第2話 最後の晩餐は繰り返される。

 アンフィスは、9度目の最後の晩餐の席にいた。


 先程まで、その身に刺さった槍をひきずりながら、どこなのかすらわからない荒廃した大地を歩いていたはずだった。


 いつ死んだのか、どうやって死んだのか、彼には全く記憶がなかった。


 毎回そうだった。


 槍に貫かれていたとはいえ、すでにその傷は槍と同化するようにふさがり、内臓もすべて修復が終わっていた。だから彼は何百キロも歩くことができた。


 意識を失っていた三日間の間に、そんな風に身体が修復してしまい、槍を引き抜くことはできなくなってしまっていた。


 どうやら大厄災とは、人や、人がこの世界に住んでいた証を、彼だけを遺してすべて消す、というものであり、大気中のエーテルや精霊たちは存在していた。

 だから水や食料を彼は魔法で生み出すことができた。


 そういったことは覚えているのに、肝心なことが思いだせなかった。


 槍が刺さったままの身体は多少動きづらいとはいえ、精霊やドラゴンといった存在が相手ではない限り、彼を殺せるものなどいないはずった。


 では、自分はどうやって死んだ?


 やはり思いだせなかった。



 最初は白昼夢でも見ていたのかと思った。

 しかし、その夢の通りにこの晩餐の翌日に処刑され、その夢の通りに大厄災の後の世界を歩いた。


 そして三度目の最後の晩餐の席に戻った瞬間、自分は過去にすでに二度死んでいたのだと気づいた。

 死ぬ度に晩餐の席に戻されているのだと気づいた。


 四度目の最後の晩餐の席で、彼は過去の三度とも自分が処刑され、しかし意識を失うだけで死にはせず、3日後に目を覚ますまでの間に大厄災が起きていることに疑問を抱いた。

 彼が目を覚ましたときにはすべてが終わってしまっているということは、大厄災が起きる前やその最中に彼の意識があっては困る者がいるのだと気づいた。

 毎回、晩餐の翌朝に、宿泊した宿にラエルの兵士たちが彼を捕らえにきていることに気づいた。

 だから、宿の関係者全員に一生遊んで暮らせるだけの金を渡した。

 それでも結果は変わらなかった。


 五度目の最後の晩餐の席で、預言よりひとり多い弟子たちの中に、ひとり裏切り者がいるのではないかと考えた。

 弟子は突然増えたわけではなかった。ひとりひとりの出会いを彼は覚えていた。

 だから、彼らの言動をつぶさに観察し、おかしなところはないか探した。

 しかし、何も見つからなかった。


 六度目以降は、これまでと違う言動を取るものがいないかどうかを観察し続けた。

 だが、やはり弟子たちには何もおかしなことはなかった。




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