第一章 遭遇ー21

 そこにいるよう透夜に示され、ピユラの後ろに庇われて、ユリアは行き場のない掌で自身の服をただ握りしめた。身の内から魔力を汲み上げ、瞳を閉じて呪文を紡ぎあげるピユラは、淡く銀色の光をベールのように纏っている。その柔らかな光の向こう、蒼珠と切り結ぶ透夜の姿を見つめながら、ただひとり、なにもなせていない自身に歯がゆさが募った。


 しかし、ユリアには蒼珠を鎮める術もない。彼を押し留める力もない。ならばせめて、ただ大人しく守られていなければ、邪魔になろう。それがよく分かっている。だから、静かに身を潜めて見守るしかない。


(本当に……?)

 揺らめくピユラの魔法の光。その銀色に過るのは、あの日の目を射るようだった白銀の光――幻獣の力だ。

 目の前で見た魔法使いの青年の炎より、ピユラの操る風魔法より、ずっと大きな力を示した強い光。そして、その後に現れた白銀の獣は、確かに彼女の力のはずだった。

(私、ここに、いる――……)

 遠く聞こえた気がした夢の声を繰り返す。金色の髪を血で濡らし、戦う蒼珠と透夜を遠く見つめて膝を折る青年の姿は、あの日の帝国の彼の姿と少し重なる。額から落ちる血に、長い金糸を濡らして笑んだ薄緑の瞳の人。おそらく、彼が呼び覚ますきっかけとなった力は、紛うことなく戦うための力だ。だから、力がないというのはその実もう、ユリアにとっては怖じる気持ちを誤魔化すための言い訳なのだと頭の片隅では知っていた。


(でも、なにも知らない力は、怖いよ……)

 一歩の覚悟があれば、きっとこの力を使えるのだろう。一度、ピユラのために――誰かのために使えるならばと願いもした。けれど、幻獣はいまだ彼女にとっては得体のしれないものだ。なにをどうすればいいのかも知らなければ、操り切れる力なのかも分からない。だから、怖いのだ。それは彼女を守るのではなく、誰かを傷つけるだけの力になるかもしれないのだから。


 だが、疲労を重ねてなお、強い意志で蒼珠を止めると力をふるうピユラを前にしながら、危険を承知で彼へと挑む透夜を見ながら、なにもできないと隠れているのはひどく甘えた、卑怯な行為にも思えた。

(でも、だって――……)

 瞳を伏せる。その時、空気を震わす蒼珠の叫び声に、ユリアは目を見開いた。ピユラの呪文を紡ぐ声が止まり、彼女も驚愕に顔色を塗り変える。


 蒼珠の手には渦巻く雷。迸る青白い瞬きはその腕を痛めつけ焼き焦がし、そのまま空気を揺さぶる鋭い矢となって透夜へ向けて放たれた。

 避けることは出来そうもない。透夜が歯を食いしばり、せめて防ごうと剣をその身の前に掲げた。風がその刀身を包んで盾となって吹き荒ぶも、空を走る雷を受けて持ち堪えられるかは分からない。

 赤い血を散らして、胸を押さえて、彼が倒れ込んだ白い夢の光景。それが瞬間頭を過って、ふっとユリアの中からなにかが切れて消えた。

「透夜……!」

 その名を叫び、ユリアは拳を握りしめた。白銀の光がその中から零れて彼女を包み込む。

(私を守る力じゃなくていい! だから――!)

 どんなに恐ろしい力だろうと、どうか、大切な人を守れる力になってほしい。


 彼女から走った光が獣の影をかたどり、空を駆けた。稲妻が閃き滑る空をそれより早く飛んで透夜の前へと滑りこむ。雷の一矢を噛み伏せるように白銀の獣がぶつかり合い、眩い光が弾けた。


 辺りを染め上げた白い閃きが落ち着き、明瞭さが戻ると、その視界に、稲妻の瞬きをわずか前脚に残した白銀の狼の姿が映り込んだ。透夜を背後に、同じ金色の瞳で蒼珠を睨み、低く威嚇の唸り声をあげる。

 一瞬、それに蒼珠がたじろぎ、身を引いた。しかし直後、彼の視線がユリアへと流れる。蒼珠が彼女の方へと大地を蹴るのと、気づいて透夜が叫ぶのとは同時だった。

「ユリア!」

「大丈夫……!」

 迫る金色の目に怯みかけた自身を奮い立たせて、ユリアは応えた。瞬間、蒼珠を追って駆け出した透夜の身体の下へ、幻獣が滑り込んで彼を背に乗せ、走る。その四足が光を纏って蒼珠を押さえ込もうと、真紅の髪を靡かす頭上に踊りかかった。


 それを寸でのところで身をひるがえして、蒼珠が飛び退き避ける。獣の一撃は狙いを逸れて地面を抉ったが、その避けた蒼珠へ、幻獣の背から透夜が躍り出て、流れるような一太刀をあびせかけた。それは姿勢を崩した蒼珠にはさすがに捌ききれず、爪先でわずか軌跡を変えられたものの、その切っ先は右太ももを確かに斬り裂いた。


 溢れる真紅の血が足を伝い、斬られた痛みに着地の体勢を取り切れず、蒼珠の身体が勢いよく地面を転がる。

 そこへ、ピユラの声が鋭くかかった。

「皆、待たせてすまぬ! これで仕舞いじゃ!」

 ピユラは蒼珠に向かってその手を差し伸べるように突き出した。彼女を包んでいた銀色の光が風の渦となって、長い黒髪が空へと美しく流れる。

「我に応えし風の精霊よ。汝が力、いま我が前に示さん。安らぎの力もて吹き抜けよ。荒れる力を鎮め、眠らせ、空高く音を奏でたまえ!」


 ピユラを包んでいた風の流れが辺りの木々を揺らし吹き抜けて、身を起こしかけていた蒼珠を包み込んだ。荒れ狂う風音はしかしどこか心地よく空気を震わし、風の渦が彼を絡めとるように、抱きしめるようにその身を宙へと浮かべて逆巻く。紅の髪を振り乱し、抗うように唸り声を上げていた蒼珠の動きがやがて緩やかに静まり、ふわりとその金色の獣の瞳が瞼の下に眠った。淡く光を纏い、彼の髪色が、長さはそのまま赤混じりの黒髪へと戻る。頬の模様は掻き消え、その手の先はいつもピユラに差し出される優しい掌になっていた。


 吹き荒れていた風はいつしか柔らかに彼の周りで流れ、そっと寝かせるようにその身を地へと横たえた。彼の顔つきは穏やかで、腕や足に残る傷痕や火傷と、長く伸びた髪が、先までの名残にあるばかりだ。


 透夜がほっと息をつき、ユリアがぺたりと座ってへたり込む。白銀の狼は消えぬまま、ユリアのそばへ大人しく近寄り、その腕に鼻を寄せた。

「透夜、ユリア……礼をいう。おかげでこの程度の傷で蒼珠を止められた。よもや、無理やり魔法を使うとは思わなかったゆえ、あの時はどうなるかと焦ったが……みな無事でなによりじゃ」

 ふたりへ交互に顔を向け、ピユラは疲れを色濃く見せながらも微笑んだ。蒼珠にそのままゆるりと歩み寄り、彼を心からの安堵の面持ちで見つめて、その隣に屈みこむ。彼女の小さな手が優しく彼の黒髪を撫でつけた。

「そなたも、目覚めたら礼をいわねばな」

静かに唱えた呪文が、癒しの風となって彼の傷を消し去り、そよいだ。

「すまぬ……。もう、限界じゃ。あとのこと、は、たの――……」

 いまにも落ちそうな重たげな瞼で透夜とユリアを振り返り、ピユラは言葉も半ばに、蒼珠の上に倒れ込むようにして意識を失った。


 重なり合うようにして眠るピユラと蒼珠を見やり、透夜とユリアは互いに顔を見合わせる。ユリアに寄り添う獣が、その大きな尾で彼女を守るように包み、柔和な光をその双眸に宿して透夜を見つめた。

 おそらく、ユリアの安全は任せろ、ということだろうと、とっさの流れとはいえ背中を借りたよしみで理解し、透夜は魔法使いの青年へと向き直った。


 茫然と、事の成り行きを見守るだけだった彼が、透夜の視線に身をこわばらせる。傷は深く、蒼珠との戦いで魔力も底を尽きた様子だった。下手なことはもう出来ないだろうが、剣は収めぬまま距離を保って、透夜は彼へと声をかけた。

「さて――先にもいったが、お前には色々聞きたいことがある」

 現れ出た時、彼はしかと帝国の者であるとは名乗らなかったが、透夜の出した莠の名を聞き知っていた。彼らが互いにどのような関係なのかまでは分からないが、帝国の差し向けた魔法使いであることに間違いはないだろう。ならば、莠たちのこと、幻獣のこと、日々の追手のこと――問いただして明らかにしたいことが、透夜たちには山ほどあった。

「できれば、相応の対応をする前に答えろよ? 莠の名を知っていたな。ふたり組といっていたということは、玄也というやつのことも知ってるな? まずはそいつらについて、知ってる限りのことを話せ。能力、立場、目的――順を追ってな」


 有無を言わせぬ透夜の語調に、青年は不服を滲ませ顔を歪ませたが、諦めたのか吐き捨てるように口を開いた。

「奴らは皇帝陛下直属の魔法部隊だよ。多少、噂なりとも聞いたことはあるだろ? たったふたりで一国を滅ぼす、馬鹿げた力を持つ紛い物だ。ふたりともいくつか魔法を操るが、僕が知るのは、玄也の奴が炎と人を操れるってことと、莠が氷と、か、」

「は~い。そこまで」

 突然、別の声が青年の言葉を遮って、木立の中を通り抜けた。同時に凄まじい勢いで炎の矢が一筋、透夜の真横を行き過ぎ、青年の頬の脇すれすれを掠めて飛んでいく。


 振り向けば、先ほど青年が現れたのと同じ場所から、今度は人影がふたつ、緩やかに姿を見せて、彼らの方へと歩み寄ってきた。

「玄也、さま……莠さま――」

 瞬く間に青年の青い瞳が怯えた色に染まる。彼と同じ色のそれより長い髪をなびかせて、背の高い白い軍衣の青年がにこやかに唇を引き上げた。

「そうそう。優し~い莠さま。さっきの一矢、外してやるよういってやったよ。感謝してほしいね」

「そうでもないと、狙いを過つ距離ではないからな」

 莠の隣の黒一色の青年が、その端正な顔を微塵も動かさずに告げる。

「しかし、こういうの勝手にやられても困るんだよねぇ。余計な仕事が増える。それに、情報漏洩はいただけないよ? 俺にとっては羽虫みたいな力だけどさぁ、一応普通の人間相手なら、君もそこそこの戦力なんだから。あんまりいけないことして、消さなきゃいけなくなるのは、国としては多少損失だ」


 青年の顔色が青褪める。震えの走るその体と明らかに塗り変わった空気に、透夜は剣を握る手に力を込めた。先の炎の矢の威力だけを見比べても、魔法に明るくない透夜にさえ、彼らの方が格段に力が上だと分かる。この男たちが、あの晩ユリアを攫いかけた張本人たちというわけだ。ユリアをすぐに庇える位置にそっと足を滑らせ、視線だけで彼女をうかがえば、ユリアも顔の色を失くして、彼らを見つめていた。


「ま、今回の件は諸々大目に見てあげるさ。どーせ、君が動いたのは、どっかの誰かの私的な命令だろうからね。でも、いまこの仕事してるの俺たちだから。次はないよ?」

 近づく彼らに、ユリアを背にした幻獣が牙をむき、威嚇して唸り声を上げた。それをさして気に留める風もなく、だが歩みを止めて莠は肩をすくめる。

「相変わらず嫌われてる」

「どうせなら、徹底的に嫌われきっておけ。せっかくだ。試すんだろ?」

「それ、君に任せる」


 ゆるりと首を巡らせ笑みを湛える翡翠の視線に、頷く代わりに溜息ひとつ吐いて、玄也は指を弾いた。瞬時にその指先から迸った炎が空中に揺らめく槍の切っ先を象り、ユリア目がけて空を走る。燃える穂先は透夜が踏み込む間もない速度で、ユリアの頭上に降り注いだ。それを、跳ね飛んだ幻獣が噛み伏せ、尾で打ち退けて払い落す。だが、

「なるほど。動きはいい」

 そう冷静な声がかかったかと思った瞬間。幻獣の横腹へ無数の炎の礫が叩き込まれた。息を飲むユリアの目の前で、大きな白銀の身体が焼け焦げた痕も痛ましく、弾かれ、地に打ちつけられ、立ち並ぶ樹の幹のひとつを折らん勢いで飛ばされる。前足で地面を掻くも、立ち上がれずに銀の狼は倒れ伏した。その輪郭がぼんやりと光り、消えかけている。

「それでは次は無理か」

 冷えた低い響きと共に、再び炎がその黒衣の足元で渦巻いた。燃え盛る波がユリアへと一直線に地を走る。あの月夜、ユリアの行く手を遮りふさいだのと同じ、紅蓮の熱だ。思わず、ユリアの身体が強張った。足が、竦む。動けなくなる。


 けれど、あの日と違って、すぐさま彼女に駆け寄った影がその身を抱きしめ、炎の波を飛びすさり避けた。直後、ユリアがいた場所で空を焦がして火柱が燃え上がる。

揺れる真紅に照り映えた紫黒の双眸が、きっと彼らを睨み据えた。下ろしたユリアを背に、手にした剣の切っ先を凛とふたりへ向ける。

「わぁお、かっこい~」

 見物を決め込んでいた声が、からかって笑った。長い指先が踊るように空を撫でる。

「ちょっと、ちょっかいかけたくなっちゃうね」

 指の動きに併せて煌めき生まれた氷の刃が、次々と透夜へと放たれた。すべて防ぎきるのは不可能と思われるその数に、透夜は舌打ちし、半ばその身に受ける覚悟で、剣を構える。最初のひとつを叩き落とし、次を斬って、また払う。その剣戟の合間をすり抜けた刃が頬を掠め、腕を切り裂き、鮮血が飛び散った。だが、血飛沫を縫って怯まずふるわれる剣先が、虚空に鮮やかな弧を描き、美しい軌跡を残して、とめどなく迫る氷の刃を斬り伏せていく――瞬間。


 剣の周りに風が渦巻き、莠の放った氷の刃を、勢いよくすべて吹き散らした。

 思わぬことに剣を振るった透夜自身、眦を裂き、砕けて散る氷のかけらを見つめる。ピユラは倒れ伏したが、彼女が託してくれた魔法の力がまだ残っていたのだろうか。きらきらと、輝石のようにまたたきながら、氷の破片が散り落ちていく。


 その光景を、同じように驚きを瞳の奥に湛えつつも、それ以上に楽しげに見つめて、莠が口笛を吹きならした。

「へぇ。これは、いいね。思わぬ収穫」

 彼はそのまま笑みを浮かべて、隣の相棒を振り返った。

「玄也。今日はここまでにしておこう。だいたい様子は分かった。幻獣使いと幻獣、相性は悪くなさそうだけど、十分にその力を使いこなせてるかっていうと、まったくだ。あの日の力の片鱗すらない。これじゃ、まだ連れて行っても無意味だろうさ」

「なら、こいつだけ回収して行くか」

 萎縮しきった魔法使いの青年に歩み寄り、玄也がその襟首を無造作に掴んだ。一瞬、ちらりと倒れたままのピユラたちに視線を流し、莠がその相方の黒衣の肩に腕を預ける。自分たちを警戒して睨みつける透夜と、その背後のユリアに彼はひらりと手を振った。

「これ、予定外の仕事だし、ここで一旦引いてあげるよ。次はもっと遊べるといいね、おふたりさん」

 軽やかに彼が言い終わった瞬間、白い光が三人を飲み込み、影となり、瞬いた次の時にはもう、その光ごと彼らの姿は掻き消えていた。


 張りつめていた力が抜けきらず、無言で立ち尽くしていたふたりの耳に、冬木立を抜けて小鳥の声が遠く聞こえる。それでようやく、森の中に静寂が戻ったと知れた。

「ユリア……平気か?」

「私は……大丈夫。透夜のおかげ。ありがとう。でも――」

 ユリアは、うずくまる銀の狼の元へ駆け寄った。伸べた手に力なく顔を摺り寄せて、獣は弱々しく喉を鳴らす。かつての莠の話しぶりからすれば、この狼は〈意思持つ魔力〉の塊ということになるのだろうが、目の前の傷ついた姿は、とても命がないとは思えない。


 眉尻を下げて、ユリアはそっとその身を抱きしめた。労わるように寄り添うその抱擁に、狼は心地よさそうに金色の瞳を細める。淡い光がユリアと獣の輪郭を浮かび上がらせて輝き、深手を負った狼の横腹に渦巻いた。自身の力が抜けると同時に、見る間に治ったその傷跡にユリアは目を瞬かせる。狼が、感謝するように尾を振っていた。

「――治せるのか?」

「みたい……。なんか、疲れたけど」

 その光景を見守っていた透夜の声も驚きが混じっている。慣れない不可思議な力に自身の手をしげしげと見つめながら、ユリアは頷いた。

「魔力といっても、結局は身体に結び付いた力みたいだからな。体力と同じで使えば疲労もするし、過ぎれば倒れる。あそこにちょうどいい例が転がってるだろ」

 そう透夜は、騒ぎにも微動だにせず眠り続けていたピユラと蒼珠を指し示した。

「そいつは便利な力みたいだし、お前を守ってくれるようだが、使い過ぎには気をつけろよ」

「うん。そうする。まだ、ちょっと慣れないし……。でも――」

 ユリアは微笑んで、狼の首筋を撫でた。

(そこまで怖くは、なくなったかもしれない)

 力を使いこなせていないと莠がこぼしていたが、使いこなすということが、なにを意味するかユリアには分からない。いま、こうして、おそらくは、この美しい獣が、自身の意志で力を貸し、ユリアたちを守ろうとしてくれている以上に必要なことがあるとも思えない。


「透夜、場所移すよね?」

「そうだな。襲われた場所に留まりたくはないし、こいつらをここに転がしたままでもいられない。適当にどこか、身体を休めれる所へ移りたいな」

「もう少しだけなら、この子にこうしていてもらえる気がするから、ピユラちゃんたちはこの子に運んでもらわない?」

「助かるが、お前の体力は平気か?」

「うん。大丈夫」

 気遣う透夜に安心してと笑顔を返し、ユリアは、お願いできるか幻獣へ尋ねかけた。答える代わりにのそりと蒼珠へと近寄った狼は、その体の下に頭を入れ込み、器用に一匹だけで、重い蒼珠を自身の背へと背負い上げた。ピユラの方は、透夜が抱きあげて落ちぬように背へと乗せる。

「じゃあ、行くか。今朝確認した地図が間違いなければ、この森を西に抜ければ村がある。その手前までこのまま行ければ――とは思うが、辛くなったらすぐにいえ」

「うん」

 空を見上げれば、太陽はいつの間にか随分と中天近くまで昇りつめている。

 日暮れまでには森を抜けられればと、これ以上なにもないことを祈って、ふたりは散らばった荷物を纏め上げ、幻獣を伴い歩み出した。

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