように去っていったぞ。
「奈菜、どうしたの? 何かあったのか?」
「な、何でも無いわよ」
「何でも無くないよ。明らかに様子がおかしいよ」
「何でも無いって言ってんでしょ。今は近づかないでよ」
やっぱりおかしいよ。いつもだったら、ここで一撃が繰り出されるはずなのに。
一体、奈菜に何があったの?
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