第10話 僕のクラスメイト達

「南雲さん、弟子にしてください」

 弟子はとっておらん。

「南雲さん、どうやったらあんな美人な先輩とお付き合いできるんですか」

 うん。女の子を抱きしめて事故に遭えばいいと思うよ。

「南雲さん、家に遊びに行っていいですか」

 君はブレないね。

 その前にちゃんと自己紹介をお願いします。誰が誰だか分からん。君たちの事は3バカと呼ぶことにするよ。


 そして、僕は南雲さんという、ちょっと浮いたポジションに落ち着いた様だ。

「優弥、この後、体育だけどどうするの?」

「それは流石に見学にしておくよ。まだ走ったりはできないからね」

「そう。女子の事ばかり見てたら駄目よ」

 体育は2組と合同で、男女分かれて行われる。

 奈菜は失礼な事を言って、隣の教室へ着替えの為に出て行った。

 はい。こっそり見ることにします。


「おい、このもやし誰だ」

 2組の男子も着替えの為にやってきて、僕に絡んできた。如何にもスポーツの得意そうな陽キャ共だ。エンカウントしてしまったか。

 はあ、嫌だな。こういう奴等は刃向っても良い事無いし、無視しても煩いし。取りあえず関わり合いたくない。


「バカ、もやしじゃない。南雲さんだ。七瀬さんの親戚の方だぞ。失礼をしてはいかん」

 奈菜の奴、壱のバカに何をしたんだ。

「師匠に失礼な事を言うと許さんぞ、師匠は水瀬先輩の彼氏様だぞ。貴様らごときが絡んで良い方ではない、控えるんだ」

 弐のバカよ、僕は弟子は取っておらんぞ。

「……」

 何か言えよ! 参のバカよ、お前は分かってるな。


「「「南雲さん、失礼しました。お許しください。七瀬さんにはどうかご内密にお願いいたします」」」

 うえっ。何、いきなり。2組の陽キャ共が謝ってきた。

「う、うん」

 突然の事で、そう返すので精一杯だった。

「良かった。死なずに済むぞ」

「南雲さんは良い人だな」

「だな。人間ができてる」

 菜奈の奴、一体何をしたんだ。滅茶苦茶恐れられてるぞ。

 また、絡まれても困るから、さっさとグランドへ行こう。



「南雲はやっぱり見学か?」

「平賀先生、体育は流石にまだ無理なので、すみませんが……」

「おう、気にするな。その代わり、見学じゃなくてリハビリの為の運動をする様にな」

 ちっ。見学がよかったが、楽はさせてくれないか。

「隅の方で、体操でもしてますね」

「おう。早く元気になれよ。無理はするなよ。何かあったらきちんと報告しろよ」

 平賀先生、良い先生だったんだな。去年はそんな事一切思わなかったのに。

「でだ、できれば有栖川先生に俺のアピールを頼む」

 それが狙いですか。ぶっちゃけ、僕が言うのもなんだけど、先生には荷が重いと思うのですが……。有栖川先生、瑞樹と同じにおいがするんですよね。

「善処いたします」

 便利な言葉だよね。


 授業が始まり、僕はグランドの隅の方で風の当たらないところを探す。

 ここなら寒くないぞ。快適な場所を発見できて喜んでいると、女子が準備運動をしている所が見えた。見たのではないよ、見えたのだ。

 おおお、奈菜が凄い事になってる。

 バイン、バインと超揺れてますな。もう少し控えめに飛んだ方が良いよ。おへそも見えてるよ。

 うわ。やばっ。さっと目を逸らす。奈菜と目が合ってしまった。絶対に見てたのバレたよね。冷や汗が止まらない。あのリバーブローを喰らうことになってしまう。

 でも、僕が悪い訳じゃないよね。あれは誰でも見ちゃうって。ほら、ランニング中に余所見してた男子たちも先頭がこけたから、後続も軒並みこけてるじゃないか。しかも、先頭でこけたの平賀先生じゃん。先生まで余所見してたのかよ。


 さて、余り覗いていては奈菜に殺られてしまう。しっかりリハビリする事にしよう。


「ちょっと、優弥」

 き、来た。さっきの件の追及ですね。見えてしまっただけです。

「何で目、逸らしたのよ」

 あら、そっちですか。

「師匠、師匠、さっきの七瀬さん、凄かったですね」

 弐号。いまぶっこんで来ないで。

「あんた、まさか……」

「ち、違うって。すごく揺れてたのなんて見てないから」

「見てんじゃないのよ」

 奈菜の右アッパーが鳩尾に突き刺さる。

 ゴフ。い、息ができない。

「し、師匠。しっかりしてください。気をお確かに」

 弐号、僕はもう駄目だ。後は頼んだよ。

「ほら、さっさと起きなさい。リハビリしてたんでしょ。手だしなさい」

「う、うん」

「えっ、もう復活した。師匠すげぇ」

 別に凄くないよ。慣れただけ……。何回も受けてたら慣れるよ。受けてみるかい。


 椅子に座って、奈菜へ手を差し出す。腕と手を念入りにマッサージしてくれる奈菜。筋肉のこりが解れ、少し張っていた感覚が無くなった。

「奈菜ありがとう。もう大丈夫だよ」

「そう。して欲しい事があったら、ちゃんと言いなさいよ」

「うん」

 

「おい、南雲さん。七瀬さんにマッサージさせてるぞ」

「あの人、マジで何者なんだよ」

「これはもう、南雲さんじゃ失礼だよな。南雲様とお呼びしないと……」

 クラスでの認識が更におかしな方向にクラスアップしてしまった。


 やっと、お昼休みだ。いろいろあり過ぎて、お腹が減ったよ。奈菜のお弁当楽しみだな。

「優弥。お昼ご飯一緒に食べましょ」

 瑞樹が教室にやってきた。でも遅かったね。僕の周りは七瀬と七瀬の友人の女子(名前はまだ知らない)。そして3バカ(名前は覚える気が無い)が既に取り囲んでいる。

「ごめんなさい、水瀬先輩。ご覧のとおり、もう一杯なんですよ」

 やめろ、菜奈。瑞樹を煽るんじゃない。ふぁあ、黒いオーラが噴出してるよ。皆には視えてないの。

「ちょっと席を譲ってもらえるかしら」

 瑞樹が僕の正面に座っていた壱号の肩に手を置き、声をかける。ほら、壱号。早く移動するんだ。肩の骨が砕けるぞ、大変な事になるぞ。まだ、死にたくないだろ。

「ど、どうぞ」

 壱号がさっと立ち、瑞樹に席を譲る。命拾いしたな。

「優弥、お友達が一杯できたみたいね」

「そ、そうなんだよ。皆、僕なんかに構ってくれて、ありがたいよ」

「ふふふ。よかったわね」

「ええ、1年1組は皆、仲よしなんですよ。水瀬先輩。だからもう来られなくても大丈夫ですよ」

 だから、煽っちゃダメだって。何でこうも仲が悪いかな。

「優弥は私と一緒は嫌なの?」

「嫌だなんて。そんな事ないさ。一緒に食べようよ」

「そうよねー。明日は二人っきりで食べましょうね。明日は私がお弁当作ってこようかな」

「いや。いらないです」

 冷たい奴と思わないで欲しい。これには理由があるんだ。昨年のクリスマス。瑞樹から貰ったケーキを食べた僕と七瀬は見事に病院へ運ばれたのだ。あれは天国へ行きかけた。

「先輩。また優弥を入院させたいんですか? 優弥のお弁当は私が作るから結構です」

「「「七瀬さんの手作りお弁当!」」」

 や、やらないぞ。これは僕のだぞ。取られない様にしっかりとキープする。


 僕たちの争いを周りで見ていた他のクラスメイト達からは、

「七瀬さんと水瀬先輩が南雲様とめぐって争っているぞ」

「マジで何者なんだ、あのお方は……」

「もはや神だな。南雲神と呼ぼう」


 またもクラスアップしてしまった様である。

 その後も、昼休みが終わるまで、やいのやいの言いながらご飯を食べた。奈菜のお弁当は予想を裏切らない美味しさだった。冷凍食品何て使っていない彩と栄養バランスの良い手の込んだお弁当だった。


 お、おかしいぞ。去年までの静かな学生生活じゃないぞ。何でこんなに周りに人が集まってくるんだ。

 昼休みは静かに教室の隅でラノベを読むつもりだったのに。僕の憩いの時間がない。静かな僕の時間を返してください。

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