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あれから幾星霜——。
我らは魔者どもを順調に掃滅し、奴らの本拠地まであとわずかという所まで迫っていた。
あの魔者の子は——誠に口惜しいが、我らの中でも驚くべき力を持つまでに成長した。その強さは魔者など歯牙にもかけず、二番手で先鋒を担う騎士にも追いつこうかという勢いである。また——実に目障りだが、〈術〉の扱いにも非常に長けており、あの冷淡で偏屈な魔術師がわざわざ弟子にするほどであった。
奴らは己以外まるで興味ないという態度だったが、魔者の子の強さには驚くほど関心を示し、力を推し測るように鍛錬を施していた。
それに対し我が王は沈黙を貫いている。しかし無関心でないことが、一層悔しいのである。長年付き従った私には判る。我が王があの忌々しい存在の成長を期待していると——。
今日の戦いでもそうだった。
荒野の戦場で先陣に立ち、剣の切っ先を我らに向けて魔者は叫んだ。
「我は誇り高き騎士ダーマット。我が主君の命により汝らを屠らん。さぁ、構えよッ」
騎士が前に出る。
「お手並み拝見といこうか」
騎士の兜を見て魔者は顔色を変えた。
「きさま……、ディムナ様の仇だな」
騎士は血が固着した兜を示して薄く笑った。
「こいつのことか」
魔者は怒号とともに騎士に飛び掛かった。騎士は平然と一撃を躱し、構えた
「やめた」
と、突如戦いを放棄した。
「何だきさまは」と怒る魔者など意に介さず、呆れる我らをよそに騎士は言い放った。
「お前がやれ」
その言葉に魔者の子が剣を抜く。
「きさまが噂の人狼騎士か。丁度いい。あの仇ともども屠ってくれる」
魔者の子は、戦闘時はその姿を隠すために狼の面をつけている。このせいで人狼などと取り沙汰されていた。
「何だ、怖気付いたのか?」
戻ってきた騎士に魔術師が声をかけた。
「いや、期待外れだったからくれてやった」
「でも、あいつらのなかじゃ強いんだろ」
「あいつらのなか、ではな」
騎士は投げやりに答えた。
こやつはいつもそうだ、と私はため息をついた。強さを求める癖に敵が弱いと知るとお構いなしに戦闘から降りる。その後始末は大体魔者の子が担っていた。
今日も彼奴は自らの役目を淡々とこなした。
己の背丈をゆうに超えるダーマットを相手に、まるで鍛錬をするかのように粛々と剣を受け、最後は軽々といなしてその胴を貫き、決着を示すように首を切り落としてみせた。
当然の結果だ、と言わんばかりに騎士は笑みを浮かべた。魔術師も悪くないと頷いた。
我が王も彼奴に讃するような目を向けた。私もあんな小物すぐに倒せるものを、などと嫉妬を抱きかけたが、ダーマットの死に憤慨した魔者が押し寄せてきたので捨て置いた。
我ら——ドラゴンやゴーレム、グリフォンらの手によって敵はすぐに一掃された。
ドラゴンたちは勝利の証として魔者どもを生きたまま連れ帰った。たまにやるこの遊びに私や魔術師などは城が汚れるからと辟易したが、我が王は褒美としてそれを許している。その寛大な心にまた敬服する次第である——。
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