その5

 魔王から何か学ぶ。

 岩田九段に言われたことを考えているけれど、実感がわかない。確かに魔王は真面目だが、そんな人間はいくらでもいる。将棋は弱い。本を読むのが速かったりと人間離れしたところは多々あるけれど、僕にはまねができないので意味がない。

 部屋は狭くなるし食費はかさむし、今のところ「遅刻を免れた」以外にメリットはない気がする。

「おい、田山!」

「え、あ、ああ。何かな」

「対局後疲れているとは思うがな、いつものように指導をしてくれ。今日こそ八枚落ちを卒業するから」

「……そうだね、そろそろだもんね」

 魔王はちゃんと強くなってはいる。魔王という肩書を考えると物足りないけれど、誰しも向き不向きというものがある。将棋に対してやる気があるなら、あきらめるまでは面倒を見てやろう、という気持ちだ。

「え」

 そして、対局が終わってあっけにとられた。

「ようやく勝ったぞ!」

「いやいや、強くなりすぎでしょ」

「そうかのう。さすが俺だなあ」

「いやいや手合い違いだし。昨日までと別人……別モンスターだし! なに、進化した? 知らない間に進化した?」

「進化というのは個体が生きている間にするものではないぞ。人間の学校では教わらんのか?」

「モンスターの生態はわからないし。いやでもなんで……」

「そういえば今日は調子がいい気がするのう。こう、翼を広げたときから体が軽いというか」

「……ひょっとして」

 一つの可能性を思いついた。だとしたらこいつ、すごく強くなるのでは?



「やっぱり」

 魔王にとっては二回目のアマチュア大会参加。C級決勝戦で、魔王は優勝した。全局圧勝。しかも決勝戦の相手は、前回負けた女の子だった。

「感謝するぞ、人間の娘よ。貴様に勝ちたいというのが、この数か月間の俺の頑張る原動力でもあったのだ」

 魔王に感謝されて、女の子は戸惑っている。

 正直、B級で出ても優勝できただろう。魔王は急激に強くなっている。

 最近は、魔王とよく出かける。できるだけ人気のないところで。そこで飛んだりものを変化させたり、できるだけ魔法を使わせるのだ。すると魔王の中で何かしらが起こり、将棋も強くなるのである。

 推測だが、魔王は人間界で真の力を発揮できていないのだ。魔王本来の魔法の力を使うことにより、脳内の潜在能力も発揮できるようになっているのではないか。

 最近は将棋の本を読んだ後、「そこそこわかるようになった」と言っている。これは文字通り、モンスターを覚醒させてしまったのかもしれない。

「ふふ、ふふふ」

 なぜか、悪の幹部のような笑い声が漏れてくる。僕は、何かにとりつかれ始めているのかもしれない。


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