第25話 DOGEZA HARAKIRI SYAZAI
崩れそうな顔面を必死に抑えると、僕はそのまま、気持ちを落ち着かせると、目の前に立っている女性は優しい顔で僕のことを見つめてくる。
だがその口からは何も語られるわけではない。
「オニヒメの令嬢……」
「はっ、なんでしょうか?」
「今宵はもう帰れ」
「!! ……ですが、それでは祭事の件は?」
「もうよい。父君に今後も行い続ける」
「で、では……」
「この村から解放しよう」
「!!」
そんな視界の端で、オニヒメさんとハーデースさんは何かの会話をしている。
オニヒメさんが驚いたような顔をしていたために、一体、何を話しているのかわからない。
だがオニヒメさんの表情は驚きから徐々に、その瞳から雪解け水のように涙を流し始めるところを見ると、ぎょっとなる。
「ど、どうかしたんですか⁉ もしかして痛い所とか! 辛いこととか⁉」
「い、いえ、大丈夫です。ですが、少し解放されたと思いまして」
「……解放された?」
「その説明は私がしましょう」
なぜ、オニヒメさんが泣いているのかと驚いていると、隣に立っている優しげな女性はオニヒメさんの肩を手に取り、僕に向かって話しかける。
その姿は、まるで、娘を思う母親のような、優しげな雰囲気と愛する気持ちが感じる。
「貴女は?」
「……もしかして、ペルセペネー様ですか?」
「えぇ、私の名前はペルセペネー。生と死の大地の神です」
「……え?」
神様?
なんと?
ペルセペネーと語る女性は、確かにその口から【神】という異例な存在の名前を言った。
それは、世界序列の中でも上位に入り、人間のみならずこの世界の中で生きようとする物なら、強者として地位、序列、力として勝てないことを知っている。その力は天災としてこの世界に影響を与えることゆえに、僕たちはそれらを絶対に勝てず、絶対に味方にならない存在として、僕たち人間は勝手にその未知の存在に【神】という概念現象を与えた。
そんな未知で、干渉をしない存在が目の前で人と同じように感情を浮かべ感情を向けていた。
「神、様?」
「はい、オニヒメ殿の村を守っている神の一柱です」
「……」
確認を取ってみると、どうもそれは事実らしい。
返答を聞かなければよかったかもしれないと、内心、そのようなことを思うが、すでに聞いてしまったことは取り返すことはできない。
「……もしかして、あちらのハーデースさんも」
「えぇ、我が夫は冥界の主人ですよ?」
「……」
あぁ、なんと無礼なことか。
僕は今まで神様相手に、礼節もなく、率直な反応で示してしまった。
それも、冥界の主人? となると、ここが冥界であり、死者の国ということになる。
そのような場所の主人となると、最高権利者。
地上で言う、最高神ゼウスに匹敵するものだ。
確か兄弟神だった神の名に、ハーデース、という名前を聞いたことはある。
冥界の主人であり、冥界の王。
その性格は厳格で冷酷、死者に対しては子のように思い、生者に対して残酷なほど厳しいと、どこかの書物で読んだ。
あぁ、そんな
「誠に申し訳ございません」
「!!?」
DOGEZAをするしかあるまい。
極東に伝わる、最高の謝罪と恩赦を見せる謝罪の最高形態。それを見せるしかない。
もし、これ以上の謝罪を必要とするのなら、最終奥義HARAKIRIをするしか……。
「何をしている?」
「え?」
「綺麗な土下座ですね。初めて見ました」
「いえ、え? ……え?」
急なDOGEZAに驚く、冥界の主人とオニヒメさん。そんな横で、興味津々な瞳を向けている。
だがしょうがないと思う。ここの世界の主人に迷惑をかけた。それだけでも重罪と言えないだろうか。
「君、やめたまえ」
「ですが、本当に無礼なことをしてしまいました! もしこれ以上無理だと言うのならHARAKIRIを!」
「やめたまえ」
「!!?」
すると、辺りは凍り付く。
さすが、冥界の主人と言うべきか、腹を見せようとする僕の体は見事にその言葉に対して、凍り付いてしまう。
「それ以上、生者の熱を出さないで貰いたい。それ以上は、我が国を酷く混乱に落とす。その熱や香りは死者には強烈だ。死者が地上に溢れかえったら、我は貴様を許さない」
「!!」
その言葉に真実味がある。
嘘偽りない、世界の言葉だ。重く苦しくなるほどの言葉が、僕の体を踏みつける。
秩序を守ろうとした保守的な人の、今を、未来を、きちんと見ている言葉だった。
責任を持つ存在が、責任を問う言葉を放つとこれ程、重いのかと再確認をする。いあっまで、自身に科していた存在を更に強くする。
「では、どうしてくれば許してくれるのですか?」
「許す? 許さない? なぜだ?」
「え………無礼な言葉使いをしてしまったので、その謝罪を」
「? 気にしていないが?」
「え⁉」
「神に対しての謝罪は、畏怖と何一つ変わらなぬ。それにこの場所で過ちをしていたのなら、その場で我が犬によって喰い殺されているはずだ」
「犬?」
キャン!
僕がそのように、声を言い返すと、冥府の主人の足元にいる可愛らしい子犬は元気よく吠える。
この子犬が、僕の事を喰い殺そうとしたのか………。
そのようなことを考えながら、僕は静かに冥界の主人のことを見つめる。
「我が冥界における番犬。それがこのケルベロスだ」
「ける、」
突如言われる衝撃の事実に僕は驚きながらも、冥界の主人のことを見つめる。
ケルベロス。地獄の門番。冥界の主人に続いて恐ろしい、冥界の番犬。死者の国から逃げ出す魂や存在を容赦なく食い殺す神話の怪物。
何よりこれほど可愛らしい顔をしているのに、恐ろしい名前を付けていることに恐怖感を抱く。
「見た目によりませんね……世界って」
「? 何を言っているかわからないが、人の目からしたらそうなのかもしれないな」
厳しい言葉だ。
事実、人はこの目が全て真実を認識をしてしまう。
嘘をつかれたとしても、人の耳はそれを鵜呑みをしてしまう。
何かと言われ、何かを見てしまうと、それを認識してしまうのなら、残念なことに真理というものには一切触れられない。
残酷なものだ、と僕の中で生み出されてしまう。
「………満足したか?」
「………えぇ、まぁ、少しだけ」
「では、貴方方に言いたい」
「なんでしょうか?」
「今すぐ、この国から出ていけ」
「………」
不愛想で、一件酷い言葉。
その言葉には恐怖さえ抱いてしまう。
だがしょうがない。僕達はこの国、この世界では余所者。
それもこの世界では、僕たちは害悪な存在。居てはいけない存在なのだ。
そのような存在は、射手はいけない。
誰かに害をなすのなら、その場から去った方が幸せになれる。
「分かりました」
「………そうか」
その事を理解した僕は、冥界の主人に対して了承の言葉を述べる。
冥界の主人の瞳には何も感情が篭っていない、死んだような瞳で僕の事を見つめてくるが、僕にはその瞳が人を悲しみに愛そうとする人間性を少しだけ感じられた。
「では失礼しました」
「失礼致します。ハーデース様、ペルセポネー様」
「えぇ、気を付けるのですよ。愛しい子たち」
「………父君によろしく頼む」
「はい、分かりました」
僕とオニヒメさんは、冥界の主人と女主人に対して別れの言葉を述べると、僕達は帰路に着く。
「君」
「なんでしょうか?」
帰路につこうとした僕に冥界の主人は、背後から話しかけてくる。
「今後はどうするか?」
「………東方に行く予定です」
「そうか、なら君は一度、ある者に会った方がよろしいだろう」
「ある者?」
「まぁ、行ってみれば分かる。その者の名は………××××」
「………そうですか」
僕は、冥界の主人にそう言われると、その体を今度こそ帰路に着かせた。
暗い冥界の中を、オニヒメさんから放たれる淡い灯りを頼りに荒れている冥界の道を歩いていく。
一歩ずつキチンを足を地面に着けて歩き続けると、徐々に淡い光が差し込んできた。
「もう、そろそろなんですね」
「えぇ、もうすぐです」
長かった。
大地の中をジッと居続けるのは、寒く、体感で感じる以上に長く感じられた。
「本当に、長かった」
だが、こんなの序の口だ。
今から、地上に出たら、この冥界なんて面白いと言えるほど、嫌で長い時間を覚えることになった。
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