第9話 僕のクラス
「南雲、やっと戻ってきたか」
職員室へ向かい、昨年お世話になった担任の平賀先生の所に挨拶へ来た。平賀先生はもうすぐ30歳になる体育教師だ。暑苦しいので少し苦手だ。
「平賀先生、ご迷惑おかけしました。高見さんからも先生には色々と手続等でご面倒をおかけしたと聞きました」
「ははは、気にするな。受験生の相手に比べたら、楽なもんだ。まあ、災難だったな。これから頑張れよ」
「はい。それで、今日なんですけど、これからどうすればよろしいのでしょうか」
「お前のクラスは去年と同じ1組だ。担任先生を紹介するから付いてこい」
平賀先生について、隣の島へ。
「あ、あ、有栖川先生、おはようございます」
平賀先生が、直角に腰を曲げて挨拶している。あ、そういうことね。
「ふふふ、平賀先生。おはようございます。いつもお元気ですね」
有栖川先生は、とても美人な先生だった。平賀先生、好意がだだ漏れですよ。
「こいつがお話しておいた、南雲です。今日から1組に復学しますので、連れてきました」
「平賀先生、ありがとうございました。南雲君、私は有栖川由美といいます。今年度から本校でお世話になることになった新任ですので、初めましてですね。これから卒業までよろしくお願いしますね」
僕の高校は1年から3年までクラス替えが無い。よって、基本的に3年間クラスメイトと担任は変わらないのだ。
「はい。よろしくお願いします」
「慣れるまでは大変だと思うけど、頑張ってね。クラスの子は皆いい子だから大丈夫よ。それに、彼女もいるし大丈夫よね」
彼女? 瑞樹の事か? 何で先生が知っているんだ?
「それじゃあ、そろそろ教室に行きましょうか。皆さんに紹介するわ」
今度は有栖川先生に付いて、教室へ向かう。転校生みたいで嫌だな。皆からしたら転校生みたいなものだろうから、変わらないか。
懐かしき、1年1組の教室に着いた、先生の後ろに付いて教室に入る。皆の視線が僕に突き刺さる。陰キャの僕には厳しい試練だ。
視線怖い。クラスの子達と目を合わさないように下を向いておく。
「皆さん、昨日話していた様に南雲優弥君が本日より復学します。南雲君は事故に遭って、暫く入院していたので休学していました。皆さんの先輩にはなりますが、同級生として卒業まで一緒に勉強をする仲間です。皆さん、仲良くしてくださいね」
クラスの中からチラホラと「はーい」と言う返事が上がる。だからと言って、実際に仲良くはしてくれないがな。ただの返事ですよね。分かってますよ。
有栖川先生が僕の大体の事情を話してくれたので、話すことが無くなってしまったな。この後の自己紹介どうしようかな。
「それじゃあ、南雲君から自己紹介をお願いします」
「えっと、南雲です。これから卒業までよろしくお願いします」
無難な挨拶にまとめてみた。可もなく不可もなくだろう。
「優弥、そのしょぼくれた挨拶は何なの。もっとシャキッとしなさい」
「え、菜奈! 何で君が……」
「みんな、こいつの名前は南雲優弥。年齢16歳、身長167cm、体重42kg。誕生日は4月5日。趣味はアニメ鑑賞でお気に入りは『世話役獣人は出ていかない』のミリアたん――とこんな感じで言えないの?」
詳しいな、おい。僕の個人情報がただ漏れだ。
「えっと、七瀬さん。彼について、やけに詳しいね」
誰か知らないが、余計な一言を言いやがって、それを言うと――あぁ嫌な予感しかしない。言っちゃうよね。菜奈なら。
「だって一緒に住んでんだから当然でしょ」
終わった。平穏な学生生活よ、さようなら。
奈菜の一言で、教室内が騒然となる。まあ、そうなりますよね。
「皆さん、お静かに。南雲君と七瀬さんは親戚なんですよ。事故で怪我をした南雲をサポートする為に、引っ越されて来たんですよ」
騒然としていた教室がやや静かになる。
有栖川先生、ナイス。
いつの間にか奈菜と親戚になってたんだ。知らなかったよ。多分嘘だけど。
でも助かったことには変わりない。
「まあ、そういう訳だから、優弥とも仲良くしてやってよ」
奈菜が仕切る。随分クラスに馴染んでるな。流石、陽キャ。僕とは違うな。
「それじゃあ、南雲君は七瀬さんの隣の席を使ってね」
狙いすましたかの様に奈菜の隣の席が空いていた。
「おい、奈菜。これは一体どういう事だよ」
「へへ、そのうち分かるって朝に言ったでしょ。こういう事よ。私も高校くらい出ておきたかったから、康介さんにお願いして編入手続きして貰ったのよ」
「だったら、教えておいてくれよ」
「そこの二人。まだ朝会中ですよ。お静かに」
早速、先生に叱られてしまった。奈菜からはあんたのせいよという目で睨まれた。僕のせいではないと思う。理不尽だ。
朝会が終わった瞬間、クラスの男子どもに囲まれてしまった。
「ねえねえ、奈菜さんと一緒に住んでるって本当?」
「奈菜さんって彼氏いるの?」
「今度、遊びに行っていい?」
奈菜の人気が凄まじいな。僕への興味は微塵も無さそうだ。そりゃそうだけどね。
「水瀬先輩、どうされたんですか。何か御用ですか?」
瑞樹が教室にやって来ました。またトラブル発生だ。騒然となる未来が視える。未来視の能力まで得てしまったか。僕の目はついに魔眼に進化したか。
「ええ、彼氏の様子を見に来たのよ」
「うぇぇ! 彼氏!」
瑞樹と話していた男の子が大きな声をあげる。その声で瑞樹の来場をクラス中が知ることになった。
つかつかと歩いて瑞樹が僕の所にやってくる。教室の皆がこちらを見ているな。
「優弥、どう、大丈夫そう?」
「な、な、南雲君、水瀬先輩だよ。若しかして彼氏って……」
僕を取り囲んでいた男の子が慌てている。瑞樹の人気はやはり凄まじいな。
「ああ、何とかって感じかな」
「そう、また昼に様子を見に来るわね」
「来られなくて結構ですよ、水瀬先輩」
「あ、あなた、何で学校にまで居るのよ!」
どうやら瑞樹も奈菜の事を知らなかった様だな。
「あら、優弥をサポートするのが私の仕事ですもの。そりゃ、学校にも付いて来ますよ。水瀬先輩」
「くっ、七瀬さん。彼のこと、よろしく頼みますね。皆さんも優弥の事よろしくお願いしますね」
皆の前でブッラク水瀬さんになれない瑞樹がにこやかに去って行った。黒いオーラが増大したのが視えたのは僕だけだろうか。瑞樹はそのうち、ハイパー化してしまうんじゃないだろうか。
ハイパー化を知らない人は調べてみてくれ、恐ろしい現象だからね。知っている人は、分かるだろう、その恐ろしさを……。
ホワイト水瀬さんがいつまで持つのか不安だな。後できちんとフォローしとかないとな。
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