第3話 僕の葛藤
昨日、第0話を公開しております。未読の方はそちらもご一読ください。
よろしくおねがいします。
また、南から七瀬へ名字を変更したしました。
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「き、君は……」
「南雲くん、昨日はごめんなさい。でも、やっぱり、リハビリを手伝わせてください
」
「七瀬さん、でいいんだよね。僕こそ、昨日はごめん。君に言っても仕方の無いことだった」
「いいの。お父さんがしてしまったことだから……」
「でも、君が悪いわけじゃない。それに、看護師さんから聞いたけど、マッサージしてくれてたって……」
僕のその言葉を聞いて、ボッと彼女の顔が赤くなった。もしかして、やっぱり見られたのかな。
「南雲くん、彼女にリハビリ手伝ってもらったら? リハビリって一人だとしんどいよ。誰かに支えてもらった方が良いと思うな」
宮家先生が助言をくれる。
「でも、悪いですし……」
「私は構いません。それで彼の回復が早くなるんなら、何でも手伝います」
「ほら、こう言ってくれてるし」
うーん。いいのかな。リハビリってする方も、支える方も大変だって聞くけど。
「僕は助けてくれると助かるんだけど、本当にいいの? こんな事する必要無いんだよ」
「駄目よ。お父さんのせいで苦しんでいるんだもん。放っておけないわ」
「でも、君だって学校とかあるだろうし……」
「大丈夫。もう行ってないから」
「えっ、でも制服……」
「あっ、こ、これは……これしか服がなくて仕方なく……」
どういう事だろうか。今どきのJKが制服しか服を持っていないなんて事は無いだろう。何か訳ありなのだろうか。話してくれるとは思えないけど……。
「じゃあ、無理のない範囲でお手伝いを頼んでもいい?」
「ええ、何でも言ってくれていいわ。何でもする」
女の子が何でもするなんて言っては駄目ですよ。いろいろと問題になりますよ。
「じゃあ、話もまとまったことだし、リハビリセンターへ行こうか。やったね。これで僕は楽ができる」
宮家センセ。あんた楽がしたかっただけかい。
それで、初回のリハビリの結果だけど、死ぬほど痛かった。骨折が治ってから動かしていなかったので、癒着が激しく、少し動かすだけでもメリメリと音が聞こえてきた、凄まじい激痛に悲鳴をあげているのに、療法士に先生は笑顔で更に力を強めてきた。多分、体が自由に動いていたら先生を殴っていたかもしれない。明日もすると言うが、もう辞めたいと心の底からそう思った。
今は七瀬さんが全身をマッサージしてくれている。さっきまでの地獄にいた俺を救ってくれる天使に見える。すごく気持ちがいい。この子、プロか?
「七瀬さん、ありがとう。さっきまで死ぬほど痛かったのに、大分よくなったよ」
「そう。なら良かったわ」
そう返事をしながらも、彼女は握った手を離さない。ふと彼女を見ると、泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「お父さんのせいで、こんな体にしてしまって、ごめんなさい。リハビリがあんなに辛い事だなんて思ってなかった。私にはこれくらいしか手伝える事は無いけど、一生懸命するので、お父さんを許してください」
そんなことを言われても、簡単に許せるようなことじゃないし、まだ、本人に謝罪してもらってないし……。
「どうして七瀬さんが謝るの、昨日も言ったけど、お父さんが来るのが筋なんじゃないのかな」
「それは……」
「それは無理なんだよ。優弥くん」
「康介さん!」
「やあ、優弥くん。目が覚めてくれてよかったよ。心配したよ」
やはり、心配と迷惑をたくさんかけたんだろうな。お金を払っているとはいえ、康介さんはそれ以上に親身になってくれるから、僕が信頼できる数少ない人物だ。
「康介さん、心配おかけしてすみませんでした。それで、無理っていうのはどうして」
「彼女のお父さんは亡くなってるからだよ。正確に言うと、トラックの運転中に心臓発作で亡くなったんだ」
それなら、なおさら彼女は悪くないよな。運転中に亡くなっていたんだ。そしてあの場所で滑って転んだ僕の運が悪かった。
「七瀬さん、ここには来てはいけないと前に注意したでしょう。貴方は一応、加害者の親族です。被害者である優弥くんの所に裁判の前に来るとあらぬ誤解を生むことになります」
裁判って事故の? お父さんは亡くなったんだよね。何で?
「でも、南雲くんがお父さんを訴えたら、お父さんは犯罪者として死んだことになってしまうわ。お願いします。何でもしますから示談してください」
「そういうお願いをされると困るから、来てはいけないと伝えたんですよ。優弥くんが困ってしまうでしょ。まあ、もう遅いと思うけどね」
そうですね。もうガッツリと事情を聞いてしまったからね。要約すると、僕が訴えたら七瀬さんのお父さんの名誉に傷がついてしまう。七瀬さんとしてはそれが嫌で、何でもするから和解したいと。
刑事事件としては既に不起訴になっているんだろうけど、七瀬さんとしては家裁でも争いたくはないということかな。
僕としても、彼女は無関係だと思っているので、お金で済ませてしまうのが、簡単だろうから、示談でいいと思うんだけど……。康介さんが渋い顔をしているのが気になるな。
「康介さん、僕は示談でもいいんですけど、何か気になる点があるんですか?
「七瀬さん、示談にするにしても、お金払えないよね」
えっ、どういうこと?
「結構、借金があったって聞いてるけど……」
「そ、それは……」
訴えて欲しくないから示談したいけど、お金は払えないって。かなり無理がある様な。
「お、お金は働いて必ず払います」
「16歳の君に賠償金が払えるほどの働き口があるとは思えない。あったとしても、碌な仕事じゃない」
それは所謂、性的なお店などのことでしょうか? これだけの美貌と体なら需要はたくさんありそうだけど、それは止めて欲しいな。
彼女が16歳ということが判明した。同い年か一つ上
「康介さん、僕は訴えるつもりは無いですよ」
「南雲くん!」
「優弥くん、それでいいのかい? 君は半年も寝たきりになっていた上に、これかも長い間入院しないといけないんだよ」
「そうなんですけど、でも、彼女のお父さんはもう居ない訳で、残された家族の人たちが悪いわけではないので……。気になるのはここの医療費くらいのもので……」
「流石、優弥君だ。君ならそう言ってくれると思って準備していたんだよ。彼女の父親ではなくて、会社の方を訴えよう。調べてみたら、完全に労働基準法を違反した、勤務をさせていた。これから2ヶ月入院するとして、計8ヶ月の入院に対する見舞金としてざっと1000万くらいは取れると思うから、入院費用については安心していいよ」
流石、敏腕弁護士の康介さんだ。僕の考えそうな事はお見通しだった様だ。
「彼女の父親を訴えても大したお金は入ってこないからね。会社から取った方が早いんだよね」
やっぱり流石だね。
「えっと、そうですか。死にかけたんですけど、まあ儲かって何よりです」
「ということで、僕は訴えないから、安心していいよ。それにリハビリの手伝いももう良いからね。君が犠牲にならなくてもいいよ」
「そんなの駄目。あんな辛いリハビリを見せられて、放って置くことなんてできないわ。私も手伝うって決めたんだから、明日からも毎日くるから」
明日以降もここに来るつもりの様だ。被害者がもう良いって言ってるのにね。頑固者なのかな。
僕としてはマッサージは気持ちよかったからありがたいんだけどね。
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