第27話 仲間

「何か弁解はありますか?」

「ありません」

「ちょっと貴女、ユラ様に何をしているんですか!」


 現状況を少しだけ説明すると、僕は説教を受けていた。

 こっそり宿に戻った僕なのだが、当然の如くオニヒメさんが付いて来たために、寝ていたプルターニュさんにバレてしまい、二股をかけた男性の修羅場に似た状況になっていた。


「少し静かにしてください。シャルロットさん」

「では、ユラ様のこの正座を御止めになってください」

「それはできない相談です」

「なぜ!」

「止めたら何をしますか」

「夜と………げふんげふん………」

「駄目ですね」


 あぁ、何だろうか。少しだけこの説教が懺悔室かと思わんばかりに気が楽になる。

 ここでプルターニュさんがオニヒメさんの事を引き止めてくれなければ、僕はいろんな意味で危ない状態になりかけていたらしい。

 にしても、眠い。


「なんでダメなんですかぁ!」

「貴女が不純性交友を起こそうとするからですが?」

「それの一体、何が駄目なんですか!」

「不純だからです‼」


 確かに、不順異性交遊の駄目だと言われる所は、不純だからと言う点ではある。

 いや、他にもきちんと理由はありますよ?


「いいじゃないですか!」

「駄目に決まっているでしょう!」

「いいえ、良いはずです!」

「なら、もう一度何をしようとしたのか口にしてください」

「それは、夜とg………夜伽をするためです!」

「言い直されていなぁい!」


 何で、言い直していながらもその言葉は変わっていないんだ⁉

 言い直すのなら、もう少しましな言い訳をして貰いたいのに、何でそこで正直に答えてしまうのか。


「な、なぜです⁉ 夜伽をするためじゃダメなんですか!」

「駄目に決まっています! 貴女は夜伽の意味を知っているのですか⁉」

「夫と妻の夜の営みですよね!」

「知っているのならやめてください!」

「そうですよ。まず、まだ婚約もしていないではありませんか!」

「いや、しました!」

「???」


 婚約をした、と言われても何時した?

 僕の記憶には無いが、僕の記憶に無い所でもしかしてしたのかもしれない。

 だが本当に記憶が無い。


「本当に記憶が無いのですか! ユラ様!」

「記憶に無いです」


 うん、何度も考えてみるが記憶に無い。

 記憶に残っているのは、冥界の苦しみと悲しみ、そして、喜びだけが僕の記憶と言う名の、胸の奥で眠っている。

 そう考えると、思い出せば涙が出てくる。

 瞳から漏れ出しそうな感情の昂ぶりが流れ落ちそうだ。

 僕が幸せでいいのだろうかと、今この場の空気ですら、幸せに感じてくる。


「え………ユラ様?」

「ヘクトパスカル、君?」

「どうか………え?」


 すると、頬から何かが流れる。

 なんだ? と思い、頬に触れると、僕の頬に入って気の涙が流れちていた。

 先ほどまで、元気一杯に言い争っていたプルターニュさんとオニヒメさんは僕の顔を見た瞬間、驚いたような表情を向けていた。


「な、なんで、涙が?」


 僕は意図していないその涙に驚きながらも、頬に流れた涙を拭うが、まるで、堤防が決壊したかのように、涙は漏れ出していく。

 拭えば拭う程次々と、僕の瞳は気持ちを漏れだしていく。

 我慢しなくていいと、本音を漏らしてよいと、嘘と恐怖に包まれなくても良いと、そう言われている様な感じがしたのだ。


 すると、二人は何も言わずに僕の方へと近づいていき、僕の体をぎゅっと抱きしめる。


「………………………え?」


 当然、僕自身、その行動に驚きを隠せなかったが、二人の体は温かった。


 ―――――――あぁ、あたたかい。


 人の温もりが、どうにも、温かいと感じてしまう。

 胸の奥底が痛いと思う程、悲しいと思う程、苦しいと思う程、どうにも、僕自身の涙腺、いや、気持ちは脆く儚いものだったらしい。

 ただちっぽけな存在に抱きしめられているだけで、ここまで人の気持ちが漏れ出すのかと、そう安らぎさえも感じてしまった。


「何があったのか分かりませんが、このままでいいですよ」

わたくしもです。今はこうしていてください」


 暖かい体温がじっと僕の事を包み込む。

 優しく、嬉しく、認められたような気がしたから。


 あぁ、ほんとうに、うれしいや。


 そんな気持ちが漏れ出し続けると、僕の気持ちは止むことを知らず。ただずっと、頬から優しさを流し続けた。



 ――――――ありがとう。


 そんな気持ちを抱きながら。

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追い出し鑑定士、天職(人形師)につく!(打ち切り) 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami

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