第一章 遭遇-9

 目覚めれば、夜は綺麗に明けていた。飛び込んできたのはカーテンの開けられた窓。その向こうには、前日と同じように青空が広がり、陽の光が部屋の中へと射し込んでいる。


「大丈夫か? ユリア」

 ひょいとベッドの脇から気づかわしそうに紫の瞳がのぞき込んできた。

「なにやら、うなされておったが」

「あ……うん。ちょっと、夢見が悪くって」

 ほっと息をついて、ユリアは体を起こした。胸の内に苦く尾を引く恐怖と、なぜか突き刺す懐かしさをかすか残して、急速に夢の記憶が現の中に霞んで消えていく。


「お~い、起きてるか?」

 蒼珠の声と共に、扉をたたく音がした。はっとしてユリアはベッドを飛び降りると、扉へと駆け寄り、唐突にそれを開いた。おっと、と驚く蒼珠の向こうに、なんだ、と振り向く透夜の姿を見とめて安堵する。


 そのまま透夜のそばに近寄り、ユリアは抱きつかんばかりにぴたりと両手を彼の胸に当てた。

「いや、おい、だから、なんだ」

 明らかな動揺を見せて身を引こうとする透夜に、ユリアは大きく頷く。

「うん。透夜だ」

「いや、待て! 意味が分からん」

「おたくら、いつもそうやって朝の挨拶してんの?」

「してるか!」

 にやにや笑う蒼珠に透夜が咆えたのを聞きながら、ユリアは満足げにふたりを放って、着替えるね、とピユラの残る寝室へと戻っていった。なんなんだ、と困惑しきった透夜の声を背中で聞きながら、もう一度、胸をなでおろす。

 なぜか、夢と分かりながら、彼の無事を確かめずにはいられなかった。


(――変な夢だったなぁ……)

 もうしっかりと思いだすことも難しいが、最後に響いた声が、どこかずっと、耳に残っているような心地がした。


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