2章 僕の学生生活は変わった

第8話 僕の学生生活スタート

「ねえ、優弥、明日から学校よね、大丈夫なの?」

 二人での生活が始まり3か月、先日は正月をむかえ、彼女が作ったお節を食べて驚いた。お節まで完璧に作るのか。こいつやりおる。

 この子は本当に見た目と能力のギャップが激しい。見た目は茶髪のおっぱいの大きい、いけいけギャルなのだが、中身はシャイで家事万能な女の子なのだ。

 そして、僕の事を南雲君から優弥と呼ぶ様になった。それはまた機会があったら話すけど、水瀬さん――じゃなかった、瑞樹と一悶着あって、瑞樹に対抗する様にいつの間にか呼ぶ様になった。

「うーん。少し不安だけど大丈夫だよ、菜奈」

 僕を名前で呼ぶ様になった影響で、僕も七瀬さんを名前で呼ばないといけなくなった。非常に、非常に呼びにくい。

 恥ずかしいと言うのもあるが、七瀬菜奈、上から読んでも下から読んでもななせなな。彼女の親は狙って付けたのだろうか。今となっては理由は不明のままだ。

「なな」も「ななせ」も対して変わらないと思うのだが、「せ」を付けると怒る。よく分からない。


 僕と彼女の関係? 知っているだろう。僕は陰キャだよ。何が出来ようか。

 賃貸人と貸借人の関係のままですよ。当たり前です。例え、一緒にクリスマスを過ごそうが、初詣に行こうが、炬燵で一緒に寝ようが、そういう事です。


 明日から遂に学生に復帰だ。一年生の3学期に出戻りだから、見知らぬ後輩達とお勉強をしなければならない。

 まあ、これまでどおり、ボッチらしく一人で過ごせばいいさ。一人の方が楽だしね。

「菜奈は明日からどうするの。またバイト?」

 彼女は日中はバイトをしてフリーターとして過ごしている。何のバイトかと聞いたのだが、教えて貰えなかった。如何わしい所じゃなければいいけど……。

「私? 私はいろいろよ。そのうち分かるわよ」

 いろいろって何だよ。教えてくれてもいいのに。

「ほら、早く横になりなさい。してあげられないでしょ」

 彼女は律儀にマッサージを続けてくれている。いつもどおり気持ちがいい。今日もゆっくり休めそうだ。最近はこのまま寝てしまう事が多い。多分今日もこのまま落ちるだろう。zzz

 

 はっ、もう朝か。7時間が一瞬で過ぎ去ってしまった。ヤバい、早くトイレに行かないと……。


「トイレは10分間使用禁止よ」

 遅かった。

 気がついただろうか。使用禁止時間が倍に伸びてしまったのだ。これは僕がある粗相をしてしまい、それを許して貰う条件として執行された。

 何をしたかって。それは言えない。喋ったら菜奈に殺されてしまう。

 彼女は自分の事をか弱い乙女だと言っているがとんでもない。彼女の拳は世界を制する事ができるだろう。もし丹下段平が彼女の拳を見れば彼女が女性であることを嘆くことだろう。

 あの殺人パンチで僕が何度死にそうになったことか。

 

 時間はまだ、6時半である。

「なんでこんなに早起きしてるの?」

「そんなの決まってるでしょ。はい」

 彼女が小包みを渡してきた。

「何。え、お弁当?」

「そうよ。それが何か?」

「わざわざ作ってくれたの?」

「昨日の残り物を詰めただけよ」

 なんでも無いかの様に言うが、僕は婆ちゃんが死んでから初めてのお弁当だ。嬉しくないはずがない。

「ありがとう。菜奈」

「契約だからね」

 彼女は事あるごとに契約と言うが、僕の中ではあの契約でここまでして貰えると思っていない。

「今からお昼が楽しみだよ」

「そう」

 そっけなく返事をするが、顔はにやけてるよ、菜奈。


 それから彼女の作ってくれた朝食をとり、家をでる。学校までは徒歩30分くらいで行けていたが、今はもう少し時間がかかる。途中で休憩も必要だ。そのため、前よりも30分早く家を出た。


 家を出るとき、

「大丈夫? 付いて行かなくていい?」

 と彼女が聞いてきたが、丁重にお断りした。16歳、もうすぐ17歳の男が女の子に心配されながら登校するなんて恥ずかしすぎる。


「おはよう、優弥」

 家から少し歩いたところで、水瀬さんが現れた。どうやら今はホワイト水瀬さんらしい。

「おはよう、瑞樹」

 こう呼ばないとブラック水瀬さんになるので、仕方がない。

「ふふふ、おはよ。どう、久々の登校は」

「緊張するね。もうすぐ事故にあった場所だ」

 僕が事故に遭った場所についたが、その面影は微塵も残っていない。聞いた話によると、トラックが突っ込んだため、ガードレールは吹き飛び、街路樹は折れ、この壁もボロボロに崩れていたらしい。

 瑞樹自身も結構怪我をしていたらしく、治って登校する頃にはもう綺麗に整備されていたそうだ。

「どう、平気?」

「実際、事故の事なんて何にも覚えていないから、全然平気だね」

「そう、じゃあ行きましょ」

 そう言って僕の手を取る。女の子と手を繋いて歩くなんて小学校の遠足以来だ。しかも、一応瑞樹は彼女ということになっている。本当に僕なんかで良いのだろうか。


 一度聞いてみたことがある、「何で僕を彼氏にしたの?」と。

 すると彼女は唇に人差し指を当てて、秘密と言ったのだ。一見、目茶苦茶可愛い仕草だろ。前の僕だったらそう思っただろう。

 でも今は違う。僕の目には彼女から漂う黒いオーラが視える。多分僕はニュータイプに覚醒したのだろう。瑞樹限定だが危機察知が出来る様になった。

 恐らく、

「ああん。私の彼氏役が嫌なのか? この陰キャが。大人しく彼氏の振りして、防波堤になってればいいんだよ」

 とか、

「何で私がお前ごときに態々説明しないと行けないんだよ」

 とかって思っていたはずだ。きっとそうに違いない。



「おい、水瀬さんが男と手を繋いでるぞ」

「あの男は誰だ。何であんな奴と……」

「水瀬様、今日もお美しい。あのゴミは邪魔だな」


 僕と瑞樹が学校に近づくにつれて、周りが非常に騒がしくなってきた。やはりこうなるよな。学校のアイドル的存在の瑞樹が男と手を繋いで登校すればこうなるのは必至だ。

「ねえ、瑞樹。はずかしいから手繋ぐの止めない」

「止めない」

 ですよね。僕を防波堤にするつもりなんだから、止める訳ないよね。

 その後、下駄箱までしっかりと手を繋がれて登校することになった。敵意ある視線と好奇の視線をたっぶりと受けることになってしまった。


 はあ、今日からの学生生活は気が休まらないだろうな。

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